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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The Landing
47/81

st.ⅩⅥ      The Prison

短いので二話同時アップ①

「ねえ、マイプリンス正気なの!? レオ君に会いに行くなんて!」

 

 血相を変えた伯爵さんが私の後を歩く。

 私は牢獄へと向かっていた。協力してくれると言ってくれた、ミセスグリーンとアリスと一緒に。

 

「許可が下りるわけないよ! それにもう時間が……」

「分かってます。でも、このまま見殺しになんてできません」

「気持ちは分かるけど……」

 

 伯爵さんの心配も尤もだった。今回の処罰は、私の時とは違ってれっきとした証拠も証言も揃ってのこと。

 その上で処罰されようとしているレオ様を、助けようとしたなんてことが露見すれば、私はきっとただではすまない。

 

 陛下だって……なんて思うか。

 

 それでも前に進もうとする足を止めることなんてできなかった。あと一時間で、何ができるのかなんて分からないけれど。

 

「男ならウダウダ言わないの」とアリス。

「そう、女は度胸! 時間がないならなおさら急がなきゃね」

 

 それに、頼もしい助っ人もいる。

 

 伯爵さんは私たちの勢いに気圧されるように、渋々ついてきた。

 何だかんだと言ってそばにいようとしてくれるのは、きっと彼なりの優しさなんだろう。

 

 **********

 

「鍵はあそこにあるはず」

 

 少し狭苦しいけど、透明マントに何とか三人と一匹収まって、ぶつからないように警戒しながらここまで来た。

 私は看守長さんのいる部屋を指さした。

 

「どうしてあそこにあるって、分かるの?」とアリス。

「前に牢に入れられた時に聞いた。マスターキーはあの人が持ってる」

 

「でも、どうやってその鍵を手に入れるのさ」

 

 不安げな伯爵さんに、

 

「そういえば、あんた幻術が得意じゃなかったのかい?」

 

 確かにそう聞いたことがあるような。

 前に後宮へもそうやって忍び込んでた。

 

 でも彼は今にも泣き出しそうな顔で、

 

「む、無理だよ! この中は魔術が使えないような仕掛けが施されてるんだから」

「け、使えない奴」

 

 アリスの言葉に傷ついたのか、伯爵さんはがっくり項垂れた。

 

「今は午後の一時半。ちょうどお昼寝の時間だわ」

「お昼寝って……どういう意味だい、ソフィー」

「ここの看守長さんはお昼寝が大好きで、午前十時と午後の一時と五時には必ず仮眠してるんだって」

 

 檻に入れられている時、見回りの看守さんが、ぼやいているのをたまたま聞いたことがあった。まさか役立つ日が来るなんて思わなかったけど。

 

 扉に近づき、そっと耳をつける。

 まるで雷のようなイビキが聞こえた。

 

「本当だ。相当のサボり魔ね」

 

 アリスはあきれたようにため息をつく。

 

「よぅし、アタシに任せなさい!」

 

 ミセスグリーンがそう言って扉の下の隙間から潜り込むと、しばらくしてヒョッコリ顔を出した。

 慎重にソロソロと外へ出てくると、彼女のおしりから出た糸の先には、

 

「鍵っ!」

「大~成功っ! クモを舐めるんじゃないよ!」

「しーッ!」

 

 ミセスグリーンはハッとして、肩をひそめたようになって、大人しくなった。

 

 

 **********

 

「さ、ソフィア早く!」

「うん」

 

「けど、公爵様は一体どこにおられるんだろうねぇ」

「僕にも分からない。大王様、僕にも教えてくれなかったから」

 

 その時、角から歩いてきた誰かにぶつかった。その反動でマントが落ちる。

 

 しまった……っ。

 

 全員の血の気が引き、自分でも顔が青ざめていくのが分かった。

 

「お、お前……」

 

 ぶつかったのは、見覚えのある褐色の肌の女性――シェイラさんだった。

 一瞬驚いたようにきょとんとしていた彼女は、眉をしかめ、怖い顔で私たちをにらむ。

 

「ここで何してんだ」

 

「お、お願いですシェイラさん、どうかこの場を見逃してください」

 

「なあ、まさか、あの公爵様を助けに来たなんて馬鹿なこと言わないよな? 分かってんのか? 状況を!」

 

「お願いします!」

 

 シェイラさんに食い下がった。

 ここまで来て、すごすごと引き返すわけにはいかない。

 

「無理だよマイプリンセス。女ヴァンパイアの彼女らはただでさえ虐げられているんだ。この上僕らを見逃したりなんかしたら、最悪――」

 

 伯爵さんが言い終わらないうちに、なぜかシェイラさんは別の方へと向かって歩き始めた。

 

「あーあたしも仕事のしすぎか。何か幻覚が見えた気がしたけど……酒でも呑んで気合入れるか」

 

「シェイラ、さん……」

 

「あ! そういえば公爵様は第七地下牢の一番奥だったっけなぁ。見回りはもうちょっと先でいっか」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 感謝してもしきれない。

 こんな勝手を、助けてくれようとするなんて――

 

「きっと、あんたの人柄のおかげだよ」

 

 ミセスグリーンにそっと頭を撫でられ、涙が出そうになった。けれど、今は泣いてる場合じゃない。

 泣くなら、レオ様を助けた喜びで泣かなきゃ。

 

 **********

 

「よりによって第七地下牢なんて!」

 

 伯爵さんは憤慨したように声を荒げた。

 

「それが何?」とアリス。

「普通貴族なんかの身分の高い罪人は専用の牢獄がある。檻があるだけで普通の部屋になってるんだ。大きいベッドがあって、机があって本が読めて音楽が聴けて。なのによりによって他の罪人と同じ牢獄に……大王様は一体何を考えてるんだ!」

 

「もはや貴族ですらない、ってことなんじゃない」

 

 陛下の気持ちが見えない。どうしてそこまで……。血のつながった兄弟なのに。

 

「ここだわ」

「うん。でも見張りが……。あれじゃ、いくら姿が見えなくても扉を開けられないわ」

 

 扉のそばには二人の看守。扉が開けば、彼らは確実にいぶかしがる。

 どうすれば――

 

「よし、こうなったらアタシたちが注意を引きつけるから、その間に」

 

 ミセスグリーンがぴょんとアリスの肩に飛び乗る。

 

「そんな、もし捕まったら……!」

 

「大丈夫。たとえ捕まったって、看守に賄賂でも渡せばなんとかなるって」

 

 どこで覚えたのか分からない悪知恵を披露し、アリスはにんまり笑った。

 止める間もなく素早くマントを飛び出すと、

 

「あれ? ここはどこかしら? 町から迷ってきてしまったわ~」

「本当だ。おかしいねぇ、どこからどうなってこんなとこに来たのかねぇ」

 

 二人の看守が一斉に彼女らを見る。

 

「おい、誰だお前ら!」

「待て!」

 

「ぎゃー何かが追いかけてくる~」

「アリス、早く早く!」

「分かってるったら! こっちよこっち~!」

 

「待て!」

 

 騒ぎ立てながら遠ざかっていくアリスたちと看守を見送る。

 

「よし、行こう、マイプリンセス」

「はい!」

 

 第七地下牢の一番奥。

 この向こうに――

 

 古びた鉄の扉を開く音は、悲しく鳴く雄牛の声のように聞こえた。


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