st.Ⅰ The Vampire Castle
微妙な残酷描写や微エロ表現が出てくる予定なので、苦手な方はご注意を!
あと感想をいただけると嬉しいです^^
真っ黒な空。白い月。
一日、一月、一年。ここはずっと夜の帳が下りている。
不気味なコウモリが奇声を上げて空を舞い、黒猫の金の瞳が闇夜に浮かぶ。
小高い丘に建つ古びたお城は、人気もなくひっそりと佇んでいた。だが、気を抜いてはならない。古びた鉄の扉の向こうには、“彼ら”がいる。
そう、この闇の支配者、吸血鬼が――
***
「はぁ……」
私の名前はソフィア・クローズ。頭すら入らないような小さな小窓から、今日も外を眺める。硬いベッド、古びた机、石造りの冷たい部屋。そんな無機質な物たちの中で、窓枠に切り取られた外の世界だけが唯一の安らぎだった。
「アンタも強情ねぇ」
クモのグリーン婦人。私は虫嫌いだったから最初はキャーキャー言ってたけど、こんな何も無いところに長い間いるんだもん。今では良い話し相手。旦那さんともう自立した子供さんが(忘れちゃったけど確かたくさん)いて、人間の私よりかなり人生経験が豊富みたい。話してるととっても楽しい。
「あんたそんな可愛い顔してるんだから、ちょっと色目使えばあのお方もコロッよ、コロッ!」
「でもミセスグリーン、私には無理よ。相手がヴァンパイアだなんて」
ここはヴァンパイアの王の城、ヘルグスティン・キャッスル。ヘルグスティンっていうのは、この丘の名前らしい。ザルク・ヴィン・モルターゼフという強大な力を持つヴァンパイアの王が住まう巨城だとか。
私はそのキング・ザルクの後宮にいる。断っておけば、私はごく普通の人間で、決して穢れた吸血鬼なんかじゃない。ある夜、眠っているところを誰かに無理やり連れて来られ、気づいたらここに。
私の住んでいた町がどの方向にあるのか、ここが一体どんな場所なのか、どんな者たちがいるのかまだよく分からない。ただ真っ白な顔の背の高い女性に部屋に放り込まれ、ドレスを投げつけられ、一言こう言われた。
――『逃げようだなんて考えないほうがいいわ』
って。まず状況説明をするのが筋じゃないかしら。
「ソフィア、ヴァンパイアに女は生まれない。だからここにはアンタの他に方々から連れてこられた数百人の人間の女がいるわ。そこから選ばれる正妻以外は惨めな人生を送るのが目に見えてるんだから、この際もっとやる気を出すのよ。女は度胸よ、度胸!」
情報源はもっぱらミセスグリーン。ここがヴァンパイアのお城だということも、私が知らぬ間に後宮入りさせられたということも、そして二度と人間界へは帰れないことも知った。その事実を私以外の女の子たちも、どこかから知ったみたい。どうせ帰ることができないなら、惨めな妾生活よりも妻の座、妃の座を手に入れようと奮闘してるんだって。
でも、私は――。
「今日も陛下がお庭の鑑賞にいらっしゃるらしいから、こんな小さな部屋にこもってないで、早く回廊に行っておいで。顔を覚えてもらえるチャンスなんだから」と彼女は両手を広げてみせる。
でも、何も答えないで外を望む私に、ミセスグリーンはため息をついた。
「人間を襲うヴァンパイアのイメージが悪いのは分かるけど、ここはそんな者たちばっかりじゃないよ。王に気に入られるために、とか深く考えずに外の空気を吸っておいで。エンピツと紙を持ってね」
クモの表情は私にはよく分からないけど、きっとミセスグリーンは今、とっても優しい顔をしている。そう思うと、私も少し気が変わった。
あとがき
いきなり暗っ!
もう少し明るい感じにしたい……が。