st.ⅩⅩⅦ La Fiancée
謁見の間に黒い羽のついたトランペットの高らかな音が鳴り響く。強く明快なこの楽器を操る奏者は、競争率千倍の狭き門をかいくぐってきた超エリートさんらしい。とはいえそんな彼の演奏もここでは単なるバックグラウンドミュージック。
床のタイルは数万マイル離れた離島から一つ一つ運んだ石から作ったものだし、天井を飾る金のシャンデリアは二百人の職人が二百年かけて製作した渾身の一作だという。八場面に分けて描かれた天井画『ラトゥーナス』は、魔界では有名な物語を元に描かれ、その一つ一つの細やかさは何時間見続けても飽きそうにはなかった。
そう、ここには世界の一流が揃えられていた。そこからこの強大な国の力が垣間見える。
金のツタで彩られた柱は、その姿を壁に半分以上埋められていた。聞いたところによると柱が壁にどのくらい隠れているかによって、こういった部屋の格式が変わるらしい。だったらここは文句なしにハイクラスのホールだわ。
十数段ある高座に、王がまっすぐ前を見据えて座っていた。その椅子ったら大きくてきらびやかで、普通の人が座ったらきっと椅子のオーラに負けてしまうだろうほど。けど、さすがにあの人はしっくり収まっていた。
彼は私がいることを知ってるんだろうか。早く謝らなくちゃいけないのに。それとも、もうどうでもいいと思っているのかな。
結婚するみたいだし。
「もうすぐ来るよ」
隣に佇むレオ様にそっと耳打ちされた。玉座の下で貴族たちが向かい合って並び、道を作っている。ここは当然身分順なんだけど、私はレオ様の横に立たせてもらってた。ありがたいけど、一般庶民出の私からすればできれば遠慮したい。アルカロッテやメヴェリーナとかいう、魔界最高級ブランドで上から下まで固めた周囲の気品に押しつぶされそうだった。指先にまで神経を使ってしまう。
もちろん私もレオ様の用意してくれたドレスに身を包んで入るけれど、何というか庶民出身の私には付け焼刃的な感覚が付きまとっていた。作法にしたって、本で勉強したのが役に立てばいいけど。きちんと授業に出ておくんだった、と今更ながらに後悔した。
ふうと小さく息を吐くと目元を隠す薄いベールが小さく揺れた。仮にも王の次なる婚約者と噂される女性が来られるというのに、後宮の女性がいてはマズイだろうというレオ様の配慮で。
とはいえ私からはベールをしているのを忘れるくらいクリアに前が見えているから、王女様もしっかり見えるはず。
王のお妃になる人……か。どんな女性なんだろう。
なぜか気分が落ち込みそうになって、ぎゅっと目をつむった。何なのかしら、これは。
ドン、と太鼓の音がしてハッと我に返る。
「ニュンペー国、第一王女。エヴェリーナ・ジェナ・カスタニエ・アキュアール様が到着されました」
な、長いお名前。
そう思いながらパチパチと拍手をすると、全員の視線が私に集まった。
あれ?
「ソフィア、拍手はいらないよ」
レオ様に小声で耳打ちされ、カッと顔が熱くなった。周囲からヒソヒソと笑い声も聞こえる。恥ずかしい。恥ずかしすぎるよ……。やっぱり私は庶民だった。
俯いたその時、誰かが手を打ち鳴らす音が聞こえた。上の方から。
「陛下……」
王が前を見据え、一人手を打っていた。乾いた音がホールに響く。やがて王のそれにつられるように、戸惑いながらもみんな拍手を始めた。
もしかして、気を遣ってくれたの?
