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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The Ground
19/81

st.ⅩⅧ    Inside of the Castle

            

「一時はどうなるかと思ったけど、本っ当に良かったわ、ソフィー」


 私の肩の上で、ミセスグリーンは私の頭を撫でながらやれやれと軽く息を吐き出した。少し照れくさい。

 数日後、私は無事に学校へ通えるようになっていた。ジンジン響いていた手首のしびれも、ひどかった傷口もレオ様のおかげで随分と良くなってきた。


「たくさん迷惑をかけて、ごめんなさい」

「迷惑だなんて思ってないよ。少なくともアタシたちはね」

「ふふ、ありがとう」


 嬉しいその言葉。私にできることは少ないけれど、その中でできる限りのことをしたい。この優しき恩人たちに。

 ちなみに王と私の事件は、王やリザたちを支援していた貴族の名誉のため、徹底したかん口令が敷かれてある。

 先の処刑云々に関しては、“別の者と取り違えた”なんてあり得ないことになっているし、王とリザとの婚約はもちろん解消だけど、病で困っている方々の力になりたいと泣きつくリザらを“慈悲深く寛大な王”が泣く泣く城から出してやったなんてことになっていた。

 それを聞いたときのレオ様とミセスグリーンの無表情っぷりは、今でも忘れられない。


 そっと灰色の空を眺める。あの時もそう、こんな大きくて白い月が出ていた。


「彼女らはどうしているのかな」


 それだけでミセスグリーンは、私が何を言いたいのか分かってくれた。たくさんの時間いっしょにいると、言葉少なでも分かり合える。


「今は牢に入れられてるって聞いたよ。ただ今も罪を認めてないらしいわ。あとは……陛下次第かね」


 どうするつもりなんだろう、あの人は彼女らを……。それを考えると、傷が少し疼いた。あの子たちを、同じ目に遭わせられたら満足? 


****


「会いたい、って本気?」


 別の日。リザたちに会いたいという私の言葉に、往診に来てくれていたレオ様が綺麗な瞳を丸くした。


「はい。彼女たちが今どうなっているのか気になって。ダメ……ですか」


 牢へ入るには許可が必要だし、そもそもそこは後宮の外。たぶん叶わないだろうなと思いつつ、一応相談してみた。

 レオ様はベッドに腰掛けたまま“う~ん”とあごに手をやり、


「後宮の女性といえど、君はあの事件の当事者だからね。希望するなら本来は会えるんだろうケド、何せ彼女らは城から出て行ったってことになってるからなぁ。君が牢を出入りしているのを見られるのはやっぱりマズイよ」


 ダメなんだ。“会って何を話すの?”と聞かれれば少し困るけれど、彼女らの現状をこの目で確かめたいのかもしれない。


「ああそうか。見られなければいいんだ」

「え?」


 イタズラっぽい笑みを浮かべる彼に、私は首をかしげた。


****


「あ、あの……レオ様」

「シッ。大丈夫、ちゃんと隠れてるよ」


 ほ、本当に? レオ様から手渡された、姿が消えるという黒いマントを頭から被り、後宮と城の境目にあるチェックポイントへ近づいていた。こんなので本当に通過できるの?

 レオ様は何事もないかのように内ポケットから三折の紙を取り出し、向かい合う二つのカウンターのうちの左側に乗せた。チェック終了を彼の後ろで待っているけど、背中から別のカウンターの巨大一つ目さんの視線が突き刺さっているような気がする。

 ここは相当に厳重な警備が敷かれてあって、壁際には大きな槍を持った巨大な岩男衛兵さんがずらりと並んでいた。ゴゴゴゴと石同士の擦れ合う音を立てながら私たちを見下ろし、他にも数人のブルドッグ衛兵さんがスンスンと鼻をヒクつかせていた。そのつぶらな瞳の眼光っていったらない。

 っていってるそばから目が合った! こ……怖いよ。


「妙な匂いシナイか」

「ああ、そだな。女だ」


 ヒソヒソと話すその声に心臓が飛び跳ねた。だって確実に私のことよね? 彼らはレオ様の方を目くばせし、身なりを整え咳払いをしてそっと声をかける。どうしよう、レオ様に知らせたほうがいい?!


