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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The last Landing
51/81

st.Ⅰ        The Inner Palace

長いかもしれないので二話に分けました①

「よし、できた」

 

 噴水の縁にすわって、久しぶりに本格的に描いていた絵を満足げに空に掲げる。

 それにしてもさっきから後宮全体が騒がしいような気がするけど、一体何だろう。

 

「ソフィア! き、き、き、聞いたかいソフィア!」

 

 ミセスグリーンが慌てて近寄ってくると、私の肩の上でゼイゼイと息を整えた。

 

「どうしたの、そんなに慌てて」

「ここが無くなるんだって!」

 

「ここって?」

「ここだよ、後宮!」

「え……」

 

 一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。

 

 ――「ねえ、聞いた? 後宮が取りつぶしになったって話」

 ――「待ってよ、私たちはどうなるわけ?」

 ――「もう陛下には二度と会えなくなるの?」

 ――「嫌ぁっ」

 

 確かに、後宮の女の子たちの、悲鳴のような声があちらこちらから聞こえてくる。

 

「……ほ、本当に?」

「そうみたいだな」

 

 男性の声に振り返る。

 

「ぐ、グレイさん! どうやってここに」

 

 後宮は厳重な警備が敷かれてあって、陛下の許可無しじゃ入れなかったはず。

 

「今日から厳しい出入り口のチェックは無くなった。もはやここも、単なる城の一部だ」

 

 ほら、と言われて見た先には、男性貴族の姿がチラチラと見受けられた。

 それじゃあ、本当に本当なんだ。でも――

 

「わ、私たちは、どうなるんですか」

 

「貴族に嫁や妾、もしくは侍女として引き取られるか、奨励金をもらって城を出て行くかの二択だ。お前は陛下と婚約したんだろう?」

「こ、婚約はまだですけど……」

 

 一応プロポーズは受け入れてないつもり……だから。

 み、みんなはどうするんだろう。周囲を見渡すと、入ってきた貴族に媚びを売り始める女の子がさっそくいた。

 なんだか複雑な光景。

 

「ソーフィー!」

 

「アリス。ど、どうしたの、その荷物」

 

 アリスが大きな荷物を抱えて近づいてくると、それをドカッと地面に置いた。

 

「私にはお城の生活なんて、やっぱり向いてないって思ったの。きらびやかなドレスも、高い宝石も、高級なお肉もいらない。私は広い世界で、外で自由に生きて、自由に走り回って」

「アリス……」

 

 確かに、彼女に後宮は狭苦しく息苦しい世界だろう。風みたいに伸びやかな人だから、本当は今まできっと窮屈に暮らしていたんだろう。

 

「そしてこの金で、魔界一のギャンブルクイーンになるわ!」

 

 ぱんぱんに膨らんだ麻袋を誇らしげに掲げる。

 

 ギ……ギャンブルクイーン?

 それにそれって、自立支援ようの奨励金なんじゃ……。

 

「これを百万倍にしてやる! フフフフ」

 

 金貨の入った袋を見つめてヨダレを垂らす。

 止めるべきなのか、頑張ってと言うべきなのかすごく迷った。

 

「ミセスグリーンも応援してくれるでしょ」

「へえ……? ええ、まあ、あんたなら何か大丈夫な気はするね」

 

 曖昧に答える。

 ミセスグリーンも、私と同じ気持ちだったらしい。

 

「アリス……気をつけて」

「ソフィー。ええ」

 

 ずっと会えなくなるわけじゃないのは分かってるけど、数少ないここでのお友達と離ればなれになるのは、やっぱりすごく寂しい。

 お互い引かれ合う磁石のように抱き合った。

 

「ソフィー、あなたが王妃様になっても、私のことは友達だって思っていてくれる?」

「勿論、いつだって会いに来て。ありがとう、アリス……今までそばにいてくれて」

「私もソフィーといられて楽しかった。とっても!」

 

 アリスは名残惜しげに体を離すと、ミセスグリーンと握手を交わす。

 

「ミセスグリーンも、ありがとう。ついでにブラックさんも、さようなら」

「アリス、グレイさんだよ」

 

 

 

 何度も何度も、こちらを振り返りながら去って行く彼女の姿が遠ざかっていく。

 

「寂しいね、ミセスグリーン」

「そうだね。でも大丈夫。友達ってものは、クモの糸よりずっと丈夫なもので結ばれているんだから」

「私とミセスグリーンとも?」

「もっちろん!」

 