礼儀も知らない私への嫌味かしらとも思ったけど、やっぱり嬉しかった。とても。レオ様も「兄上らしい」と小さく笑っていたし。
ギイッと巨大扉が開かれ、カツンとヒールが床を叩く音がした。
「……っ」
拍手の手が固まった。声を出すどころか瞬きすらできない。呼吸が止まるかと思った。
白に近いブロンドの髪はパールのように艶めき、雪のようにきらめく素肌に波を描いて揺れる。朝露のようなつやっぽい唇に、形のよい高い鼻、常夏の海のような輝きを放つマリンブルーのパッチリした瞳をしていた。
一歩足を踏み入れただけだというのに、その美しさに息をするのも忘れるほど一瞬で全てのものを魅了した。
彼女のお付きの女性たちはみんな目から下をベールで隠していたけど、その瞳の美しさだけでも容姿の端整さが伝わる。
「彼女らはニュンペー」
ニュンペー?
「確かニュンペーとは確か山や川なんかにいる精霊ですよね」
「そう。ヴァンパイアの王となる者は昔、ニュンペー国の第一王女と結婚していたんだ。その縁で貴族も彼女らの中から花嫁をもらってた。オレたちには女性が生まれないし、向こうは女性ばかりの国だからね。互いの利害が一致したってわけ。王と王女の場合は特に確約がなくても、自動的に許婚同士になっていた」
「人間の女性から結婚する人を選んでいたのではないんですか?」
そう投げかけると、レオ様はどこか言いにくそうに、
「数代前から人間の女性を伴侶にするようなったんだ。まあ何ていうか、彼女らは妻には不向きでね。早い話が、城内の風紀を乱す原因を作ってしまうんだよ。今だって――」
「どうかされたんですか?」
胸焼けでもしているように、レオ様は苦々しげな顔をしていた。
「見て、周りのやつらの顔。特に男」
それにつられて周囲を確認すると、みな頬を赤く染め口を半開きにしたまま惚けたように彼女に釘付けになっていた。まるで快楽のるつぼの中にいるような表情。奥さんらしき女性に足を踏まれても、まったく目を離そうとしてはいなかった。
「ニュンペーは男を惑わせるフェロモンを自在に操れるんだ。それがまたすごい強力でさ、抵抗できるヤツなんていないんじゃないかな。ま、オレには君がいるから平気だけど」
頭に軽くキスを落とされた。私がいるからというより、きっとレオ様の精神力が強いんだと思う。
「あぁ……効いてないのがまだいたか」
レオ様の視線の先を追うと、肘掛に肘をつきものすごく不機嫌そうな顔でこちらを睨みつける王の姿があった。
こ、怖い。
やっぱり私が来たこと怒ってるのかしら。そうよね、終わりにしてって言ったのは私だもの。それなのに。
レオ様が心配そうに私を傍に寄せてくれた。それに王はこちらを見据えたまま握りこぶしを震わせ、完全に怒りの様相を呈している。レオ様にも近づくなってこと? はあ、どうしよう。
「陛下、陛下……っ!」
「何だ」
王の一番そばで控えていたシュレイザーさんに小声で咎められ、王はやっと王女様が玉座のすぐ下まで来ていたことに気づいた。
「あ、ああ……遠路はるばるよく来てくれた。滞在中は存分に楽しんでくれ」
「ありがたきお言葉ですわ。陛下」
スカートを持って恭しく頭を下げる。
鈴の音のような声って、これのことだったんだと思った。すずらんが鳴るとしたら、きっとこんなふうに可愛い音がでるんだろう。上から下までこんなに魅力的な女性がいるんだ。
そんなことを考えていると、ふと王女様と目が合った。いえ、でも私はベールがあるから向こうからは見えていないはず。気のせいかも。
「陛下」
王女は花が開くかのようにゆったりと右手を上げた。
王はそれに応えるように、階段を下りていく。それに即座に周囲は反応し、男性は胸に手を当て、女性はスカートを持ってそれぞれ軽く頭を下げた。今度こそはちゃんとできたわ。『ハウツーお出迎え』(タウンバード・サロン 19892年 城下中央書店)を読んでおいてよかった! 拍手の件は載ってなかったけど。
「陛下」
王女のどこか泣きそうに震えた声に反応し、頭を下げながらチラッとのぞいた。ベールをしてるから大丈夫だろうと思って。
「ん……っん」
「――!」
王女は王の首へ手を回し、深い口づけを始めた。う、嘘でしょう? そんな出会って、も、ものの数十秒で?
