1 着信
そろそろ寝ようと明かりを消してベッドに入った時だった。
暗闇の中で眩しいぐらいのイルミネーションとバンプオブチキンのプラネタリウムが鳴り響いた。
ケータイが鳴っている。
今は夜の12時、友達からだろうと思い枕元に置いてあるケータイに手を伸ばした。ケータイを開き着信先を確認する。その途端、折原祐司の表情が強張った。着信の相手は友達どころか親友の朝倉良平からだった。朝倉と電話で話すのはしょっちゅうの事だ。ただいつもと違うのは彼はこんな時間に電話をかけてきたりはしない。あるとしても特別大事な用事か『緊急事態』それだけだ。
『何かが起こった。』
祐司の頭の中でそんな考えが一瞬よぎったが咄嗟に通話ボタンを押していた。
「どうした?」
暗闇の中、打ちっぱなしのコンクリートの壁に祐司の声が響く。
「あのさ…」
「何だよ…?何かあったか……?」
「今、中学の時の友達から連絡あってさ、月島愛美の事、覚えてるか…?」
覚えてるも何もマナとオレは小学生の頃いつもベタベタで1番仲良くしていた女の子だ。
恋愛感情とかそういうものではなく、まだ子供だったし何より彼女はとても男勝りでいつも明るく女友達というより、どちらかと言うと男友達のような感覚だった。
頭も良く子供ながらきちんとした善し悪しを心得ていてオレが何か間違ったことをしようとするとちゃんと注意をしてくれる子だった。
オレは本当に彼女を誇りに思っていた。
言わば親友だった。
そう。過去形だ。中学にあがり間もない頃、突然彼女に彼氏ができた。それが些細なきっかけで少しずつすれ違いが生じて来て、少しずつオレらの関係も崩れてきたのは事実だ。と言うのもオレが一方的にマナを避けるようになっていった。オレは彼女にとって特別な存在だと思っていたがそれは大きな勘違いだ。そう思い知らされているような気がしたんだ。そして今、朝倉からの電話で数年ぶりに彼女、マナの事を思い出した。
「……。マナがどうかしたのか……?」
マナが誰かと結婚でもしたのか?できちゃったのか?なあ?そうだろ?そうなんだろ?それ以外に何があるってんだよ?なあ…朝倉…。
「………。事故で…亡くなったそうだよ……。」
……………?
一瞬、時が止まった。耳には何の音も届かなくなった。舌の上でそっと転がす。ジコデ…ナクナッタソウダヨ……ナクナッタソウダヨ……ナクナッタ……
「……。何だそれ……?」
「えっ?」
「まったく。タチの悪い冗談だな。」
「……。」
「だって冗談に決まってるだろ。悪質な嫌がらせだ。」
「ちょ…ちょっと待てよ。」
「でも…マナそんな、人に怨み買うような人間じゃないぞ。誰がこんな最悪な事。」
「……。そうなんかな…?」
「当たり前だろ。まっ、こんな事考える奴もちっちゃい人間だって事だよ。」
「……。そうだよ…な?…。」
「ああ……。」
「うん……。」
「…………。でも……もし…」
「ん?」
「また何か情報入ったら教えてくれ……」
「………。分かってるよ……。」
「じゃあ…またな…。」
「ああ。おやすみ…。」
朝倉からの電話を切ると何件かメールが受信されていた。
内容はバイト仲間から『明日のシフト教えてくれ』といったものや友達から『今度の日曜、欲しいもんあるから原宿付き合ってくれよ』などと他愛のないものだった。ただその中に一通、いやがおうでも目を引いてしまうメールがあった。それは、普段は連絡を取らない、メモリーに入っているだけの旧友からだった。中学の友達。
“まさか……”
数秒間、無言のままケータイのディスプレイをじっと見つめた後、メールを開いた。
『中学の時、同級生だった月島愛美さんが亡くなったそうです。連絡先を知っている人に回してあげてください。』




