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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The Ground
20/81

st.ⅩⅨ    Crime And Panishment

             

 巨大な収監所へ着き、入り口でレオ様が何やら申し入れると看守たちはすんなりと中へ通してくれた。あの時はいっぱいいっぱいで何も思わなかったけど、随分とおどろおどろしいところ。離島の絶対に脱獄不可能な牢獄みたい。


「あ、シェイラさん……!」


 案内を断って先へ進むと、壁際の椅子に座り、あくびをしながら監視する彼女を見つけた。

 周りに他の看守がいないことを確認し、レオ様に「彼女へお世話になったお礼を言いたいのですが」と訴えると「いいよ。話しておいで」と快く許してくれた。


「シェイラさん、お久しぶりです! 覚えてますか?」


 突然マントから顔だけ出した私に、彼女は一瞬ギョッとした。けどすぐに、


「ああ、アン時の。何してんだ? ここで」


 レオ様の姿を見つけると椅子から立ち上がり、胸に手を当てて膝を軽く曲げた。


「あ、あの、彼女に会いに」

「彼女ってまさかリザ・インスティテュートか? よく顔なんか見に行けんなぁ。あ、もしかしてぶん殴りにいくのか? だったらアタシも協力してやるよ!」

 

 黒い笑みを浮かべながら、彼女はポキポキと指を鳴らす。


「い、いえそんなんじゃ。ただ色々言いたいことがあって」

「色々ねぇ……あの女なら地下の特別監視室だ。本来あそこは普通の檻じゃ手に負えねぇ奴らが入るとこなんだけど、なんせあいつらはこの城にはいねぇことになってるからな」


 シェイラさんは椅子を横にして壁へやると、「こっちだ」と先を行く。


「案内していただけるんですか?」

「ああ、お前の血、すんげぇ旨かったからな。その礼だ」


 ごちそうさんとニッと笑われたけど、何だか変な気分だった。

 時々聞こえるうめき声やすすり泣き、囚人たちの好奇に溢れた視線の中を歩きながら、彼女はしげしげと私を見つめた。


「結構血を吸わせてもらったアタシがいうのもなんだけど、よく生きてたな。そんだけ生命力あんなら限界値までいっても大丈夫だったんじゃねぇか?」

「”限界値”?」

「人間が非人間化するライン40%の血液量を、限界値っていうんだ」とレオ様が説明してくれた。


「なるほど……」と頷く私の耳に、シェイラさんはそっと唇を寄せた。


「お前も気ぃつけろよ? 異性間の吸血行為ってのは、同性間と違ってすげぇ快感が伴うんだ。“ブラッド法”があるとはいえ、お前もボーッとしてると、いつこの優しそうな面した公爵様にガブッてやられるか分かんねぇぜ?」


 シェイラさんは言葉とは裏腹に、ククククとものすごく楽しそうに笑っていた。

それになぜか今日の待合室でのことを思い出した。首筋に指を這わせ、真剣な眼差しで私を見つめて……彼は一体何を言おうとしてたんだろう。

 ――まさか、ね。


「彼女に余計なこと吹き込まないでくれる?」

「あ、すんません」


 “ブラッド法”とやらのことも少し気になったけど、それよりも言っておかなきゃならないことがある。レオ様の方をチラリと見て、なるべく小声で、


「あの、シェイラさん。あの時はありがとうございました」

「え? “あの時”ってどの時だよ」


 ダイレクトにリザに襲われたときだとは言いづらかった。レオ様に聞かれたら、また心配をかける。


「あの、処刑場へ向かう途中。ほら……」

「ああ。あのトチ狂った女に目ん玉串刺しにされそうになったやつか。いいのいいの、大して労力使ってねぇんだから」


 も、ものの見事に全部言っちゃった……。


「ソフィア、それ本当?」


 案の定、殺気を漂わせるレオ様に「でも寸でのところで助けてもらったので」と言ったけど、多分まだ怒ってる。何て誤魔化そうかと考えていると、古びた鉄の扉の前に到着した。


