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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The Ground
21/81

st.ⅩⅩ    The Vow

            

「はい、ここに足をかけて。1,2,3はい! OK! OK!」


 今日は魔獣学の実習で、サードクラスの隅にある広い乗馬場に来ていた。前から興味があったんだけれど、魔獣の数に限りがあることと先生の監視が行き届きにくくなるという理由で希望者の中で抽選が行われていた。応募者が多くて何度も外れたんだけど、やっと当たったみたいで嬉しい。

 総勢三十人ほどが集まって、最初に簡単なレクチャーを受けた後、いよいよ本番ということになった。


「はい次、君こっち来て」

「は、はい」


 でっぷりとした悪魔のグラトニル先生が、ふくよかな手で手招きした。そのたびに洋ナシのような鼻と腕の肉がふるふると揺れる。それと共にどこかケーキのような甘ったるい香りが漂ってくるのは、彼のポケットにたくさんお菓子が詰まっているかららしい。今も棒付きキャンディーをくわえながら生徒たちの相手をしていた。

 ちょっと緊張しながら一歩踏み出した。学校掲示板のカレンダーによると、今回は“スレイプニール”という魔獣の実習の日だった。一見ただの馬かと思ってよく見ると、なんと足が一本の足が二股になっていてひづめが八つもある。とっても足の速い、最高の軍馬……なんだけれど、やっぱりここはサードクラスだからなんだろう。ファーストでもセカンドでも受け入れてもらえなかったような、年老いた馬や、怒りっぽい馬、全然動かない馬や食べてばかりの馬など問題のあるものばかりだった。それに困っている子たちがちらほら見受けられる。

 私の前に現れたグレーのスレイプニールは、パッと見た限りは普通っぽい。でもどこかオドオドしていて、ちょっぴり体を震わせていた。少し臆病な馬なのかも。大丈夫かしら?


「ほら、ここに足かけて。1,2,3はい!」


 まだ全然準備できていないのに、グラトニル先生は問答無用で私の体をぐいと押し上げた。


「わわっ……」


 危うく向こう側に落ちそうになり、急いでたてがみにしがみつく。そんな状態だというのに先生はスレイプニールのお尻をパチンと叩き、さっさと次の生徒を乗せていた。


「い、いくらなんでも適当すぎるわ」


 恐る恐る手綱をにぎり、ゆっくりと体を起こした。きちんと教育されているから、初心者でも大丈夫って言った先生の言葉を信用する。本来スレイプニールは空を飛べるんだけど、ここのは安全を考慮してそれができないよう手綱に術式が組まれているらしい。とりあえず暴走さえさせなければ大丈夫よね。

 徐々に慣れてくると、いつもとは違う高いところからの景色と風に、もぞもぞと心がくすぐられた。高揚感と好奇心が香り立つブレンドコーヒーのようにまじりあう。スレイプニールも落ち着いているみたいでよかった。


「もう少しこうやって背筋を伸ばしてみて?」

「え?」


 突然声をかけられてそちらへ顔を向けた。


「あ、ごめんね。あなたのことよくウワサになってるから、つい知り合いみたいに感じちゃって……」


 そばかすがチャーミングな彼女は、ウェーブがかったブルネットの短い髪をゆらして馬をそばへ寄せた。「驚かせちゃってごめんね」と肩をすくめニッとはにかんだように笑う。

 こんな敵意の無い笑顔を見たのはいつぶりかしら。何だかちょっぴり感激……。話しかけられたときは、リザのこともあって正直ドキッとしたけど、彼女の笑顔に裏はなさそう。


「私はアリス・ドーソン」

「私は――」

「ふふ、知ってるわ。ソフィア・クローズでしょう?」


 私は「ええ、ソフィーでいいわ」と言って握手を交わした。


「あなたのおかげで、ここで威張り散らしてた子たちが大人しくなって、本当に感謝してるのよソフィー」


 内緒話をするかのように、手を口元に当てていたずらっぽい笑みを浮かべる。

 彼女は小動物のように愛らしくクスクスと笑った。何か話すたびに大きな眼をクルクルと動かして、とても表情豊かな子だった。

 こうやって誰かと話していると、すごく気が紛れる。かん口令のせいで彼女に本当のことは言えないけれど、それでも牢に入れられていた私を「災難だったわね……」と気遣ってくれる彼女の優しさが嬉しかった。

