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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The last Landing
52/81

st.Ⅱ        The Declaration of War

長いかもしれないので二話に分けました②

「何をしに来た」

 

 ザルクはダンだけを部屋の一室へ連れ込むと、机の上に腰掛けてそう尋ねた。

 

「まあまあ、これまた立派な城に住んでるんですね。これ全部あんたのモノなんすか?」

 

 ダンはキャビネットの上に置かれていた物を、物珍しそうに触る。

 

「用件を言えと言っている。ヴァラヴォルフ」

 

「やっぱり……、ソフィアをあんたから引き離す」

 

 ダンはキャビネットにもたれかかると、ザルクの威圧感にも動じる様子もなく、じっとその目を見据えた。挑発的なダンの表情は、警官というよりは一人の男の顔つきだった。

 

「陛下……あなた実弟であるレオナルド様を処刑されたそうっすね。ブラッド法がらみで、王たるあんたを暗殺しようとしたとかで」

 

「だから何だ。弟だろうが何だろうが、私にたてついた者は許さん」

 

 ダンは何かを探すように胸ポケットを漁り、「止めたんだった」とタバコの空箱を、未練がましくまたしまい込んだ。

 

「あれで分かりましたよ。街で人間の女が消えたり、シルバーブレッド横流ししてたの、やっぱあんたらヴァンパイアだったんだって。報酬ちらつかせて、裏の者に人間集めさせて血を吸ってたってわけだ。ま、分かったところで貴族を逮捕なんてできねぇけど」

 

 豪華なシャンデリアを見上げるように、自嘲気味に笑う。

 

「こっちの捜査が全部無駄にはなるが、そっちで始末つけたって言うならそれでいい。ヴァンパイア同士のいざこざに興味もない。ただオレは思ったんだ」

 

 ダンはシルバーの瞳を鋭くすぼめ、ザルクを捉える。

 

「やっぱりあんたらは人間にとって危険でしかないって。何の不自由も無く暮らしている奴らが、処罰されるのが分かっていても、王を殺そうとしてまでも血を求めるなんて異常としか思えねぇ」

 

 ダンはもたれていたキャビネットから離れると、一歩一歩ザルクの元へ近づく。

 

「あんただってヴァンパイアだ。あんたはいつか、そのヴァンパイアの本能でソフィアを傷つける。抑えきれない衝動でソフィア壊す。その前になんとしてでも……ソフィアをここから連れ出してやる」

 

 目の前までくると、ピタリと足を止めた。

 

「確か後宮が取り潰しになったことで、ここの女たちは自由になったんすよね? 他の奴と結婚しようが、城を出ようが構わないって聞きましたけど」

 

「……話はそれだけか」

 

 ザルクはひどくつまらなさそうにそう言うと、ダンを肩ではねのけるように立ち上がった。扉へ向かって二、三歩歩き、半身だけ振り返る。

 

「ソフィアを危険な私から引き離したいのなら好きにしろ。ヴァラヴォルフごときにやれるものならな」

 

 上着の裾を翻し、颯爽とその場を後にした。

 

 

 **********

 

 

「どうしたんです、陛下。さっきから黙りこくって」

 

 陛下は急に部屋に訪ねてきたかと思うと、カウチで私の隣に座ったっきり、紅茶にも口をつけず、ただ眉をひそめて考え込んでいる。

 

「……別に自信がないわけではない」

「はい?」

 

 陛下の謎の独り言に首を傾げる。

 

「い、いや何でもない」と慌てて否定する。

 

 何でも無いようには見えないんだけど、言いたくないんなら仕方ない。

 

「……ソフィア」

「はい」

 

 名前を呼ばれたかと思うと、陛下は優しく顎に手を添えてじっと私を見つめてきた。

 こんなことを思うのはとても失礼だと思うけど、黙っていると、彼ほど格好良い男性は居ないんじゃないかって錯覚するほど陛下は顔が良い。

 切れ長の目も、筋の通った鼻も唇も、何もかもが人工創造物のように整っていた。見つめられると、すごくドキドキする。

 

 目も閉じずに近づいてくる陛下の真剣なまなざしに耐えきれず、ぎゅっとまぶたを閉じた。

 後頭部と腰に手を回され、体を密着させて口づけられた。お互いの体温を確かめるような、触れるだけのものだったキスが、何度も何度も角度を変え、そのたびに大胆に激しくなっていく。

 

 それをただ受け止めるしかできない。

 

 心臓がすごくうるさい。陛下の唇はとても柔らかくて熱くて、それを押し当てられるたびに頭から溶け出してしまいそうだった。

 

