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The Vampire Castle  作者: 二上 ヨシ
The Ground
14/81

st.ⅩⅣ    Lisa’s Thought

*リザ視点

「フフフフフ……」


 金で縁取られた鏡の前で、ゆっくりと髪をとく。湧き上がる笑みを押さえることができず、思わず声が漏れた。

 部屋はいつでも陛下を気持ちよく迎えられるよう、たくさんの花で埋め尽くしてあった。蜜のいい香りが私を満たし、そして気分を高揚させる。

 クシを下ろして、首についた彼との愛の証をそっと撫でた。陛下はどうやら独占欲が強くあられるらしく、体のあちらこちらに印がついている。婚約より前はこんなことは全くなかったから、それが増えるたび、愛される実感を噛み締める。


「やだわ、陛下ったら。こんなところにまで」


 太ももの内側についたそれに、アトリエでの行為を思い出していた。


「クス……今日か」


 彼女に残された時間。私はこれから無限とも思える時を彼と過ごすけれど、彼女は明日という日を迎えられない。

 これって最高にオカシクない? あの目障りな女がいなくなるのよ? アッハハハハハ! 

 プロポーズ前、陛下は他に気になる女がいるとおっしゃっていた。私を王の寝室にまで呼んでおいて、まだ迷ってる女がいるですって?

 直感したわ。“あいつ”だって。”あの女”だって。


 陛下を初めてお目にかけたのは一年前。一目ぼれだった。白く大きな月の下、その淡い光に包まれるあの方を見て、体中に電流が走ったわ。まるで満月の夜、心の清らかなものだけが見える伝説の生物ハギスを見たかのような衝撃。

 涼しい目元、サラサラとした黒髪、高い背に威風堂々たる佇まい。あんなの人間界にはいない。ヴァンパイアは恐ろしいなんて聞いてたけど、確かに怖いほどにあの方に引き込まれた。心が囚われた。


 それからずっとあの方を思い続けた。陛下が後宮にいらっしゃると聞きつけるたび、何をも差し置いて向かった。陛下が好きだとウワサされるものは、何でも手に入れようとした。

 金持ちの貴族らに媚を売って、やっとファーストクラスにも入った。ええ、初めて彼の腕に抱かれた日のことは、昨日のように覚えているわ。見たことも無いくらい美しいあの方を、私の上で切なげに私を求められるあの方を、ああ、私だけのものにしたいって思った。

 何度も逢瀬を重ねていくうち、私はいつかあの方の特別になることを夢見ていた。きれいに着飾れば、もっと美しくなれば、それを現実のものとできるって信じていたの。

 でも――


「ソフィア・クローズ」


 陛下はあの女を……! あんな絵を描く以外何の取り柄もない、地味で貴族の援助も受けられないほど要領も悪いあの女を! 抱いてすらいない……あんな女を!

 

――『だがサードクラスの女。私はおそらく君を知っている』


 あれほど夜を共にした私の名前も覚えていなかったくせに、あの女の元へはまるで吸い寄せられるように向かわれた。愛おしさの溢れる清らかな目で、あの女を見つめていた。


 あの二人の間に赤い糸があるというのなら、私はそれを引きちぎる。あの絵が二人を結びつけるというのなら、私がその絵を手に入れる。あの方の心にあの女が巣食うのなら、私がその存在を消し去る。

 あの方の心を手に入れるために――


 でも、あの女が生きている限り、私はあの人に選ばれない。あの女が生きている限り、私は真実を恐れて生きなければならない。あの女が生きている限り……私は大勢の女の中の一人としかなりえない!

 体まで私だけにしろなんて言わない。でも、心だけは……その心だけは私だけのものじゃなきゃイヤ!


 陛下を横からさらっていった泥棒ネコ。あの女だって、絶対に計算してやってるはず。そういうのが上手い子なんだわ。あのレオナルド公爵まで誘惑して、弄んでるんですもの!


「……あら、ひどい顔」


 私は釣りあがっていた眉を下ろした。やわらかく頬を叩く。だめだめ、忘れなきゃ。あの女はもう死ぬんだから。陛下に怒りと憎しみをぶつけられてね。

 そうよ、陛下はもう私の味方。薬指に光る指輪を見つめた。まるで銀河のような宝石に、あの方の愛が詰まってる。


「ヨヴあなたの予言のおかげよ」


 鏡の傍に佇むコウモリの頭を撫でてやった。嬉しそうに眼を細める。

 私とこの子は相性が良いみたい。この子は私の心を読み取るように行動し、私もこの子の思いが分かる。前に妙なクモが『本当のことを話して!』なんてヒステリックに叫びに来たことも、追い返してくれたしね。

