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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The last Landing
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◆《特別番外編①》 上がった熱の冷まし方

■名無しさんからのリクエスト

『ソフィアが風邪をひいて、ザルクが看病をするお話』


 エド王子が生まれる前……?


「大丈夫か、ソフィア」


 執務を早々に切り上げていたザルクは、ベッドで苦しげに横たわるソフィアに声をかけた。

 今日ばかりはシュレイザーもすんなり早退を許可してくれたのは、看病の相手がソフィアだからこそだろう。


 ザルクは持ってきたお湯の張った桶を、サイドテーブルへ置く。


「すみません……ご心配をおかけしっ、ゴッホゴホっ」

「いや、心配ならいくらでも掛けてくれて構わん。今は身体を治すことだけを考えればいい」

「……ありがとうございます。」


 ヴァンパイアと結婚し、その血を飲んだソフィアは、純粋な意味での人間ではなくなっていた。

 しかし、身体のつくりが完全に変わるわけではないため、今でもたびたび人間と同じように風邪を引く。


 熱が出て、咳が出て、喉が痛む。


 ヴァンパイアたるザルクはそんな人間の病にかかることがないせいで、最初は彼女の身に何が起こったのかと酷く取り乱していた。


 だが、魔界の薬があれば、一晩で回復すると聞いて落ち着いてからは、メイドも驚くほど甲斐甲斐しく彼女の世話をしていた。


 タオルを絞り、ソフィアの額や頬の汗はたびたび拭ってやっているが、汗ばんでいるのは顔だけではないだろうと、そこまで神経が回るほどに――


 あの冷酷や非道と言われる男が、これほどまで熱心に妻の看病をしているなど誰が信じようか。

 食事まで食べさせてやっているなど。


「やはり汗が酷いな。ソフィア、着替えるついでに、身体を拭いてやろう」

「いえ、あ、の……っ、自分で」


 自分に気を遣って、ソフィアは身体を起こしながら言ってくれたが、こんな時は頼って欲しい。


「無理はするな。夫婦なんだ、こういうときくらい甘えてくれ」


 再び身体を横たえさせ、そっと髪を撫でる。

 ザルクの優しい言葉に、ソフィアは嬉しそうに微笑んだ。


「脱がせるぞ」と彼女のネグリジェに手を掛ける。


 そう、夫婦なのだから、やましい気持ちなど一切無い……はず。

 なのにザルクの気持ちは、やけに高ぶり始めていた。


 服を脱がせる以上、見えるものが見えてしまうが、当然、体の関係はある。


 それに、普段そういったときも、ソフィアが恥ずかしがるので明かりはかなり落としてしているものの、闇の住人である自分には光の有無など関係ないのだから、ソフィアの裸も隅々まで見尽くしているはずだった。


