第四話 魔王宣言
暗く静かな森の中に、時折魔獣や魔鳥らしき鳴き声が聞こえて来る。
ルシフェルは木々の間を抜け、雨上がりでぬかるんだ道を歩いていた。しかし、進めど進めど森が続き、知らない場所とあってただ徘徊するしかなかった。
「一体何処まで続いておるのだ……」
もしかしたら同じ所を廻っているだけかもしれない、そんな思いがルシフェルを苛立たせる。
ルシフェルは徐に背中の羽を広げ、羽ばたかせる。
突風を起こし、体が浮き始めると、徐々に飛び上がって行く。
それが森の木々を抜けた刹那、羽の動きが突然止まり、頭から落ちて行く。
必死に体勢を立て直そうとするが、間もなく無様に背中から地面に激しく叩き付けられた。
周りの木々に止まっていた魔鳥が音と振動に驚き、勢い良く上空に飛び出して行く。
地面がぬかるんでいる事もあって、激しく落ちたもののそれほどの衝撃はなかったが、ルシフェルは仰向けに倒れたまま立ち上がらず、顔をしかめて叫び声を上げる。
「翼があると云うのに何故飛べぬ? 醜く変わり果てた翼では飛べぬと云うのか……」
暫し倒れたまま木々の間から空を見詰めるルシフェルの耳に、遠方からぬかるんだ地面を走る複数の足音が聞こえて来る。
「丁度いい。案内役が来たようだな」
ルシフェルは慌てる素振りもなく立ち上がる。
迫ってくる足音は軽く、着実にルシフェルに向かって、かつ物凄い速さで近付いて来る。
前方から吹いて来た生温い風がルシフェルに触れて吹き抜けて行く中、近付いて来た複数の足音がルシフェルを囲むように散ったのも束の間、木々の間から五匹の魔獣が次々と飛び出して来た。
魔獣達は血のように赤い一つ目でルシフェルに睨みを利かし、唸り声を上げて威嚇する。
一匹が上空に向かって遠吠えを上げるのを皮切りに、他の四匹も次々と遠吠えを上げ始めた。
その声に呼応するように上空から何か大きな鳥が羽ばたく様な羽音が聞こえて来た。
それが徐々に近付いて来て、ルシフェルが居る場所の上空を黒い影が次々と横切って行く。
一つの影がルシフェルに向かって降下を始め、一つ、また一つと降りて来る。
ルシフェルを囲むように舞い降りてきた八つの影、それはガーゴイル達であった。
髪のない頭に一本ないし二本の角が生え、背には二枚の羽と、今のルシフェルに近い姿をしているが、大きさはかなり小さい。いや、ルシフェルがかなり大きいのか。
「こいつはまた、でかい奴が堕ちて来たものだな」
「ほぉう、ガーゴイルごときが生意気な口を利く」
ルシフェルの言葉に、笑みを見せていたガーゴイルの表情が一変する。
「貴様こそ生意気な」
「天界ではどれほど高い地位に居たかは知らんが、ここに堕ちた以上は貴様も一介の悪魔に過ぎんのだぞ」
次々と浴びせかけるガーゴイルの高圧的な言葉にも、ルシフェルは意に介した様子はない。
「ぐだぐだとうるさい連中だ。御託はいい。我をどうするつもりだ?」
「体だけではなく態度まででかい奴だ。口だけと言うのでなければ、サタナエル様も喜んで下さるのだが」
「サタナエル? 誰だ、それは?」
「おい、呼び捨てにするではないぞ。サタナエル様は我らが王であり、この辺り一帯の君主であらせられる。悪魔になりたての貴様が呼び捨てにして言い方ではない」
「そうだ。そのサタナエル様の下僕にしてやろうと連れに来てやったのだ。光栄に思えよ」
「この我を下僕にだと? それも、この辺り一帯の君主がか」
ルシフェルは高らかに笑い出す。
「何が可笑しい!」
「高々この一帯の君主が、この我を下僕にする。これが笑わずにおられるものか」
「黙れ! 高々だと? お前は堕ちて来たばかりで知らぬではあろうが、サタナエル様はその名を聞けば誰もが恐れるほど名を知られた偉大な君主だ」
「確かに今はこの辺り一帯の君主でしかないが、何れサタナエル様はこの魔界全土を治め、魔王となられるのだ」
「魔王。天界に対してこの地の底が魔界、それを治めるのが魔王か。良く云ったものだ。だが、魔王となるのは貴様等の主ではない。この我だがな」