 真っ赤な眼に醜い豚のような顔をしているけれど、役に立つ獣。


「あなたがあの夜、あの湖に来る女を見張れって教えてくれたから。あの女の絵が陛下と結びつけるって教えてくれたから」


 そう、私は本当に彼と結ばれることになった。ヨヴも嬉しそうに目を見開き、牙をむき出しにして“キケケケケケケ”と笑う。


「ねえ、本当に絵のことは心配いらないのよね? 陛下はこの手に負った傷のせいで描きづらくなって言えば納得してくれるのよね? そのためにナイフにしびれ毒まで塗ったんだから。ねえ、どうなの? 卑しいケダモノさん……いたッ!」


 指先には牙の痕。そこから赤いガラス玉のように血が溢れた。


「何するのよ!」


 ぶとうとした瞬間、ヨヴは天井高く舞い上がった。“ケケケケ”と笑いながら私を見下ろす。


「何ですって? “太陽が昇る”? はあ? バカじゃないの? ここは太陽なんて出ないわ!」


 それでもヨヴは、翼をバサバサと羽ばたかせて天井を舞っていた。


「……ねえ、あなた一体何者なの? ルルーに魔術のやり方を教えたり、私の願いを聞いたり」


 ヨヴの真っ赤な瞳には、まるで水面に浮かぶように私の姿が映る。


「あなたの狙いは何? 一体何が――」


 その時、ゴーンと鐘の音が聞こえて私は言葉を切った。まあいいわと、カーテンを開けて窓の外を望む。サードクラスの棟が見えた。あの女がいる建物を見たくなくて、ずっとカーテンを閉めていた。けど、もうその必要もないわね。


「さ、最後にあの哀れな罪人とお話でもしてきてあげましょうか」


 サラリと髪を払い、私はあの女の元へと向おうと部屋の扉を開いた。


「!」

「やあ。“義姉上”」

「レオナルド公爵様……」


 ああ、この方もなんてお美しい。やはりご兄弟ということもあって、お顔立ちが似てらっしゃるわ。”義姉上”だなんて、照れちゃう。


「ライバルを蹴落とした気分はどう?」

「け、蹴落としただなんて……誤解ですわ」

「取り返しのつかないことになるよ」


 脅すおつもりかしら? おあいにく様、私には陛下がいる。


「今からでも遅くない。兄上に――」

「私を裏切った友人が、今から処刑されるのです。お願いします、どうか……これ以上心を乱さないでくださいませっ!」


 私はいく筋もの涙を流し、口元を押さえた。公爵様に背を向け、早足に廊下を歩く。誰が何と言おうと、たとえ相手が陛下であろうと、拷問をかけられようと、私は絶対に真実を口にしないわ! もう誰も止められない! あとはあの女の処刑を待つだけ!


 そう、あの女が死ねば、

私が真実になる。


****


 あと一時間。それがあの女の余命。

 手錠をかけられたまま檻の外へ連れ出され、看守に導かれるように暗く湿っぽい廊下を歩いていた。こんなコケだらけで腐った水の匂いが充満する通路が、彼女の歩く最後の道なのね。ま、お似合いだわ。


 でもなぜか、あの女は悲壮感に溢れているというわけでもなかった。まっすぐに前を見つめて歩いている。

 覚悟でも決めてるというの? 最期まで癪に障る女……。


「とんでもないザマね、ソフィア」


 前を通り過ぎようとする彼女に声をかけた。


「リザ……」

 

 彼女は眉をハの字にひそめ、私を見る。その目は濡れてすこし赤く、そして私への怒りと悲しみで満ちていた。

 でも。


 でも憎しみが見当たらない。嫉妬も恨みさえも。何こいつ、本当に純真な女だって言いたいの? その目で男をたらし込むくせに……。


――『あの絵を描く君の目から、私がどのように見えているのか知りたい』


 陛下を惑わせる狐の目、雌猫の目。

 その澄んだ瞳を潰してやりたい……!

 私は傍の衛兵が腰に差していた短剣を抜くと、あの女の目に向かってそれを突き立てた。

 

「――!」



 突き刺さる直前で、私の手を褐色肌の女が掴んだ。口元から二本の牙が見える。ああ、こいつがフリーエスとかいう出来損ないのノミ女ね。なんて力かしら。長い爪の生えた指が手首に食い込む。


「どうせ死ぬんだ。目くらい残してやんな」

「……」


 私はグッと怒りを堪えて手を下ろすと、短剣を持ったまま彼女の耳に唇を寄せた。


「ソフィア、最高の舞台(ショー)にしてね……」

「――っ」


 思わず口を開きかけた彼女の背を、イノシシ顔の看守が強く押した。私をじっと見つめながら唇を噛み締め、張り詰めていた糸が解けたようにハラハラと涙を零した。


 そのやつれた背中を見送る。


 勝った。


 私の勝ちよ、ソフィア……。


 バイバイ、月の絵の女さん――


あとがき

 友達どころか、近所にも住んで欲しくないレベル((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル

 次回、ソフィアが処刑へ。


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