 部屋に響く口づけの音に、ますます恥ずかしさがつのる。

 

「ん……っ」

 

 カウチにゆっくりと背中から押し倒され、その上に陛下がのしかかった。その間も唇を離すことはなく、一層深くなっていく。陛下の息が、妙に浅くなってきているのが、ぼんやりしていく頭でも分かった。

 陛下の首に手を回すと、彼は興奮が増したように、私の頬を両手で包んで貪るようなキスをした。陛下の動きに呼応するように、カウチが小さく軋む。

 

 キスの上手い下手がどういうものかは分からないけれど、陛下はきっと上手いほうの部類に入るんじゃないかと思った。どうして良いのか分からず、ただしがみついているだけの私にちゃんと合わせてくれている。

 

 けれど、それが徐々に優しさと余裕を失って、どこか切迫したように激しくなっていった。

 怖いとは思わないけれど、いつまでも止まることのないキスに息苦しくなって思わず彼の背中を叩く。

 

「陛、……っ」

 

 それでも止めない陛下に、今度は強めに叩く。キスに夢中になっていたらしい彼は、ハッとしたように唇を離した。

 

「っすまない、やりすぎた」

 

 肩で軽く息をしながら、いたわるように潤んだ漆黒の瞳で見下ろしてくる。

 

「い、いえ、平気です……」

 

 新鮮な空気で息を整えていると、陛下はまたすぐに熱が戻ったように、とろんとした目で唇を押しつけ始めた。

 

「へ、陛下……っ」

 

 もうしばらく待って、と距離を置くように陛下の広い胸を押す。

 彼はそれでもあきらめきれないように、首を伸ばして軽いキスを何度もしたり、私の下唇を挟みながら、熱で潤んだ漆黒の瞳を向けた。

 

「自分を抑えるのが、君と居るときほど辛いことはないな」

「抑えてらっしゃるんですか……? これで……」

 

 十分熱烈なキスだったと思う。

 すると陛下は苦笑いをして見せた。

 

「君は分かっていない」

 

 私の頬を撫でていた手が首筋に下り、鎖骨を撫でる。ぞわりと腕に鳥肌がたった。

 ドキドキとする彼の仕草に固まっていると、陛下は胸に顔を埋めてそっとキスを落とした。反射的に体が強ばる。

 

「心配しなくていい。分かっている」

 

 大きな手で私の髪を撫でると、額にキスを落とした。

 

「君がいいと言うまで、ちゃんと我慢する」

「でも……その間に、他の人のところへ行ったりとか……」

 

「ほう、君もそうやって嫉妬してくれるまでになったか」

 

 整った眉を軽くあげ、嬉しそうに微笑む陛下に、心臓の鼓動と熱がますます上がる。

 私は顔を赤くするだけで何も言い返せなかった。彼の垂れ流す男性の色気にあてられたみたいに。

 陛下はわざとらしく考え込むと、

 

「そうだな、君以上に魅力的で、君以上に美しくて、君以上に愛しいと思わせる女がいたらそちらへ行くかもな」

 

 綺麗な顔に、胸のざわめくような意地の悪い笑みを貼り付けてそう言った。

 

「だが、そんな女は存在しない。君以上に愛せる女性など……」

 

 眉間に皺を寄せ、陛下は愛おしそうに私の頬を包んだ。すごく温かい。それに、手首につけているらしいいつもの香水が、ほんのすぐそばから香ってくる。それだけで安心した。

 

 愛情が目に見えるなら、それが彼の全身から湧き出るように現れて私に向かってくるのが見えただろう。愛していると、彼の吐く吐息からすら感じられる気がした。

 

「陛下……」

 

 それを合図に互いに目を閉じ、再びキスを始めたその時――

 

 コンコンとノック音が聞こえて、唇を合わせたまま動きが止まる。

 

『陛下。そろそろお戻りいただけませんか。そこにいるのは分かっているんです』

 

 くぐもった、シュレイザーさんの声が扉の向こうから聞こえてきた。そっか、出入りが自由になったから、ここまで直接陛下を迎えに来たんだ。

 

 構わずキスを続けようとする陛下の胸を押した。

 

「陛下、行かないと」

「あんな奴は放っておけばいい」

「で、でも」

「いいんだ」

 

『出てこないと、あのセンスの悪いプロポーズの言葉をここで叫びますよ。まさか使ってませんよね、ワインが何たらというやつです』

 

「――ッ!」

 

 陛下は真っ赤な顔で「永遠に出入り禁止にしてやる!」と憤っていた。

 


あとがき 

 愛の詩は陛下の自作。


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