「レオナルド公爵様。大変恐縮ですが、少々調べさせていただいても?」


 ブルドッグ1号2号さんがレオ様にそう声をかけた。し、調べられたりなんてしたら私……! レオ様に助けを乞うように見上げた。でも彼はただにっこりと笑っている。


「どうぞ? 気の済むまでいくらでも調べてよ」


 そんな、ど、どうしよう! そっか、これは今の内にどこかに隠れろっていう合図なのね!


「ただ治療でかなりの時間一緒にいたから、もしかしたら女性患者さんの匂いが結構ついてるかもしれないけどさ」


 それに私は上げた足を止め、ブルドッグさんたちは顔を見合わせ何かヒソヒソ相談した後「いえ、失礼いたしました。結構です」とゲートを通された。

 ……それだけでいいの?

 レオ様はクスクスと笑いながら、「オレって信頼されてるんだよね」と小声で言った。そういえばお世話係のミントさんも、彼の悪いウワサなんて聞いたことがないって言ってた。

 後ろを振り返ると、彼らはすでに持ち場へ戻って仕事を再開させていた。本当に一切疑っていないらしい。レオ様、ありがとうございます!


 誰もいないのを確認して、マントを少しだけ開けて周りの景色を見渡した。

 ここを通るのは初めてじゃない。あのときも通った。処刑の宣告を受けに行くときに。

 リザのアトリエに駆けつけてきた女性たちが衛兵を呼び、血を流して涙ながらに訴える彼女の証言を元に、私はしばらく後宮内の牢へ入れられていた。王が正式に処分を発表するからと手に縄をかけられ、殺人未遂犯を見る冷たい視線の中、私はここを通って行った。このどこか、どんよりとした細い通路を。


「ソフィー、こっちこっち」

「え?」

 

 レオ様はこの渡り廊下へ通ずる通路ではなく、城内へと続く太くて立派な廊下の方を指差した。


「ついでだから少し、城の中を案内してあげるよ」

「い、いいですよ……!」

   

 そんなバレる可能性をわざわざ高めなくったって。でも私はすっかり忘れていた。彼がフリーダム王子であるということを。


「遠慮しないで、ほら行こう!」

「せ、折角ですが今日は本当に……」

「いいから、いいから。オレと城内デートすると思ってさ」


 そうやって私の手を引っ張っていく。

 彼はとっても自由で、そしてそんな奔放さは彼の魅力をより高めていた。一緒にいると、まるで気ままに空を飛び回る鳥を見ているような、開放的で雄大な気分になれる心地がした。

 諦めたふりをして温かい手をギュッと握り返し、その実イタズラをするときのようなワクワク感を覚えながらその後をついて行った。



****


「うわぁ……すごい」


 まるで部屋のような昇降機を下りると、そこは執務室の並ぶ北棟の十階だった。大勢のヴァンパイアがいて、書類を持って走ったり、上司の後を軍人のようにずらずらついていったり、隅で雑談していたり。 みなさんそろいもそろって顔立ちがいいから、ちょっとドキドキする。


「このフロアは主に国の中核行政を取り扱ってる。経済や外交や法務、もちろん一番重要な判断は兄上がしてるんだけどね。皆エリート中のエリートだよ」


 これほど豪華で立派な造りなのは、国の中枢機関でもあるからなんだ。

 大きな窓からは真ん丸い月が顔をのぞかせ、金色のアーケードが見事な装飾を施されて高い天井を飾っていた。不気味な巨大怪獣の剥製がドンと置かれ、下から橙色の明かりで照らされている。ゴールドのプレートに説明が書かれてあったけど、一瞬だからよく分からなかった。

 壁にはこれまた大きな、バロック美術の絵が掲げられていて、天使と思しき背中に羽の生えた人が、黒い騎士に踏みつけられて楽園(エデン)から追い出されている情景が描かれている。人間界じゃまずない絵だけどここでは一般的らしい。


「この城の全体的な話をするとね――」


 レオ様はそう切り出した。

 正門をまっすぐ行くと、ずらっと長い正面階段があるらしい。その階段の手前、左右に貴族らが暮らしてる第一南棟と第二南棟が建ってる。最近古くなって改装したばっかりだからすごく新しいみたい。

 そして階段を噴水のある中腹辺りまで上がると、西側と東側にそれぞれ西棟と東棟があって、そこはこの北棟以外の国の業務や他国からのお客さんを出迎える来賓館、あとは婦人の館とか騎士の館、歌人の広間、競技場なんかの設備が整ってる。

