表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The Ground
8/81

st.Ⅷ     The Gift

「えっと、今日は王室の歴史に、危険生物学、あとは……」


 今日のタイムテーブルを確かめつつ、持ち物を確認する。今日は朝食に大好きなフルーツが出たからちょっと嬉しい。鼻歌を歌いながら用意を進めていると、部屋の外が騒がしいことに気づいた。

 何? また巨大昆虫が出たのかしら。


 ここは林が近かったから、よく奇天烈な虫が入ってくることがあった。黒猫がじゃれてそれを追い掛け回しては、みんなキャーキャー言って逃げ回る。

 けどそれっぽくもないか。

 叫びと言うよりは、どこか興奮気味に囁きあっているような感じ。誰か珍しいお客さんでも来たのかしらと思っていると、部屋の前で足音が止まった。

            

「おはよう、マイスイートハニーベビーシュガー!」

「……ッ!」


 う、嘘、この声……。レオナルド公爵!? 

 大きな学校のようにだだっ広い上、ごちゃごちゃとしているサードクラスの居住棟。その中からどうして私の部屋が分かったんだろう。

 でもすぐに、ああ、あの後宮管理人さんに聞いたのねと思った。

 後宮には住居者リストのようなものがない(手紙等は一括して管理人さんの元へ届く)代わり、後宮管理人さん(初めに私をこの部屋へ押し込んでドレスを投げつけた人)が、何と数百人もいる後宮の女性全員が、どの棟のどの部屋に住んでいるのかを正確に把握していた。


「ねえ、起きてるんでしょう? オレのソフィア! マイスイートハニーベビーシュガーソフィアー!」


 こっ恥ずかしいことを言いながら、扉をドンドンと容赦なく叩きつける。サードクラスの後宮に突然の男性の訪問、それも美男公爵様の登場に、嫌でも私の部屋の周囲がどよめきたっていくのが分かった。何で? 何でこんなトコに朝っぱらから? いくらんでも自由すぎる。彼はフリーダム王国の王子に違いないわ……!


「開けてよ、ねぇ! ソフィアちゃーん!」


 でもこのまま放っておくわけにも行かず、渋々扉をゆっくり開けると、隙間からグイと手を差し込んで無理やり開け、そそくさと体をねじ込んで来た。左手には大きな箱を抱えている。


「おはよう、未来のオレの妻!」

「お、おはようございます」


 おんぼろな部屋と金髪美公爵様。全く持って不釣合いな光景だった。


「あの、ご用件は……」


 彼はアハハと笑いながら下の方を指差す。何?


「いやあ、朝起きたら太陽の代わりに‘オレの三日月’が昇っててさぁ。ソフィアちゃんに慰め――」

「ご用件はなんですかあっ!」


 何て物で何てモノを例えるの、この人は! このさわやかな朝からいきなり下ネタなんて!

 公爵はニタニタ笑うと、ベッドへ水玉模様の四角い箱を置いた。きれいにラッピングが施されてある。


「何ですか?」

「大人のオモ――」

「なぁんですかあっ?」

「ははは、ウブで可愛いなぁ」


 公爵は楽しそうに笑ってるけど、私は朝からどっと疲れる。彼が「開けてみて」とリボンの端を渡す。笑顔が怖いけど、大丈夫だろうとそれをスルリ引いて解いた。


「わあ……」


 中には金粉をちりばめたような美しいドレスが入っていた。シルクのようなとろける手触りに、私にも高級品であることが分かる。


「あの、これ……」

「替えのドレスが無いって言ってたから、オレからプレゼントしようと思って。今から学校に来て行ってくれてもいいよ」


 う、嬉しいけど……これ着て学校に行けだなんて。明らかに浮きまくること間違いなし! 

 地味っぽい洋服が多い中、一人お姫様のような格好で授業を受ける自分を想像して戸惑った。


「どう? 受け取ってくれるよね? ちなみに、いらないんなら捨てるから」

「え、は、はい。もちろんです、“公爵様”」


 それは彼のお気に召さなかったらしく、ムッとして口を尖らせると、私の体をいきなりベッドへ押し倒した。


「こ、公爵さ――」

「レオって呼んでっていったよね? オレの言うことが聞けないのかな?」


 またスカートの中へ手を入れて、太ももをスーッと撫でてくる。ちょっと、ちょっと……! ヴァンパイアとはいえ、王族に“レオって呼んで”なんて言われて、普通呼べるもの? 呼べませんよ! まあ、彼は呼べるんだろうけど。

 で、でもこの状況はかなりマズイ……。ああ今、ミセスグリーンがいれば!


「ほら、早く」


 彼の手がかなり際どい所まできていたし、据わった目が怖い。し、仕方ない――。


「れ、レオ……様」


 いくらなんでも呼び捨てにはできない。これが精一杯なの、お願い、分かって! 

 おそるおそる見上げた彼は、うーんと少し考え、


「なんかよそよそしいけど、ま、それでいっか。結婚前だしね」


 良かった、ありがとう神様。ヴァンパイアの国にいるのか知らないけど。


「そうだ、今夜来るでしょう?」


 いきなりそう言われても、ピンと来ない。


「“来る”とは?」

「オレの部屋……と言いたいところだけど、パーティーだよ。ほら後宮を支援してる貴族らとの」

「わ、私も行かなければならないのですか?」

「そうだよ。君の受け取ってしまったそれは、そのためのドレスなんだから。底に招待状も入ってる。じゃ、授業が終わったあとで迎えに行くよ」

「は、はい……」


 公爵が出て行ったあと急いでドレスをベッドの上に出すと、たしかにその下に黒い封筒が入っていた。このドレスは初めから普段用じゃなかったんだ。やけにきらびやかだと思った。

 それにしても――


 恐るべし、フリーダム王子(色々と)。


あとがき

 おバカに見えて、実は策士……いや、ただのエロ公爵か。下ネタ失礼!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