「特別監視室はここを抜けたところに。ソフィー、ちょっとマントかぶってな」

「あ、はい」


 扉にはただれたおどろおどろしい文字で“特別監視室”と書かれてある。何だか恐ろしいものが待ち構えていそうで、思わず身構えた。彼女はノックをしてメッキのはげたノブを引くと、「さあさ、どうぞどうぞ。汚ぇところでございますが」とおどけたように中へ招き入れてくれる。やっぱり彼女は明るくて楽しい人。

 ここはチェックポイントのような所なんだろう。四隅には少々小柄の衛兵さんたちが立っていて、奥に鉄格子と鉄の二重扉がある以外は全く何もない小部屋だった。衛兵さんたちはレオ様の姿に、全員揃ってビシッと敬礼をする。


「何かここ、天井低くない?」


 レオ様はとても窮屈そうに身を少し屈めていた。私は大丈夫だけど、彼は私より随分背が高いから。


「囚人が自由に暴れらんねぇようにしてあるんですよ。なんせここに入れられるようなのは、ひどい奴らばっかなんで。監獄の方は高々としますけどね」


 その分厚い鉄扉を見つめる。この先にあなたがいるのね、リザ……。カラカラと鉄格子の扉が横へ開けられ、ギィッと重厚な音を立てて厚い鉄の扉が開かれた。目の前には下へと通じる階段。周囲を石で囲まれ、ヒタヒタと湿っぽく、どこか鉄臭い。レオ様が「案内はもういい」と告げると、シェイラさんは黙って頷いて扉を閉めた。マントを取って階段を下りると、靴の音が不気味に反響し、消えかけのランプの火が大小に揺らめく。


「あ、そうだソフィア。ちょっとだけここで待っててくれる?」


 前を歩いていたレオ様が突然振り返ってそう言った。


「いきなり君が行ったら向こうもパニックになるだろうし、オレが最初に話しつけてくるよ」


 頬にキスを落とし、一人で階段を下りて行った。色々気を遣わせてしまって、本当に彼には頭が上がらない。



***


 レオナルドはソフィアの視線を感じながら、階下にあった二枚目の扉へ入ってゆっくりと閉めた。囚人たちの不気味な唸り声があちこちから聞こえる。

 明かりはあるが、どこかどんより湿っぽく薄暗い。看守はここには配置されていないようで、囚人以外の人影はない。それもそのはず、みな檻に書き込まれた魔術で正常な意識を失わされているようだった。 ただうめき声をあげて、ぶざまに床へ倒れこんでいる。


「もうイヤ! どうして私が! 頭がおかしくなりそう!」


 やけにキンキンした女の声がした。何やら腹立たしげなそれを辿っていくと、すぐに彼女を見つけられた。一瞬にして湧き上がった憎悪の念を、必死に押しとどめる。


「やあ、久しぶり。義姉(あね)上。いや、今はただの極悪人か」


 冷たい床に座り込んでいたリザは、レオナルドの登場に顔をほころばせて格子まで駆け寄ってきた。どうやら彼女の檻の魔術は解かれてあるらしい。

 衣服は薄汚れ、顔も化粧がまともに施されておらず、城内で見たときの輝きはなかった。ソフィアも同じような状況だったろうに、救護室へ運ばれた彼女を見たとき不謹慎にも美しいと思ったというのに。


「公爵様、どうかお助けください! 私は決して悪くありませんわ!」

「ずっとそうやって否認してるらしいけど、ちょっと往生際が悪くない? 素直にごめんなさいって言ったほうがいいと思うけど。ま、どのみち死罪は免れないだろうけどさ」


 リザはそれに顔色を変えた。


「死罪……」

「まだ正式には決まってないみたいだけど、当然でしょ」


 彼女は唇をキュッと噛み締めた。だが次の瞬間笑みを浮かべると、目を潤ませて色っぽくレオナルドを見上げる。


「公爵様……どうかお助けを。お助けくだされば私、何でも言うことを聞きますわ」

「何でも?」

「はい」


 リザはレオナルドを誘うように、両手でドレスのすそをゆっくりと上げた。白い足が露となり、レースの下着がわずかに見えている。


「ああ、そういうこと」

「公爵様……っ、どうぞご自由になさって」


 熱っぽい声に、レオナルドは鉄格子へ近づくとその間からそっと手をさし入れた。彼女の柔らかな内腿を優しく撫で回す。この場には相応しくない、衣のすれる音と熱のこもった吐息が響いた。官能的なその手つきにリザは恍惚とした表情を浮かべた。