あまりにしっかりとその光景を見てしまい、燃えるように顔が熱くなった。
「んんっ、陛下」
甘い声が謁見の間に響く。王も彼女へ手を回し、なんでもないかのように口づけに応じていた。
それにズキッとする。
痛い。胸がとても。ドレスを持つ手が震えた。
どうして。
私を本気で好きだと言ってくれた人が他の女性と婚約したから?
だったら私は、とても最低だわ。
「ソフィー、大丈夫?」
「へ?」
気づけばもうみんな顔を上げていた。
「あ、は、はい。ぼうっとしてしまっていました」
それどころか談笑しながら広間を出て行っている。
「今日は着いたばかりだから、限られたメンバーだけでの食事会をするんだ。さっき着替えた部屋へ戻れば、それ用のドレスを着せてくれるよ」
「分かりました。ではまた後ほど」
一旦そこを離れ、赤い絨毯の敷き詰められた広い廊下を歩いていった。ハアと小さくため息が漏れる。
「ねぇ、あなた、お名前は何とおっしゃるの?」
その美しい声に振り返った。
「お、王女様!」
朝日をあびる赤いチェリーのような、美しい笑みを湛えて私を見ていた。えっと、相手が女性か男性で挨拶の仕方が違うはずだったわよね、えっと……忘れちゃった。
「お名前ですわ、お名前」
一言何か話すたび、バラの香りが立ち込める。まるで言葉に香水が振りかけられているよう。
「そ、ソフィア・クローズです」
聞かれたことにだけ答えればいいのかしらと、何の作法も抜きにそう言った。王女は私のつけていたベールを強引に取ると上から下まで眺め(下を向いたときに見えたまつげの長いこと)、
「ふうん。こっちへいらして、ソフィアさん」
「え」
男性客を誘う高級娼婦のような、色っぽい雰囲気を全身に纏って、彼女は人差し指で私を招いた。あまりの優美さに思考が止まる。
その間に彼女の付き人に両脇を抱えられ、無理やり反対方向へ歩かされた。
「い、いえ、あの! 私はあっちに。あの!」
その抵抗もむなしく、王女の後ろにつき従うかのように連れられていった。
****
「わあ、すごい」
彼女に割り当てられた部屋は、ものすごいことになっていた。十分広さがある部屋なのに、彼女が持ってきたらしいドレスや小物やぬいぐるみや花で一杯になっていた。今もまだぞくぞくと彼女の付き人たちがせわしなく物を運び入れている。
何の香りなのか分からないけれど、ものすごく上品な甘い香りが立ち込めていた。
舞台女優さんの楽屋もこんな感じなのかしら。
「くつろいでくださって結構よ、ソフィアさん」
「は、はい」
王女が部屋に入った途端、彼女は(たぶん魔術で)一瞬にして裸になった。目のやり場に困ったけど、細い腰やその柔らかな体のラインがとても美しい。まるで芸術作品でも見ているみたいだわ。あまり見ちゃ失礼だろうけど。
彼女がミニドレスのようにオシャレなシルクのバスローブを肌の上に羽織ったところで視線を外した。
これはお家から持ってこられたのかしら。お店より品揃えがいいんじゃないかな。
ずらりと並ぶさまざまな形の香水やお化粧道具、どれも高そうないい香りがした。
いいなぁ。
「あら、結構地味なのはいてらっしゃるのね。あの方の趣味ですの?」
「え? あっ!」
何か足元の風通しがよいと思ったら、王女は私のドレスをめくり上げてしげしげと下着を見つめていた。
「な、な何を!」
「ねえ、ソフィアさん、あの方はどんなものがお好みですの?」
私のドレスからさっさと手を離すと、豪華なベッドの上に乗ったたくさんのトランクをあさり始めた。
「セクシー系? キュート系? 清純な白もありますわ」
下着を次々に持っては床へ捨てていく。選んでいるというよりは適当に放り投げているみたい。
「私はやはり可愛らしいピンクや情熱的なレッドがいいと思うのですけれど、好きな殿方の好みに合わせたいと思うのが女心ですわ。ね、ソフィアさん」
「あ、はあ」
「あなた、後宮の女性でしょ」
「――!」
今さっき話しかけられただけなのに。どうして分かったの?