 最後、階段を上りきったところにあるのがこの北棟。王やレオ様のような最上級貴族がこの上に住んでるらしい。これらは全て渡り廊下で繋がっていて、行き来は基本的に自由だとか。


「まあこんなとこかな、かなり大雑把だけど」


 私がどうやってここへ連れてこられたのか全く記憶に無いけれど、そんなに立派なんだ、このお城。北棟の裏にある後宮からは、北棟以外は何も見えないから。


「あれ、レオ公爵様!」


 眉のキリッとした利発そうな人がレオ様にそう声をかけた。


「ステップフォード」

「今日はお休みじゃなかったんですか?」

「ちょっと忘れ物を取りにね」

「そうですか。あ、それより今度はウチのチームが勝たせてもらいますよ!」

「お前さ、この間もそう言っておいて、結局すっころんで顔面打って泣いてたろ」

「い~やいや、今度こそ見ててください! オレの華麗な術捌きを! ハイヤーってね!」


 空中に何か描くようなそぶりを見せ、その人は無邪気に笑いながら立ち去っていった。

 チーム? そういえばレオ様の部屋に旗やら優勝カップやらが並んでたけど、あれのことかな? 確かXボードとかって書いてあったような。


「今度見せてあげるよ」


 この世界のスポーツなのかしら。その後も同じ話題で何人もの人に声を掛けられていたし(レオ様ってものすごく人気者みたい)、みんな少年のようキラキラした表情をしてから、この国で最もホットな競技なんだろうな。


***


 このフロアはちょっとゴチャゴチャしてるねと、レオ様は会議室の並ぶ一つ上の静かな場所へ案内してくれた。確かに足元を走り回る雑用係のゴブリンさんに、何度もぶつかりそうになった。

 ここは一階違うだけでかなり雰囲気が異なる。ホコリが舞い落ちる音すら聞こえそうなほど、静寂に包まれていた。


「へぇ、ソフィーにもお兄さんがいるんだ」


 待合室に並べられた美術品を鑑賞しながら、たくさんお話をした。ここには絵や彫刻なんかが展示されている。一部芸術性がよく分からないものもあったけど、壁に並ぶ絵はとても壮大で美しく、まるで本当に美術館のよう。それを一つ一つ見ながら色んなお話をした。好きなもの、住んでいた町、そして……家族のこと。レオ様はとても聞き上手で、思わず色々話してしまう。

 お兄ちゃんのことも。


「はい、六つ年上で。でも――」


 ギュッとネックレスを掴んだ。


「じ、事故で……亡くなってしまって」

「ごめん」

「いえ、そんな。でも兄は色んなものを私に残してくれたんです。絵も兄に教わりました」


 そう。お兄ちゃんの描く優しい絵が好きで、ああ私もこんな絵が描きたいってずっと思っていた。


「兄は私が生まれてすぐ亡くなった父の代わりに、本当に一生懸命働いてくれていたんです。その傍ら、絵を。川原に座って魚を描いたり、海辺へ行って貨物船を描いたり、丘へ上って町全体を描いたり。疲れていただろうに、いつも私を一緒に連れて行ってたくさん遊んでくれました。たくさんのことを教えてくれて、たくさんの幸せをくれました」


 お兄ちゃんのことを思い出すと涙がこぼれそうになる。悲しいからだけじゃない。お兄ちゃんのくれた幸せが、私の中から言葉と共に溢れ出してくるから。幸せだった、とても。


「なるほどね」


 私の顔をじっと見つめていたレオ様がふとそう言った。


「どこか君には、男に対する警戒心が見当たらないと思ってたんだ。今もこんな人気のないところで、オレと二人っきりだしね」


 指の背でゆっくりと頬をなでられた。


「けど、そんな優しい男が一番君の近くにいたんじゃそうなるかもね。本当はもっと危険で怖いよ? オレたち」


 本気なのか冗談なのかよく分からない、どこか挑戦的な笑顔。


「そ、そうですか? ですがレオ様はお優しいと思います」

「それはどうかな。少なくともオレは、君を妹としてではなく女性として見てるんだから」


 レオ様は急に声を落とすと、そっと体で私を壁へと追いやっていく。


「あ、あの……?」


 いつも何気なく一緒にいたけど、真っ白に透き通った肌、柔らかそうな金色の髪、ランプに反射して輝くサファイアブルーの瞳。間近で見ると、その美しさがいかに際立っているのか再認識させられる。

