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エレガントな紳士、荒廃世界を改革する〜有能すぎて天界を追放されたので、地獄化した地球を住みやすくした件〜  作者: 古月
神奈川飢饉編

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第36話 収穫祭【完結】

 そして100日後――



 エアロポニックの最初の収穫期が、ついに訪れた。


 ここから2週間おきに連続収穫できるのが、土耕にはない最大の強みだ。



 闇石の根チャンバーに取り付けた横扉を開けると――


 定植パネルから下に向かって、白い根がカーテンのように垂れ下がっている。


 その地下茎の先端に、じゃがいもが鈴なりにぶら下がっている。ぶどうの房のイメージだ。


 そして数百個のじゃがいもがびっしり実っている。大半はピンポン玉より少し大きい――いわゆる「新じゃが」だ。しかし早く育ったものは鶏卵Mサイズくらいある。


 100日目でこのサイズは、『パルス照射+最適波長』による成長促進の成果だ。


 通常のエアロポニックなら、まだほとんどがピンポン玉止まりだっただろう。



「なんだか……涙が出てきます」


 隣りにいるケルビーが涙ぐんでいる。


「カカカッ!」


 そう笑った後、傘月(さんげつ)は「はあ~~~」と感動して言葉が出ないようだ。

 

「フライドポテト食べたいなあ」


 相変わらず、幽鬼(ゆうき)先生は気の抜けることを言っているが、目はキラキラと輝いている。



 みんなほぼ味のないお粥で半年近く過ごしてきたのだ。


 しかも減配給+リディア式(1日おき断食)の生活でなんとか凌いできた。


 だが、そんな生活も終わりだ。



「今日の収穫祭で食べる分だけ収穫しましょう。大きく育ったものだけ手でもぎ取るんです」


 お手伝い役で連れてきた『バーバリさん』が「ヒャッハー!」と声を上げる。


 エアロポニックの大きなメリットの1つは、選択収穫ができることだ。土耕だと株ごと引き抜くので全部一気に採るしかない。


 残した小さいのは引き続き成長して、2週間後にまた収穫できる。



「既存の植物工場からも過去最高の収穫が出ています!」


 と、幽鬼(ゆうき)先生の部下が嬉しそうに報告している。


「お前が最適波長や培養液を調整してくれたおかげやで、ルシエル」

「お褒めいただき光栄です。しかし、幽鬼(ゆうき)先生の土台があってこそですよ」




 最初の20日目でエアロポニック栽培が順調であることがわかった。


 そこで栽培タンクの量を大幅に増やし、今や横浜や鎌倉の町中でも育てている。


 土を使わず、水路を引く必要もないので、どこでも育てられるのだ。それに翠鏡(すいきょう)カバーで覆われているから、虫や獣害の心配もない。




 横浜の通りに出ると、景色が一変していた。


 素朴な木造の家が立ち並ぶ通りの両脇に、黒と翡翠色の栽培タンクが整然と並んでいる。翠鏡(すいきょう)の内側でじゃがいもの葉が揺れている。


 まるで巨大な宝石箱が通りを埋め尽くしているようだ。


 100日前、ここには飢えた人々と空っぽのお椀しかなかった。今は翡翠色の光が、通りを彩っている。




「ヒャッハー! 収穫祭だぜえええ!」


 広場では『バーバリさん』と町の人々が、じゃがいもを抱えながら踊っている。


 遊びを通じて交流したおかげか、あんなに忌み嫌われていた『バーバリさん』も今や町の一員だ。


 私とケルビーは少し隅の方で、樽の上に座って、ふかしたじゃがいもに塩を振って頬張っている。


「美味しいです~」

「ええ。穀物のお粥、お肉に小魚、そしてじゃがいも。思ったよりレパートリーを増やしてますね」


 その時、幽鬼(ゆうき)先生が片手を振りながら歩み寄ってくる。


「おーい、ルシエル。フライドポテトいる~?」