「ん……っ公爵様……ぁ」

「すごくイヤらしい顔だね。気持ちいいの?」

「は、い……っ」


 リザは悦びに浸るかのように、そっと目を閉じた。


「ここは?」

「あぁ……っ、気持ちいい、です」

「そ」


 レオナルドが妖しげな笑みを浮かべたその瞬間、リザは額に割れるような痛みを覚えた。急なことにそれが彼に胸倉を引っぱられ、鉄格子へと打ちつけられたのだと気づくのに少々時間を要した。

 “なぜ”と驚き入った表情でレオナルドを見上げる。その視線の先の彼は、ゾッとするほどに妖艶で恐ろしかった。その人形のように端整な顔を、唇が触れ合いそうになるほどに近づけてくる。


「悪いけどさぁ、オレは兄上のお古になんか興味ないんだよね。……勃たないんだよ、お前じゃ」

「そ、そん――!」

「オレも長く生きてるから、正直、女を殴りたいって思ったことの一度や二度はあるよ。けど……八つ裂きにしてやりたいって思ったのはお前が初めてだ、売女(ばいた)


 ビリッとするような怒りを感じた瞬間、リザを緑色の光が包んだ。足元にはいつの間にか魔法陣が浮かんでいた。レオナルドは掴んでいた胸倉から乱暴に手を離すと、ポケットに手を入れて冷たく微笑んだ。


「召喚魔術、I-28ヘルエンジェル」


 彼女の立っていた床はあっという間に地獄の血に染まり、どす黒い煙が噴出し始めた。まるで巨大な心臓が下から押し上げるように鼓動し、風の声とも不気味な唸り声ともとれる“ぉぉぉぉぉぉぉ――”という低音ヴォイスが渦のようになって反響し始めた。


「こ、公爵様……? ギャア!」


 何かに足首をつかまれる熱いような冷たいような感覚に、リザは震えながら足元へ目をやった。


「ぁぁぁぁぁぁぁ――」


 髪の長い女がそこにいた。目蓋のないまん丸な白い目、表面がどろどろに溶けた顔でジッと見据えていた。


「いゃあああああああ!」


 異形のそれに引っ張られ、バランスを崩したリザはビタンと腹から冷たい床へ倒れこんだ。そのままズルズルとどす黒い闇の中へと引きずり込まれてゆく。その中は驚くほどに熱く、体が溶けてなくなるような感覚が走った。この中へ入れられれば、どうなるかは察しがつく。