 視線を感じて顔をあげると、グレイさんがジッとこちらを羨ましそうに見つめていた。

 

「ぐ、グレイさんともです」

 

 そう言うと、納得したようにこっくりと頷く。

 あれ、この人ってこんな人だっけ。ちょっと可愛い……。

 

「ソフィア」

「――!」

 

 ドキッとして心臓が止まるかと思った。

 この声には弱いから……。

 

「陛下」

「ちょっと……」

 

 ミセスグリーンとグレイさんがいるからか、陛下は柱の陰から遠慮がちに私を呼んだ。

 

「ああそうだ。私もそろそろお洗濯物でもしなくちゃね。ゆっくりしてきてちょうだい」

 

 彼女が小さくウインクしたような気がした。

 

 

 **********

 

 陛下は湖の畔へ私を連れてくると、湖の方をじっと見ながら黙りこくる。ここは確か私たちが最初に出会った場所。

 ここで月の絵を描いていると、彼に突然話しかけられて……それからいろんなことに巻き込まれていった。

 今となっても良い思い出とは言いがたいけど、きっと意味のある試練だったんだって思いたい。

 

「今頃レオ様はどこで何をしているんでしょうね」

 

 そう話題を振ったけど、陛下は押し黙ったまま何も言わない。

 

「陛下?」

 

 顔を上げると、陛下は不機嫌を顔に貼り付けていた。

 

「私といるときに、私以外の男の話をしないでくれ」

「ああ、ヤキモチですか」

「ヤ、ヤキモチじゃない。ちょっと妬けるだけだ」

 

 それをヤキモチっていうんですよ、陛下。

 こみ上げる笑いの衝動を抑える。


「後宮、無くすんですね」

「ああ。私は君さえいてくれれば、それでいいからな」


 陛下は私に気を使ったんだろう。心遣いが嬉しい。

 

「それで、何か?」

 

 促すようにそう尋ねた。

 わざわざここへ来て、何もないということもないだろう。それにこのどこか張り詰めた空気。

 

「ああ……そうだな」

 

 彼の緊張が伝わって、私も背筋を伸ばして姿勢を正した。

 

「き、聞いてくれソフィア」

 

 オホンと咳払いして陛下は気をつけの姿勢で顎をあげ、頬を少し赤くして口を開く。

 

「き、君は私の月だ。荒野に咲く一輪の花だ」

「…………」

 

「き、君の笑顔は私の虚空のような心に満ち、私の心のグラスは、君というワインでいっぱいになる。え、永遠の愛というラベルを貼ったワインボトルに、私たちの愛を詰め込もう。それが逃げないようコルクで蓋をしよう」

 

 どこかからか拾ってきたのか、それとも自作なのか。陛下はガチガチに固まりながら、愛の詩を延々と唱え始めた。

 一生懸命考えたんだろう。きっと今だって、いっぱいいっぱい。

 

 嬉しい。気持ちはすっごく嬉しい。

 でも……なんだか、穴があったら入りたいほど、とても恥ずかしい気持ちになるのはなぜ?

 

「いかなる栓抜きにも、私は立ち向かいましょう。そして年々深みを増すワインのように、私たちの愛も年々深みを増して――」

 

 ああ、なんだか聞いていられないけど、耳を塞いじゃだめよね……やっぱり。

 

「だから、私と――」

「あのーすみません、便所どこですか。まだ来たばっかりなもんで迷っちゃって」

 

 陛下渾身のプロポーズをそんな言葉で遮られ、陛下は鬼の形相で振り返った。

 私は実のところ、ちょっと胸をなで下ろしたんだけど。

 

「お、お前……」

 

 私と陛下の視線の先には、軍服姿の、がっちりとした逞しい体つきの男性が立っていた。

 制帽の下から見える茶色の髪と、精悍で凜々しい顔つき。

 

 見覚えのある人だった。

 

「Schoen, Sie wieder zu sehen【またお会いできて光栄です】、お二方。大抜擢の末、本日付で城内護衛第一部隊に配属されました、ダニエル・ゾイゼです」

 

 制帽を取って軽く頭を下げる。

 

「ダ、ダンさん!」

 

 そう。

 伯爵さんとお城を抜け出した時に出会った、ヴァラヴォルフのお巡りさんだった。


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