 それこそ、本人の知らないようなことまで知っているつもりである。


 なのに、やけに緊張する。


 メイドを呼ぼうかとも考えたが、めったに見せない彼女の甘えには、自分が応えてやりたい。


「お願い……します」


 そう言って目を閉じたソフィアのネグリジェのリボンを、シュルリと取って脱がしにかかった。


 ソフィアは風邪で意識が朦朧としているせいか、普段は着ているものを脱がそうとすると腕で身体を隠そうとするのだが、今、彼女の両手は身体の横へ置かれたまま。


 見放題……!などと不謹慎な事を考えそうになってザルクは頭を振った。


 そっとネグリジェを細い肩から引き下ろすと、ソフィアは何度か苦しげに咳き込み、シーツを握る。


「は……っ、んっ」


――ゴクリ


 汗と熱に浮かされる艶めかしい彼女に、ほとんど反射的に生唾を呑み込む自分が恨めしかった。

 徐々に露わになっていくマシュマロ胸に、俄然テンションが上がりそうになるのを懸命に押し殺す。


 ソフィアは風邪で苦しんでいるのだ。なのに、頬を赤らめて眉をひそめるソフィアに、“最中の姿”を重ねるなど――


 だがこれでは理性がもたないと、巧くシーツで彼女の身体を隠しながら、ネグリジェを脱がせた。

 誰もが思いつきそうなことだが、我ながら素晴らしい方法だとザルクは自画自賛する。


「ふ……拭くぞ……、ソフィア」

「っ……は、い」


 桶に浸して絞った温かなタオルを、彼女に掛けられたシーツの間からそっと差し入れる。


 何てことは無いはずなのに、妙にイヤらしいことをしているような気分になった。


 なるべく意識しないよう、肩や腕、まんべんなく上半身を拭くが、どうしてもタオル越しに伝わる柔らかな二つの場所にくると、全神経がそこへ集中してしまう。



 正直、その二カ所は他より時間をかけて丁寧に拭いた。



「さ、さっぱりしたか、ソフィア?」

「はい。ありがとう……ございます」


 そう素直に礼をされると、さきほど胸元を重点的に拭いたことに少々罪悪感を覚えた。


 そして、次は――


 タオルを絞り直すと、再びシーツに手を入れた。


 服を脱がし始めていた時から、すでにザルクの’男の部分’は、今のソフィアには到底見せられない状態になっていた。

 シーツで不自然に自分の腰を隠しながら、彼女の柔らかな腿を拭く。


 自分でも、盛りのついた犬かと少々情けなく思った。

 

 ザルクもそっち方面への欲望が強いことへの自覚はある。

 というより、ヴァンパイア全般的にそうだった。


 以前なら、後宮にいたたくさんの女性相手に発散していたゆえに、一人一人の負担は少なかったろだろうが、今はソフィアたった一人。

 自重できるところはすべきだろう。 

 

「陛下……」

「ど、どうした」


 起き上がろうとするソフィアを制して顔を近づけると、襟を引っ張られ、可愛い桃色の唇を押し当てられた。

 彼女の唇が熱かったせいか、ザルクの身体の熱が一気に上がる。

 

(マズい……)


 こんな状態のときに、彼女自ら追い打ちをかけてくるなど予想外もいいところだった。

 ’男の部分’も、一層自己主張を強める。


「あの……いい、ですよ」


 虚ろな潤んだ瞳に見つめられ、ドキリとした。


「い、い……?」

「少し、だけなら……」


 つまり“いい”とは、そういう意味なのだろう。

 自分はそんなに飢えた顔をしていただろうかと、うろたえる。


 熱のせいなのか、それとも自分で言ってしまったことへの恥ずかしさからなのか。

 ソフィアは耳まで朱に染めた。


「……っ」

 

 興奮の絶頂に達したザルクは彼女に覆い被さろうと、シーツに手をかけかけ――すぐに冷静にかえる。


「い……いや……、無理をしなくていいんだ、ソフィア」


 雄の本能をギリギリ理性で押しとどめ、優しく彼女の艶やかな髪を撫でる。


「でも……」

「正直その、確かに妙なことを考えてしまったが……君が苦しんでいるというのに、私だけ良い思いをするなど、そんなことは絶対にしたくない」


 格好つけすぎだと分かっているが、本心でもある。


 ソフィアは一瞬、苦しみを忘れたように笑みを零した。


「陛下……私は陛下の、そんな優しいところが大好きです……」


 愛して止まないソフィアに好きだと言われ、ニヤケが止まらなくなりそうになるほど胸が踊った。

 手際よく、洗い立てのネグリジェに着せ替えてやる。


「さ、もう休むといい。目が覚めた頃には、元気になっているはずだ」


 額に口づけを落とすと、ほっとしたようにソフィアはスッと眠りに落ちた。

 そんな彼女に布団をやんわりとかけてやり、自分も椅子に座ったままベッドの傍らに頭を乗せる。


「早くいつもの君に戻ってくれ。愛している、ソフィア」


 ブランケットを羽織り、彼女の寝顔を温かな眼差しで見つめた。




 ザルクはすやすや眠るソフィアを見つめながら、


『さあソフィア、よく効く”注射”をしてやろう。すぐにヨくなる』

『陛下……や……んっ』


的な妄想に襲われ続け、ソフィアとは別の意味で苦しみながら、一人悶々とした夜を過ごしていたのはまた別の話。



あとがき

 看病って言えるのか、これ……っ!?

 

 ご希望に添えていなさそうですが、名無しさん、リクエストありがとうございました!

 まだまだ募集しております^^

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