 鉄格子を掴んで耐え、泣きながらレオナルドを見上げた。


「た、助けてください……っ、公爵様ァ! お願いします、ごめんなさい! ごめんなさい! いや……もうしません! お願いです、助けてくださいぃ!」

「情に訴えようってか? 外見で判断するな。いくら人間の姿形をしていようとオレたちは――」


 ゆっくりとリザの方へ屈みこんだ。


「血をすするヴァンパイアだ」


 真っ赤な瞳に、今度こそリザは言葉を失った。


「あの、レオ様?」

「――!」


 その声にレオナルドは目を見開いた。


***


「ん? なに? オレを待ちきれなかったの、ソフィア」


 檻に向かって屈みこんでいたレオ様は、いつもの笑顔で立ち上がりながら振り返った。やんわりと私を抱きしめ、額に何度かキスを落とす。すごくくすぐったい。


「すみません。何か叫び声がしたような気がして」

「そう? 他の囚人じゃないかな。オレは事情を説明して、ちゃんと反省しろよって注意してただけだから。ねぇ……?」

「は、はひぃ」


 レオ様の視線の先には、ぐったりと床へ座り込むリザの姿があった。なぜかとても疲れたような引きつった表情をしている。


「ねぇソフィア……オレも付き添おうか?」

「いえ、一人で大丈夫です」

「分かった。じゃ、オレは上で待ってるから。何かあったらすぐに呼んでね」

「はい」


 レオ様が扉を閉めたのを確認し、私は彼女と向き合った。


「リザ……」


 リザは服の乱れを整えると、頬を震わせて立ち上がる。


「ソフィア……何しに来たの? 公爵様までたらしこんで、何て歪んだ性格をしてるのかしら!」


「リザの方が歪んでそうだけど」

「何か言った、ルルー!」


 どうやら他の三人も、すぐ傍の独房に入れられていたらしい。みんな飽き飽きした表情で座り込んでいた。


「リザ、はっきり言うわ。……謝って欲しいの、あの時のこと」

「はあ?」

「お願い」


 寒くもないのに、震えが止まらなかった。彼女の眼が、言葉が、笑顔が、全てが怖い。でも、謝って欲しかった。それであの事件に区切りをつけて、私の中で終わりにしたかった。

 リザは口元に弧を描く。


「フフフ。いいわよ、ご~めんなさぁい! これで満足?」

「そうじゃなくて……」


 どうして分かってくれないの!


「うるさいわね! うっとおしいのよ、あんた! 純粋そうな顔して、あの方を!」

「私が一体、何をしたというの」

「分からないなんて、あんたバッカじゃないの!? 本当にくだらない絵を描くしか能がないのね!」

「絵をバカにしないで! あれは――」

「ウッサイって言ってんのよ! ブス!」


 眼をキッと吊り上げ、彼女はそう吐き捨てた。一体何が私への憎悪をここまで膨らませているの。なぜあんな仕打ちを。話しかけられてお茶を飲んで、お話しして。それだけだったはずじゃない!

 私が悪かったのなら謝る。でもそんな原因となりそうなものが見つからない!


「陛下はね……陛下はこの私のものなのよッ!」


 “陛下”?


「私は別に陛下と何の関係も――」

「ウルサイウルサイウルサイッ! あんたなんかあの時さっさと処刑されていればよかったのに! 厚かましく生き残って、ノコノコとこんなところにまで顔を出してるんじゃないわよ、この死にぞこない!」


 リザは鉄格子を握ってガタガタと揺らした。私に対する憎しみをヒシヒシと感じる。


「リザ。本当にお願いだからちゃんと話を――」

「いい子ちゃんぶって何様のつもりッ!? あんたなんかのどこがいいのよ!」

「そんな話しに来たんじゃない!」

「尻軽のくせに!」

「ねぇリザ!」

「言っておいてあげるわ! あんたがどれだけあの方に擦り寄ろうと、無駄なのよ! アンタなんかじゃ相手にしてもらえないわ!」

「私は王と何の関係も無いって言ってるじゃない!」

「絶対に無理よ!」

「ちゃんと聞いてったら! 私が言ってるのは――」

「正室になるのはね、あの方に選ばれるのはこの私なんですからッ!」


「残念ながら違うな」


 静かで低い声が、スッと会話の隙間をすり抜けるように通り過ぎていった。これはと振り返ると、王がそこに佇んでいた。

 この殺伐とした雰囲気の中、この場に不釣合いなほどに美しく、そして凛としていた。これが王の威厳というものなのだろうか。


「へ……陛下……っ。あの、違いますの、これはその……ふふ」


 リザは慌てたように髪を耳の後ろにかけ、笑顔を取り繕う。王がなぜここに?


「ここから出してやろうか、リザ」


 それにリザは顔をパッと明るくした。


「陛下……やはり私を信じてくださるのね! そうです、悪いのはこの女――」

「ソフィアがいいと言うなら、の話だが」

「え?」


 わ、私? 王は漆黒の瞳で私を見つめた。


「君は彼女らの非であんな目に遭ったんだ。君にここの彼女らを裁く権利がある。生かすも殺すも、君が決めればいい。どうする、同じ目に遭わせるか? それとももっとひどい目に遭わるか?」

「そんなッ、どういうことですの陛――」

「ソフィア、どうする」


 どうするって……。どうしてそんな大事なことを、私が? リザの視線を感じた。


「あの、そ、ソフィア? ごめんなさい、あなたを陥れるようなマネをして。あの、あなたってすごく美人で純粋だから、嫉妬してしまったの。本当よ? え、絵もとっても上手でステキだわ! 羨ましい! 本当にっ……本当に、っく、ごめんなさぁいっ……」