 その災難を巻き起こした挙句、“罪滅ぼしのため”なんて最低なプロポーズをしたどこかの誰かさんとは大違い。


 その時、突然周囲がどよめきたった。


「何かしら」

「そ、ソフィーあれッ!」


 興奮気味のアリスの視線の先の姿に、私はしおれたシェパーズパース(ぺんぺん草)のようにゲンナリした。


「皆、どうだ。乗馬の実習は楽しいか?」

「は、はい! もちろんですわ、陛下」


 王は周囲の女の子たちと会話しながら、輝くような笑顔を振りまいていた。彼の跨っている漆黒のスレイプニールは、すらりと足も長く毛並みもキラキラときらめいていて、王と比べても遜色のないくらいとても凛としていた。とてもじゃないけどサードクラスの馬とは思えない。

 自分のを持ってきたんだ。わざわざ。


 ジッと彼の方を見ていると、ふと視線がかち合った。胡散臭いまでに整った笑みを浮かべ、ゆったりとこちらへ手を振ってくる。

 それに応える気にもならなかったし、のうのうと姿を現す彼にとても腹立ちを覚えた。


「ね、アリス。向こうの方へ場所を移動しない?」


 そう声をかけた先のアリスは、ポヤーッとした表情で手を振り返していた。ダ、ダメ、あの顔に騙されちゃ! あれは人の皮をかぶった、変態と災いの化身なんだから!


「ソフィーもほら、振り返さなきゃぁ~」


 まるで酔っ払っているかのような赤い顔で、私の方へ笑顔を見せる。手を振っただけで毒牙にかけることができるだなんて。その恐ろしさに身震いした。

 その時、闇から舞い落ちるように降ってきた一匹のコウモリが、私の乗っていた馬の顔に翼をすり当てて通り過ぎていった。それに驚いたスレイプニールは“ヒヒヒヒヒヒヒィィ――”と前足を上げて暴れだし、めちゃくちゃに体を揺らして走り始めた。

 アリスも青くなって叫ぶ。


「ソフィーッ!」


 一瞬で乗馬場が騒然とした。私は振り落とされまいと、必死になって首筋にしがみ付いていた。それを嫌がったのか、馬は激しく首を振りながら柵を越え、林の中へと突っ込んでいく。頭がガクガクと振られて真っ白になった。


「待っ、て……ッ! お願い!」


 手綱を引けば止まるかもしれない。でも、この状況で上体を起こすなんて無理! 数十頭の馬を合わせたほどの速さに体が浮く。飛び出た枝が、顔や体をネコのように掻き、引っかき傷で血がにじんだ。 スレイプニールは私を振り落とそうとしているのか、ジグザグに走ってそのたびに体が大きく振り動かされる。自分の両手だけが唯一の命綱。とんでもないスピードに目もまともに開けられなかった。今にも手が離れてしまいそう。