彼女は“やっぱり”と言いたげに口元に弧を描く。
「私の直感は、外れたことがございませんの」
驚く私を歯牙にもかけず、金銀の小悪魔たちが縁取る鏡の前で下着をあてポーズを取る。でも呆れたようにそれを放り投げ、
「あ~ん、どれもイマイチですわ! 後宮の女性ならご存知でしょう? あの方の好み」
王の好きな下着なんて知らない。というかあの人のことだから、下着の下にばかり興味がありそうだけれど。
「ねえ、脱いでくださらない?」
「ぬ……、え?」
彼女が人差し指を空で回すと、私が答える前にハラリとドレスがひとりでに落ちた。いえ、ドレスどころか下着まで。
「お、王女様っ!」
う、うそでしょう? クエスチョンマークが全くもって役割を果たしてないじゃない!
無駄な抵抗と思いつつ、慌てて背中を丸め両手で体を隠した。
「あら、女性同士なんですから恥ずかしがることはありませんわ。殿方がご覧になったら鼻血でも流されそうな格好でしょうけど」
そりゃあ、あなたくらいきれいな体ならそうだと思いますけど。
「このタイプがいいかしら? それとも飾りのついたこっち? あ、ねぇ、これつけてみてくださいな」
ニュンペーっていうのは、こんなに強引なの? やっぱり私の合意なしにことは進められていく。まるでマネキンのように王女の選んだものをつけられ、彼女はしげしげと眺めた。愛らしい唇が軽くすぼめられる。
「う~ん。よくお似合いですけど、いくら何でもセクシーすぎかしら。初めてでこれじゃあ気合が入りすぎですわ。やっぱり殿方は恥じらいのある感じがお好きでしょうし」
生地の少ないほとんど裸と変わらないような薄いピンクの下着に、泣きたい心地になりながら俯いていた。胸の前の大きなリボンもむなしい。
お願いですから、もうご勘弁を。
その時、コンコンとドアがノックされた。瞬間、付き人さんたちはまるで敵を察知したプレーリードッグのように一斉に動きを止めた。かと思うと怒涛の勢いで散らばっていたものを隣の部屋へ移動させ始める。
え、何? 私はどうすればいいの。逃げるべき?
「どうぞー」
ど、どうぞって私はまだ!
下着姿のまま、急いでベッドの下へ身を潜めた。何だか私、前にもこんなことした気がする。
「陛下、いらっしゃいませ」
へ、陛下?
よりによって!
必死になって身をひそめ、何とか王女がごまかしてくれることを願った。
「準備中に申し訳ありません、王女」
「やですわ、陛下。敬語なんてよそよそしい。それに私のことは、エヴェリーと呼んでくださいませ」
そんなことはいいから、追い返してください、王女! 私は今、とんでもないことに!
「エヴェリー」
「はい、陛下」
お願い、早く!
「んっ……」
そんな甘い声の後、ドサッと重みでベッドの軋む音がした。あれ、これ、ま……まさか。
「あっ、陛下」
人の上で何しようとしてるんですかっ!
「は……ぁっ」
衣のすれるような音に、顔が痛いほど熱くなった。何てこと。こんな。王女様ぁあ!
「どうなさったの、陛下」
「いや、すまない。顔を見に来るだけのつもりだったんだ」
王は急にベッドから下り、彼の足元が見えた。それにホッと胸をなで下ろす。
「よいではありませんの。食事会までにはまだお時間もありますし、それに……夫婦になるのですから」
シュルリと紐のほどけるような音がして、パサッとベッドの下へ何か落とされた。
シルクのローブ?
