――《番外編》レオの想い
「ソフィー、昨日は何してたの?」
「き、昨日はウェランディ侯爵ご夫妻とお食事会を……」
「へぇ、そっか。楽しかった?」
「は、はい。すごく……」
部屋のカウチの背に腕を乗せ、ソフィアの髪に触れそうなほど近づきながら話しをする。
ソフィアはそんなレオナルドに顔を真っ赤にし、レオナルドはそんなソフィアを面白そうに見つめていた。
事実上処刑されたことになっているレオナルドは、普段変装の魔術で別人の姿で生活をしていたが、他に誰もいない時にはこうして本来の姿に戻る。
「オッホン!」
「へ、陛下、おかえりなさい!」
「何だ兄上。もう仕事終わったの?」
しかめっ面で戸口に佇むザルクの姿に、レオナルドはつまらなさそうな顔をした。
「レオ、ちょっと来い」
ポケットに手を突っ込み、冷視線を向けながら顎を逸らすザルクに、レオナルドはますます辟易とした表情を浮かべた。
「じゃあまたね、あ・ね・う・え」
ソフィアの頬に音を立てて口づけると、ソフィアは俯きながら耳まで赤くしてキスされた頬に手を当て、ザルクはギリギリと歯ぎしりして拳を握りしめた。
「いい加減ソフィアとベタベタするな!」
別室に入るなり、ザルクはそう怒りをぶつける。
だがレオナルドはどこ吹く風とばかりに、どかりと革張りのソファーに腰を下ろしてローテーブルに足を乗せた。
「何? 義きょうだいの仲を深めるのがそんなにも悪いことなわけ?」
「どう見てもお前は別の仲を深めようとしているだろうッ」
「偏見だ。妄想だよ兄上」
「とにかく! ソフィアはもう私のものだ。お前には別の女を用意してやる。色々と候補が」
「いらなーい」
ザルクがたくさんの見合い写真を出すか出さないかのうちに、レオナルドからまるきり気のない返事が返ってくる。
「いい加減ソフィアは諦めろ。お前とて、いずれ結婚して子を成すんだろう」
ザルクはなにも、嫉妬からだけでこんな話をしているわけではなかった。
いつまでもソフィアにばかり気を取られていては、今後まともな恋愛はできないという兄心があってのこと。
ザルクの言葉に、レオナルドは天井を見上げるようにソファーにもたれ掛かった。
「オレはさ、兄上。世間的にはもう死んだ存在なんだ。結婚とか子供とか、正直どうでもいい。オレはオレの好きな女を、ただずっと想っていたい」
ザルクは小さく嘆息する。
「お前がそこまで一途だとは、正直意外だ。パーティーでも何でも、言い寄られた女と関係があったんじゃないのか? 来る者拒まず、去る者追わずらしいと聞いたぞ」
「そんなプライベートなこと、兄上だからって言うつもりはないよ」
ソファーの背もたれに肘をつき、頬を乗せてこちらを流し見る彼からは、女なら一瞬で惚けそうなほどの色気があった。
兄にすらつかめない男。
こんな男の心をつかんで放さないソフィアは、ある意味大物だとザルクは思った。
「あーあ、一妻多夫制ならいいのに。あ、そっか。兄上が法律を変えればいいんじゃない?」
「恐ろしいことを言うな。だとしても、ソフィアが私を悲しませるような選択をするとは思えんがな」
「そ。そういうとこがまた可愛いんだよ、ソフィーは」
「とにかく、ソフィアのことはもう諦めろ。いいな」
ザルクはどうしたものかと、頭を掻きながら立ち上がる。
「それは無理かなぁ」
部屋を出ようとしたザルクに、レオナルドはそう言った。
「何?」
眉をひそめて振り返るザルクに、レオナルドは薄い笑みを浮かべる。
「だからさ、兄上。絶対オレに隙を見せない方がいいよ。……なんてね」
深海のような青い瞳に本気の挑発を湛えるレオナルドは、まるで美しい肉食獣のようだった。
あとがき
このあと、ビビってソフィアを抱きしめて離さない陛下の姿があったりなかったり(笑)