「いやあッ!」

「ソフィア!」


 必死になってしがみつきながら薄く眼を開くと、陛下がすぐ横を並走していた。


「ソフィア! 掴まれ!」


 黒い髪を激しく風に揺らし、そう言って手を伸ばしてくる。


「む、無理です!」


 今、片手でも離せばどうなるか。おそらく体が吹き飛んで――


「いいか、この先は崖になっている! 今すぐこちらへ移るんだッ! 早く!」


 そんなこと言われたって……。枝に顔を叩かれ、荒れ狂う馬に今にも振り落とされそうになりながら、恐れだけが体にまとわりついていた。一段と激しく馬が体を揺らす。


「きゃあああ!」

「ソフィア、頼む! この手を取ってくれ!」

「そんな、できない……」


 涙で景色が滲む。王は進行方向に現れた木に舌打ちをして一旦距離を離すと、すぐさままた手を差し伸べた。


「頼む! 絶対に君を落としたりはしない! ソフィアッ! 手を取ってくれ!」


 零した涙の向こうに、まっすぐな漆黒の瞳があった。この手を握ってくれと、まっすぐにこちらへ腕を差し伸べている。

 やらなきゃ……。バカみたいに震えながら呼吸を整えると、思い切って手を離して王の方へ手を伸ばした。指先が触れ合った瞬間、一層馬が暴れだして手が滑ってしまった。


「きゃああああああ!」


 やっとのことでたてがみにギュッとしがみ付く。もうダメ……。そう思ったとき、王がギリギリまで馬を寄せて腰を浮かせた。


「へ、陛下!?」

「私がそちらへ行く」

「――!」


 驚く私をよそに、王は(あぶみ)から片足を抜いて馬の背中へ乗せた。この速度の中でそんなこと! 彼はこちらへ手を伸ばし、風にハタハタとたなびいていた手綱を捕まえた。もし馬同士がぶつかれば、確実にお互い跳ね飛ばされてしまう! そんな数インチの間を巧みに保ちながら、王は限界まで横へ迫った。


「陛下……っ、危険です、やめてください!」

「大丈夫だ、じっとしてろ」


 こんなときだというのに、王は微笑んでいた。どうして……。


「ソフィア、私を信じてくれ。ひどく傷つけてしまった分、今度こそは君を護ると誓うから」

「――陛下……っ」


 風が涙をはるか後方へと飛ばす。

 王は呼吸を整えると、タイミングをピッタリと合わせて一息にこちらへ飛び乗った。王の乗っていた馬は即座に自分から距離を取る。王が移った瞬間大きく振動が起こり、馬を一層刺激した。必死にしがみ付く私を片手で支え、もう片方の手に手綱を巻きつけて絡めとる。

 でもだめ、もう崖がッ!

 もう目の前にすでに道はなかった。間に合わない! 馬の後ろ足が崖を蹴った。

 ゆっくりとした時間が流れる。


「――っ、きゃあああああ」


 気持ちの悪い浮遊感のあと、まるで内臓が下へ引っ張られるかのように真っ逆さまに崖下へと舞い落ちていく。下から吹き上げる風で髪が視界を塞ぎ、あらゆる隙間から空気が吹き抜けていった。体が浮きながらも、すがるものを求めて必死にたてがみを握った。下にはゴツゴツした硬そうな岩が岸壁から突き出している。耳は塞がれたかのように風の轟音だけを響かせていた。

 もうこのまま……そう思った瞬間、小さな光が走った。

 馬は“ヒヒヒヒヒヒィィ――”と甲高い声をあげて上体を起こして前足を空で掻く。急に体が上へ引っ張られた。



「ソフィア、大丈夫か? ソフィア」


 そう声をかけられたけど、怖くて目が開けられなかった。


「もう大丈夫だ、ソフィア」

「――!」


 頬をなでる緩やかな風に、恐る恐る目を開けて息を呑んだ。

 私は空を飛んでいた。涼しい風が髪を通り抜け、やさしく頬を撫でて後ろへ通り過ぎていく。墨を流したような天空を、まるで泳ぐかのように滑らかに進んでいた。


「手綱の術式を解いただけだ」


 私はきっと、ものすごく驚いた表情をしていたんだろう。何も聞いていないのに王はそう説明してくれた。術式を解いただけだなんて簡単に言うけど、崖から落ちながら解除式を組み立てられるなんて。 これはさすがと言ってもいいのかもしれない。


「怪我はないのか? ん?」


 王は柔らかな手つきで私を抱き上げ、横乗りさせると、手綱を握る腕の間に収めて顔を覗き込んだ。でも思いのほかショックが大きくて、声が出ずただコクコクと頷く。王の服を掴む手がカタカタと小刻みに揺れていた。それに王はキュッと手を握り、髪を撫でる。

 まず思ったのはそう、お礼を言わなきゃということ。


「あの、へ、か……っ」


 喉まで震えているのか、それともカラカラに干上がってしまったからか、声が出てこない。王は笑みを浮かべると、手綱を持って前を見据えた。


「――?」

「気分転換をした方がいいだろう。君もこのスレイプニールも。少し空を散歩しようか」

 

