昭和幽霊は、護りたい
ユー子を見送ってから、数年後。
白無垢から、ドレスに着替えたナオは、控え室で「ふぅ……」と長く息を吐いた。
あまり、人に見られるのは得意ではない。
時間が経つにつれて、笑顔が引き攣るのを感じていた。
「ナオちゃん、大丈夫?ちょっと疲れた?」
タキシード姿のタケルが、そっと声をかける。
「タケルさん……」
出会った頃、金髪だった髪は、黒髪になっており、オールバックに整えられている。
元々、顔立ちの整ったタケルは、かっこいい。
「タケルさん、かっこいいです」
思わず口から出た言葉に、タケルは照れたように目を細めた。
「ナオちゃんこそ、とても綺麗だよ」
「ふふ……ありがとう」
「さぁ、お色直しの時間は終わりだよ。披露宴会場に向かおう」
「はい」
二人は手を取り合って、歩き出した。
タケルは、両親とは疎遠だった。
だから、結婚の報告もしていない。
もちろん、会場にもいない。
ナオの両親は、とても暖かい人達で、タケルの職業にも寛容に受け止めてくれた。
優しくて、大変な役目を抱えていることに、尊敬できるとも言ってくれた、義父には頭が上がらない。
『必ず幸せにします』
その言葉の意味を、タケルはしっかりと心に刻んだ。
タケルの親族席には、解体工事の現場監督や、病院の事務長、大学時代の友人たちが座っていた。
皆、笑顔で祝福をしてくれていた。
滞りなく披露宴が終わり、テラスで全員で集合写真の撮影となる。
ぞろぞろと外に出ると、一際目立つ、タキシード姿の青年がタケルに向かって歩いてきた。
190センチ近くある長身。
長すぎる足。
艶めく黒髪に、妖艶な赤い瞳。
形のいい唇が弓形に上がる。
美しすぎる容姿に、女性のみならず、男性からも感嘆の声が上がる。
「よぉ!タケル!元気にしてたか?」
つかつかと寄ってくるレムに向かってタケルは、鳩尾に拳を入れた。
「ぐほぉ」
「えっ……レムさん?」
ナオは手を口元に添えて、目を見開く。
「あぁ!我が輩だぞ!祝いに来てやったぞ!」
レムは、ナオの手をとると妖艶に微笑みながら口づけをする。
その頭にタケルの拳骨がごちんと落ちた。
「痛いぞ!なんなんだ、さっきから!」
「お前、新郎より目立ってんじゃねーよ!」
「我が輩が目立ってるんじゃないぞ!タケルが地味だからだぞ!」
「この口がー!!」
タケルは、レムの頬を両手で挟むと、思いっきり、ぎゅぅっとつねった。
「ふひぃ。ひぃはい、ひぃはぃ、ふぃへへ」
「お前、どこほっつき歩いてたんだ!みんな心配したんだぞ!」
「……何をいう、ほんの数日じゃないか」
「はぁ?数年だよ!数年!」
「……はて?……あぁ、時間の流れが違ってたなそういえば」
レムは、頬を摩りながらタケルを見下ろす。
「あのぉ〜そろそろ写真撮影を……」
カメラマンが遠慮がちにタケルに声をかけた。
「あぁ、すいません……お願いします」
タケルは、カメラマンに詫びる。
「はい!みなさん、撮りますよ〜」
集まって来てくれた人たちは、皆、笑顔だ。
二人を祝福するために集まってくれた。
そう、レムも祝福に来てくれた。
タケルは内心、とても喜んでいた。
「はい、チーズ!」
カメラマンがシャッターを押す瞬間に、レムは異空間から薔薇の花びらを散らす。
幻想的な光景に、皆が驚いた。
「ふふん。サービスだ」
「……はは、ありがとな」
タケルは、そう呟くとがしりとレムと肩を組んだ。
いろんなところから、カメラのシャッター音が聞こえる。
自分が撮られていることに、調子に乗ったレムは、ナオをお姫様抱っこをする。
「きゃっ!」
勝ち誇ったようにタケルに向かって微笑んだ。
再び、シャッター音が鳴り響く。
「おいー!!主役を喰うな〜」
その場は、笑いで溢れる。
「タケル〜!負けるな〜!」
「こんなイケメン、誰でも勝てね〜から諦めろ〜」
大学時代の友人から、ヤジが飛ぶ。
「ナオ、お母さんもその人と写真撮りたい!こんなイケメン!死んでも会えない!」
「お義母さんまで……」
はちゃめちゃな会場の空気に、タケルはがっくりと項垂れた。
「よおし!皆、並ぶがよい!我が輩と一緒に写真を撮ろうではないか!」
レムの呼びかけに、参列者だけでなく、会場スタッフまで並びだす。
「……ねぇ、これ、誰の結婚式?」
「まあ、タケルくん、皆が笑顔だ。いい友人を持ったな」
タケルのつぶやきに、義父がそっと背中を叩いた。
「……友人……ですかね?」
「あぁ、わざわざ来てくれたんだ。友人だろう」
優しい義父の微笑みに、タケルも笑顔になる。
ナオは、自分が笑顔になっていることに気づいた。
あれだけ疲れて、笑顔も引き攣り始めていたのに。
(レムさんはすごいな〜)
ふと、背後に優しい気配を感じた。
「ナオちゃん、ナオちゃん、おめでとう!」
「……ユー子?」
ナオが振り返ると、黒髪ロングのユー子が微笑んでいた。
「うん!ユー子だよ!久しぶり!」
弾けるような笑顔でユー子は、ナオに寄り添った。
「ユー子も来てくれたの?結婚のお祝いに?」
「うん、それもあるんだけどね」
ふふふ、とユー子は、ぐにぐにと身体をくねらせる。
「私ね、霊界で修行してたの!守護霊になるためのね!」
「修行?」
「うん!私、霊力高めだからね!優秀な成績収めましたので、ある魂の守護霊に立候補出来たの!!」
「えっ?立候補制なの?」
「うん!ゴリ押しした!だって、絶対に守りたい魂だったから!」
再び、ユー子はぐふふふと笑いながら、身体をぐねぐねとくねらせる。
「その魂はね……ふふふ」
ユー子は、ナオの耳にそっと唇を寄せると、ナオのお腹に手を添えながら、囁いた。
ナオの目が大きく見開く。
「えっ?」
ユー子は、そっと離れる。
「あと、最後の試験があるんだ。だけど、ほぼ内定してるから、ナオちゃん安心してね!絶対に私が守るから!」
そう微笑むと、ユー子は「レム〜!!」とレムに飛びつきに行った。
「た、タケルさーん!!」
「ナオちゃん、どうした?」
「今、ユー子が来て……」
「えっ?」
ユー子はレムの頭にしがみついている。
「……ナオちゃん、それって……」
タケルは、ナオのお腹を霊視する。
「……本当だ……いる!」
タケルは、ナオのお腹にそっと手を添えるとちらりとユー子を見た。
「レム!実体化!実体化させて!ナオちゃんと写真撮る!」
ユー子は、変わらず騒がしかった。
完。
これにて、本編完結です。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
ユー子は、ちょっと切なく、ちょっとやかましい、そんな可愛い幽霊になりました。
レムもタケルも、初期設定の性格から、かなり外れて自由に動き回るので楽しかったです
次回からは短編番外編です。
レムと死神
ユー子の守護霊修行
由希子さんへのプレゼント
こんにちは、赤ちゃん
あたりを書こうかなと思ってます