 首筋を白い指でなぞられ、少しゾクッとした。何だろう。何だかいつもと少し様子が違う気がする。目の奥にどこか不安をあおるような光が瞬いていた。そのまま彼が何か言いかけたその時――


『お願いいたします陛下ァア!』


 突然、廊下から大砲のように大きな声が轟いた。

 なんだろう、と二人で待合室を出ると廊下の先の方に声の主を発見した。


「あれ兄上たち。廊下で何やってんだ?」


 王とその後ろにもう一人、つやつやした紫色の髪の男性が控えていた。“ディスイズ高貴”と言わんばかりの気品。


「あれはシュレイザー。兄上の補佐官だよ」


 国王の補佐官……なるほど頭がすごくよさそう。

 その二人の前で膝をついているのは、ものすごく体の大きな牛頭人だった。両膝を折って屈んでいても小山ほどはある。レオ様たちと同じく高貴そうな人だけど、その身からは何やらものすごい必死さを感じた。お付きの人たちなのか、同じような姿の人たちが数人、彼をなだめようとしているようだった。


「あぁ、なるほど。あれはミノタウロス国の王。隣国に攻め込まれそうになってるって聞いたから、応援を要請しに来たんだろうね。あそこはそこそこ規模が大きいけど、周辺国との仲はかなり悪いし、最近国家プロジェクトとして大きな設備投資をしたからお金もない。唯一頼りにしていた同盟国にも裏切られたらしいしね」

「それで陛下に頭を下げているのですか、あの人も王なのに」

「ウチが応援につけば、その話だけで片がつくと思ったんじゃないかな。かなりせっぱ詰まってるとみた」


 応援の軍を送らず、話だけで?


「近隣には数え切れないほど国があるけど、ウチはずば抜けて強大な力がある。兄上の言葉一つで他国の情勢に影響を与え、兄上の嗜好品一つで経済が動く。兄上を中心に世界は回っているといっても過言じゃない。同程度の力を持つのは白龍国くらいだけど、あそこだってここへは容易に手出しできない。そもそもヴァンパイアは元々魔力が強いのに加えて、兄上はずば抜けてるからね。実質、この世界の王ってとこかな」


 そう言って肩をすくめる。サラッと言ってるけれど、ものすごくすごい。

 王はため息をつき、冷たくミノタウロス国王を見下ろした。


「ミノタウロス国王。仮にも頂点に立つものが、部下の前で無様な姿をさらすことはないでしょう。さっきも申し上げた通りお受けできかねます、どうぞお帰りを。シュレイザー、明日の会議は時間を変更してくれ」

「承知いたしました。では午後に回します」

「陛下ぁ! 陛下! これをご覧ください! 我が国民たちの血の嘆願書でございます!」


 ミノタウロス国王は王の進路を塞いだまま、厚い封書を取り出した。それを陛下は鼻で笑う。


「メリットは」


 その言葉に、ミノタウロス国王は顔を上げる。


「あなた方の国を助けて、我々に一体何のメリットがあるのです。あなた方のような弱小国相手では、高額な賠償金も見込めないでしょう」

「ナノソドール地方を譲渡いたし――」

「我らには十分に豊かで広い国土がある。いまさら田舎国の寂れた土地などもらうほうが迷惑だ」

「で、では金200万メセブ(1メセブ≒103円 約2億円)献上いたします」

「200万……魔豚小屋でも改修しろと? 話は200億メセブ(約2兆円)からお願いしたい、ミノタウロス国王」

「そ、そんな……わが国の国家予算だって――」

「無理なら結構。では」


 嘆願書を手に頭を下げるミノタウロス国王にも、陛下は全く意に介さなかった。まるでその辺の石ころのように、ぞんざいに扱う。ヒドイ。もう少し話を聞いてあげたっていいのに。