 そうイタズラっぽく笑って、月へ迫るかのようにより高く空へ舞い上がった。


 わ……すごい。

 雲の中を通り抜け、初めてこの世界の町の明かりを見た。まるで星の絨毯のように散らばって、いくつかはまっすぐに移動している。それはまるでゆっくりとした流れ星のようで、天地が逆さまになったよう。

 それにしても随分大きな町。四方ずっーと先まで明かりが見える。だだっ広いまっ平らな大地が、どこまでも延々と続いているみたい。

 王の肩の向こうにはお城が見えた。改めてこうしてみると、やっぱりものすっごく大きい。その主がこの人なんだから、実は(というと失礼だけれど)すごい人なんだなとは思う。遠くの方で色とりどりの花火が噴き出す火山を見つめながら、ぼんやりそう考えていた。爽やかで穏やかな風に髪をゆらし、徐々に心が平静を取り戻していくのを感じた。

 今なら言える。温かな胸に頬を寄せながら口を開いた。


「陛下、ありがとうございました。で、でもこれであの事件のことをチャラにしたわけではありませんからね」

「ああ、分かっている」

「ですが今回助けていただいたことは、本当に心から感謝いたします」


 笑顔で王を振り仰ぐと、彼は不自然に髪を払って「あ、ああ」とぎこちなく答えた。

 王はオホンと咳払いすると、頬を染めたまま真剣な眼差しになった。頬に手を滑らせて漆黒の瞳でこちらを見つめる。


「き、キスならやめてください!」


 ちゃんとそう言ったのに、王はまるで聞こえていないかのように額へ唇を寄せ、頬にもゆっくりとキスを落とした。そのあまりの優しさに驚く。拒否するのも忘れていた。

 顔を離して見つめた先の彼の表情は、私に処刑を言い渡したときとは随分違っていた。あの自信と威厳に満ち溢れた、切り裂くような冷たい空気はない。瞳を揺らして眉をひそめ、どこか探るような、不安げな様子を見せていた。


 コツンと額同士をつき合わせ、ギュッと両腕で抱きしめられる。


「良かった、無事で。もし君にまた何かあったら、私はこのさき生きては行けん」


 喉の奥から搾り出されたように、ポツリとそう言い放った。

 そっか。もしかしてこの人は、愛するリザの犯した罪も二人分背負って、代わりにこれからずっと償おうとしているのね。だから私がいないと困るんだ。


「陛下、それほどまでに愛した女性をあんな風に失ってしまわれたのですね。確かにあなたは判断を誤ってしまいました。ですが私よりも心から愛する女性の言葉を信じたかったお気持ち、少しはお察しいたします」


 それに王は眉をひそめる。


「ん? 何の話だ?」

「何のって、リザですよ。婚約までなさっていたんですもの」


 王は短く「ああ」と言って額をかいた。


「そのことなら、そうだな、間違い……というか、なんというか」

「え?」

「あ、いや、あのような他人を陥れるような女に未練はない。それに、そもそも私は君が――」


 ゴニョゴニョと言いよどむ彼に首をかしげる。王は話をむりやり変えようとするが如く、「あぁ」と声を上げた。


「彼女らの処分が決まったぞ」


 それにヒヤリとした。もしかして、やっぱり王は……。


「あ、あの、陛下。私は彼女らを同じ目に遭わせたいだなんてことは――」

「分かってる。処刑処分にはしないことにした。彼女らのためじゃない、君のために」


 “君のために”?


 王は私の頬に指を滑らせる。


「それより聞いておきたい。彼女らは私の与える罰を受ける。なら私はどんな罰を受ければいい。いや、もっと正直に言おう」


 肺の中の淀みを吐き出すように、一度きつく目を閉じて開いた。


「私自身が落ち着かないのだ。君にあれだけのことをしておきながら、君とこうして話しているのが。いっそのこと、短剣で胸を貫かれたほうがどれだけいいか」


 黒曜石のような瞳が悲しみや苦しみに満ちていた。こんな眼をするんだ、この人も。


「ソフィア、私はどうすればいい」


 王から視線を外し、少し考えた。どんな、罰を……。


「あなたの心に、あの日のことを刻みつけてください。決して忘れず、もう二度と同じことは繰り返さないと約束してください。それが、私からあなたへ与える罰です、陛下」

「分かった、約束する」


 私は小さく息を吐くと、微笑んでそっと手を差し出した。まだこのわだかまりが消えていないことは自覚してる。でも、ここから新しく始まるのだと信じたい。そのための握手だった。