 リザはさっきまでの態度を一変させ、涙を流して謝った。“可哀想に”。そんな風には思えなかった。私だってバカじゃない。さっきまでと全く違う様子に、彼女がここから出たくて言ってるってことくらい分かる。


「そ、ソフィア? 私たちだって反省してるわ? というかそもそもリザがこの話をもちかけてきたんですもの。ね、今度は私たちだけでお菓子パーティーをしましょうよ!」

「ちょっと、ニーナ、どういうつもり!?」

「本当のことじゃない! あんたが正室になったら、私たちもイイトコロの貴族との結婚に口を利いてあげるって言ったから乗ったのよ!」

「そうよ! ねぇソフィア許して、私たちだけはお友達でしょ? 悪いのはリザなんだもの。私たちも騙されてたの、お願い助けて?」


 ジェニファーたちは私に媚びるような視線を送り、無理に笑顔を作っていた。

 彼女らとのん気にお菓子パーティーだなんて、冗談じゃない……! 私は……私はッ!


「やはり認めるんじゃないか」


 王はぽつりと、呆れたようにそう言った。


「陥れてすまないだの、アイツが悪いだの。散々違うといっておきながら、やはりお前たちに非があったのではないか」

「あ……」


 助かりたいばかりに、ついポロポロと口を滑らせてしまったらしい。みんな苦々しげな顔をしていた。

 それを見て、空虚だった胸に何かがストンと落ちてきたような心地がした。

 今度はちゃんと……真実を確かめようとしてくれた。


「もう無理ね。あなたの負けよ、リザ」


 ルルーの言葉に、リザは唇を噛み締める。すっきりとは行かなくとも、あの件に少し終わりが見えた気がした。

 王を完全に許せたかといえば、まだもやもやとしたわだかまりが心を泳いでいる。でも、この人も変わろうと足かいてくれているのなら、ほんの少しだけ信じてみたい。恨むよりも、こっちのほうが救われる気がするから。

 ふと目が合った瞬間に微笑んだ。王はなぜか顔を赤くして目を泳がせていたけれど、何も照れることなんてないのに。変な人。



***


「ソフィア」


 リザたちから離れ、階段を上がる途中で王は私を呼び止めた。それに足を止めて振り返る。


「すまない、あのようなやり方は君を傷つけただろう」

「陛下……いいえ、平気です」


 確かに彼女らの本音と建前をありありと知って、少し暗い気持ちになった。でも、王がちゃんとあの事件のことを今後に活かしてくれるなら。今の気持ちを忘れないでいてくれるなら。


「そうか、よかった」


 ジッと私を見上げる王と、しばらく無言で見つめ合っていた。


「何ですか?」

「あ、い、いや……その、そ、そ、そうだソフィア」

「はい」


 王はツカツカと早足で階段を上がってくる。傍まで来ると、私の腕をキュッと掴んだ。


「君は、一体今までに何度レオとキスしたんだ」

「……え?」

「さっきそこで抱き合ってしてただろう!」


 み、見てたの? どこから?


「ひ、額に少ししただけです」

「何が“額に少し”だ、全く! 君は後宮の女だという自覚が足りん! 私が一度もしていないというのに、何なんだその差は!」

「後宮にいるなんて自覚、はなからありません!」

「今夜私の部屋へ来い。ベッドの上で、イヤと言うほど自覚させてやろう」

「お、お断りします!」

「では私から行く。必要品はこちらで用意するから安心しろ」


 ひ、必要品!? 何言ってるの? さっきちょっと見直したかもしれないと思ったけど、勘違いだった!


「来たら人を呼びます!」

「ハッ、他国の王ですらひれ伏すこの私に、逆らえる者がいると思っているのか? 次期国王の顔を早く皆に見せてやろうではないか」


 だからなぜ私がッ! 王はがっちりと私の後頭部を押さえ、顔を近づけてくる。


「ちょ、放してください!」

「私にも“唇に少し”キスさせろ!」

「いやですッ!」

「ははは、せいぜい粋がっているがいい。そのうち君のほうから私を――」


「なぁにやってんの、兄上……」


 階段の上からものすごい形相でレオ様が見下ろしていた。ハッとした王の足元には赤い魔法陣。

 少々間の抜けた叫び声が響き渡った。


あとがき

 リザはリザでした。

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