それじゃあ王女は今……。
「陛下。ずっとこの日を待ち望んでおりましたわ」
王を追うようにベッドから下りた王女の、細くて白い素足が目に映った。近づきそのまま抱きつく。そして背伸びをする王女の足の裏が見える。
「ん……っ」
「ん、エヴェリー」
何でこんな。せっかく帰ってもらうチャンスだったのに、わざわざ引き止めてまで。
何かの嫌がらせ?
「陛下っ」
なぜかしら。さっきからとっても体が熱い。もちろんあの二人の甘い時間に酷く緊張しているけど、それ以上に傍のベッドの足にでも恋をしているみたいにうっとりとした心地になる。
もしかして、レオ様が言っていたフェロモンのせいかしら。女性にも効くぐらい強力になってるってこと?
王女の王への強い想いの表れなのかもしれない。
”離したくない”っていう。
「ん、申し訳ないが、エヴェリー」
それでも王は動じず、彼女の体を引き離した。普段はあんな感じでも、やっぱりとても強靭な精神をしてるんだろう。あんなキレイな女性に裸で抱きつかれて、あっさりと冷静に返せるもの?
「私も準備が」
「陛下ったら、レディーに恥をかかせる気ですの? 私、こんな格好ですのよ」
「楽しみは後でじっくり」
「あら、お上手。では今夜」
はあ、助かったぁ。
「それより、そこにいるのは誰だ」
え?
彼の革靴が近づいてきたかと思うと、大きな手に腕を掴まれ、乱暴に引きずり出された。
ど、どうしよう!
「一体こんなところで何……をっ」
見上げた先の王の顔が、一瞬で熟れたトマトのように赤くなった。
「そ、そそ、そ、ソフィア」
顔を真っ赤にしたまま目を見開き、黒目が落ちるように視線が下へと移る。そこは――
「いやあ!」
慌てて体を隠すように片手で胸を押さえた。腕はまだ掴まれていてどこかへ隠れることもできない。
「し、し、しし下着……姿」
大量の唾液が食道へ押し込まれる音が聞こえた。
「見ないでください!」
「み、見るなと言われても、め、め、め、目が勝手に」
だったら手を離して!
「彼女のランジェリーを選んでさしあげていたのですわ。殿方の目からご覧になって、どうです? これならきっと、レオナルド公爵様もお喜びになると思いませんこと」
王女はローブを羽織りながら少しイジワルそうに微笑んだ。
どうしてそこでレオ様が出てるの? それにこれは王女が陛下のために選んでいたんじゃ……。
腕を掴む力が強くなり彼を見上げた。頬を僅かに震わせ、憎しみを込めたように私を見る。瞳孔が萎縮して瞳が少し赤みを帯び始めていた。
「ほう、レオに見せるのか」
「こ、これは……」
「見損なったな。そんな尻軽女のような格好を、喜ぶ男がいるとでも思っているのか」
尻軽、女……。
「わ、私は――」
「いっそのこと裸で抱きつけばいいんじゃないのか? ん? どうなんだ! こんな似合いもせん、下品な下着を見せびらかせるくらいならなァ!」
「陛下! ひどいですわ!」
王女は庇ってくれたけど、彼の冷たい言葉は深く胸を突き刺さした。それを吐き出すかのように、瞳から熱い雫が零れ落ちる。
「申し訳、ありませんでした……っ」
「あ、そ、ソフィア、あの、すまない。言いすぎた。もう少し言葉を選ぶ――ソフィア!」
涙をぬぐって、彼の手を引き剥がした。いても立ってもいられず、そのままの格好で廊下を飛び出す。下着姿だったけど、誰かにすれ違ったかもしれないけれど、涙で周りの見えなかった私にはどうだっていいことだった。
あとがき
陛下「廊下でソフィアとすれ違った男は全員……」(-_☆)
→次回『The Dinner Party』これだけ未練タラタラの中、婚約は……。