 ミノタウロス国王はあっさりと話を止めて通り過ぎていく陛下に体を震わせ、歯軋りをし始めた。ビリビリと空気が震える。


「この……ヴァンパイアごときが調子に乗るなぁああ!」


 ミノタウロス国王が空気を切り裂くような大声を上げて立ち上がると、奇声を発しながら両手を広げた。その途端に全身の筋肉が膨れ上がり、血管が不気味に浮き出始める。


「だあああああああああああ!」


 空気がビリビリと震える。その勢いのまま空中に真っ赤で巨大な魔法陣を描きつけた。ものすごい迫力と巻き上がる突風に、マントや髪がバサバサとはためく。恐怖で体の芯が冷えていった。

 赤色は確か攻撃系の術……。魔術の強さは魔法陣の下部に書かれる文字で分かると習ったから。あれは――


「ギーメル……」


 私が思い出すより早く、レオ様が私をその背に隠しながらそう口にした。“ギーメル”? えっと確かAランク魔術で、攻撃系なら国の半分を壊滅させ、防御系なら数十万の兵を守り、医療系なら深い傷も一瞬で治せるって。

 そんなとんでもないものを、こんなところでやっちゃったら……! どうしよう! 危ない、ここから離れなきゃ! 半ばパニックに陥る私とは裏腹に、レオ様はそのまま一歩もそこから動こうとはしなかった。

 どうして?


「私の全魔力をこの魔法陣に組み込んだ! この国ごと吹き飛べぇええええええ!」

「吹き飛ぶのはあなただけですよ」


 猛るミノタウロス国王とは対照的に、穏やかな口調でシュレイザーさんは足元を指差した。その足元には、青白い魔法陣がくっきりと浮かび上がっている。青は防御系の魔術。ランクは――

 ミノタウロス国王は、顔を真っ青にして大きな足を震わせた。


「ア……アレフ」


 Aクラスのギーメルよりはるか上、魔術の中の最高にして最強クラス。SSSランクとも言われるそれ。威力もすさまじく、攻撃系なら一瞬で近隣国をも破壊し、防御系なら何百万もの兵を守り、医療系なら瀕死の重傷でも一瞬で回復させると教わった。医療系ではこのレベルを扱えるのは世界で唯一レオ様だけ。私はそのおかげで助かったようなもの。

 相当の魔力とセンスが必要で、一種の天賦の才が必要といわれるレベルのものを、ホコリでも吹き飛ばすかのようにたやすく。


 ミノタウロス国王は、絶望したように膝を崩した。二つの魔法陣は、役目を終えたかのようにスッと消える。


「くそっ……くそっ!」


 大きな拳を握りしめ、ミノタウロス国王は床を叩いて大粒の涙を流した。そのひどく憎しみのこもった視線の先には、何事もなかったかのように廊下を行くこの国の王の後姿があった。

 ああ、何て冷たい背中。


「どうして陛下はあの国の応援についてあげないのですか。助けてはあげないのですか」

「……ダメなんだよ、ソフィア」


 少し哀愁を含んだような声だった。


「数百年前にも同じようなことがあったんだ。当時の王は、その応援要請を受けて出兵の決定をした。ところがそれに反感を持った敵方が、秘密裏に白龍国へ応援要請しているとの報告が入ってね。しかも白龍国はそれを受けるつもりだと。このままでは周辺国による代理戦争、果てはウチと白龍国との大戦争が起こる寸前だった。幸い直前で回避できたけど、同じ轍は絶対に踏めないからね」


 救済を願う手に応えれば、この国を含めたもっと多くの国の平和が危ぶまれるかもしれない。だから震えるその手を冷たく振り払う。それがミノタウロス国にとってどんな結果を招くのか分かっていても。

 それが正しいのかそれとも間違っているのか、私には分からなかった。あの人は、違うんだろうか。

 

 そんな私の暗い空気を察したのか、それを吹き飛ばすかのようにレオ様はにっこりと笑った。


「大丈夫、あの国だって立派な独立国家なんだから。王が命がけで護るよ、兄上がそうしているように。オレが君をそうするように」

「んっ……」


 少し開いていたマントの隙間から手を差し入れられ、柔らかく口づけられた。間近で微笑まれ、さっきの言葉もあって心臓がドクドクと強く波打つ。


「よし! 王様も見たことだし……そろそろ行こうか、彼女の元へ」


 真剣な眼差しのレオ様に、私は赤い顔を隠してゆっくりと頷いた。


あとがき

 次回、リザ再登場?

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