 それに王もすんなりと応えてくれる。


「いいお友達になりましょうね、陛下」

「もちろんだ。いいと……と、友達だと!?」


 王は突然我に返ったように、握っていた手を無理やり引き剥がした。ムッとしたように見下ろしてくる。何かマズかった?


「君は後宮と言うものが分かっていないようだな! そこにいる限り、身も心も王に捧げるべきだろう! “女として”!」

「あの、陛下は一体、私とどうなることをお望みなのですか?」


 どうして人対人 (ヴァンパイアだけど)ではなく、女性対男性でなければならないのかわからない。 というより、王の言動全てが謎だった。危うく処刑されかけて、陛下にそれを謝ってもらって、さあではこれからお互い頑張っていきましょうねという流れについさっき行き着いただけ。それがなぜ後宮がどうだのと怒るのだろう。そんなに後宮の女性を独り占めしたいの?


「お、お望みもなにも男女のことなのだから、どうなるか分からんだろう」

「それはつまり、私たちがいずれ愛し合うようになるもしれない、ということですか? ふふ、ご冗談を」

「……」


 王はふて腐れたように押し黙った。私の方を見ようともしない。


「あの、陛下?」


 居心地が悪くなってそう呼びかけた。すると王は突然「見ろ」と町の端を指差した。


「え?」


 その先を見た瞬間、唇の端を下から上にねっとりと熱いものが通りすぎた。


「――っ!」


 今もしかして……舐め――

 反射的にそこをぬぐって王をにらみつけた。彼の方はとても満足げに笑っている。信じられない! あんな古典的な方法に引っかかる私も悪いけど、やることが変態すぎる! それに王は女性に見境がないみたい、最低!

 怒る私とは反対に、王の私を見る目に熱がこもり始めた。今は二人きりで、当然助けもない。危ない空気をヒシヒシと感じ、彼が次なる言葉を発する前に急いで話題を変えた。


「そ、それで彼女らを、どのような処遇になさるのですか!」


 少し声が上ずったけれど仕方がない。王はチラッと町をみて、にんまりと笑った。


「もうすでに実行に移してある。他人を陥れようとしたのだ、今度は他人の役に立ってもらわんとな」


 それがどういうことなのか聞いてみたけれど、王は笑うばかりで答えてはくれなかった。



********


「まあ陛下が一般向けにこんなサービスを開始してくださるなんて、助かるわぁ。じゃ、よろしくね」


 そう言って、頭に角の生えたおばさんが嬉しそうに出て行った。


「ちょっと、何で私がこんなことッ!」


 リザたちは城外の魔豚小屋で、歯の開いた汚いブラシでゴシゴシと床をこすっていた。独特の獣臭が充満し、思わず顔をしかめたくなる。


「うるたい、文句言わじにやれよ、メス豚」


 丸々と太った豚頭人が、ポロポロとドーナツを食べこぼしながら命じる。


「豚に豚って言われたくないわよ! だいたいあんた豚なんだから、あんたがお仲間の世話をすればいいでしょが!」

「オレは豚じゃねよ! 陛下が直々に、お前らの監視係をオレに与えてくだすったんだ。あん方のご期待を裏切るわけにゃいかね。もっと腰入れてやれメス豚!」

「豚豚うっるさいわね! オス豚! 私を誰だと思ってるの?」

「元陛下婚約者、現ボランティア掃除人」

「もう、いやぁああ!」


 ブラシを放り投げて頭を抱えるリザに魔豚たちは意地悪そうに笑い、その上を空飛ぶスレイプニールが通り過ぎていった。


あとがき

 ソフィアは帰った後、すぐさま王に舐められたところを思いっきり石鹸で洗っているでしょう(笑)

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