 懐かしい。イノシシの脂で作ったのだろう。私は立ち上がって一礼する。


「それでは一本いただきます。ケルビーさんにも」

「もちろんやで」

「フライドポテト……」


 初めて食べるポテトに齧りつくと、ケルビーはパチクリと瞬きする。


「ん~~」

「気に入ったようですね」

「はい! 地球にはこんなに美味しいものがあるんですね。ルシエルさんと堕ちてきて良かったです」

「そのうち、もっと美味しいものを食べさせますよ」


 何やら幽鬼(ゆうき)先生が私とケルビーの顔を怪訝そうに見て言った。


「お前ら、主役やのになんでこんな隅っこおるねん。踊ってこい」

「んー」


 口を尖らせながら、私は首を振る。


 本当は、人混みや祭りの騒がしさは苦手だ。


「思ったより嫌そう。なんやルシエル、踊れんのか?」

「社交ダンスくらいなら。習っておりましたので」

「当たり前のように習うな」


「それに私は主役ではありませんよ。飢饉はみんなで乗り越えたのです」


「いや、お前のおかげやで。お前がいなきゃ、今頃は死体まみれやった。感謝しとる」


 そう言うと幽鬼(ゆうき)先生は背中を向ける。


「ま、今後の話はまた今度な。今日は何も考えんと楽しもうぜ」



 幽鬼(ゆうき)先生が去った後、サリーがふらりとやって来る。



「この100日間で、オレは横浜で最も腕相撲の強い男になったぞ」

「ほう、新しい二つ名が増えましたね」

「しかし、お前とケルビーが『神殿』で楽しんでいたのは不服だ」

「『バーバリさん』を守ってくれてありがとうございました」


 サリーには主に『バーバリさん』が喧嘩しないように見守る役目を担ってもらっていた。彼らは信じられないくらいしょっちゅう喧嘩するのだ。


「ですが、もう彼らも大丈夫でしょう。明日から、サリーさんも一緒に攻略します?」

「どうせならお前の『神殿』を攻略したいな。そうすりゃ、『信仰ポイント』ってのが溜まるんだろ?」

「その前に祭壇を立てて、信者を集めないといけませんがね」


 それについては明日以降に考えよう。


 幽鬼(ゆうき)先生の言うとおり、今日は何も考えずに楽しむのだ。



「ルシエル様!」

「ヒャッハァ」


 いったい何事だろうか。『バーバリさん』達がぞろぞろやって来て、跪いてくる。


「そういうのはいいですよ。さっきもやりましたし」

「ルシエル様のために、美女を連れてきやした」

「ええ?」


 モヒカンの男たちが脇にどけると、その中央から傘月(さんげつ)が仁王立ちで現れる。


「カカカッ」


 美女……かどうかは、笠を目深に被っているのでわからない。


「脱いだら美女だって言ってやしたぜ」

「おう、ルシエル。お前と踊ったら、じゃがいもくれるらしいやん」

「む……」


 その瞬間、ケルビーが立ち上がって言った。


「ルシエルさん! わ、私と踊りませんか……?」

「かまいませんけど……踊り方はご存知ですか?」

「わかりません!」


 困ったように微笑んで、私は傘月(さんげつ)に言う。


「ええと、傘月(さんげつ)さんはじゃがいもだけ持っていってください」

「よっしゃ!」


 『バーバリさん』からじゃがいもをぶんどっていくと、傘月(さんげつ)は風のようにどこかへ走り去っていく。


 私はため息を吐きながら、『バーバリさん』に向かって言う。


「美女を献上するのはおやめください」

「すいやせん」


 眼帯のモヒカン、夏目が代表して謝る。


「でもルシエル様に俺達の親分になってほしいんだ……です!」


 ちなみに敬語は練習中だ。


「君たちはもう町の一員です。最高のエンターテイナーとして、この町で活躍してください」


「「「ルシエル様にお仕えしなきゃ意味ねえ!」」」


 すでに何度も断っているのだが、どうしても親分になってほしいようである。


「エレガントさが足りないんだろうな」


 サリーが意味不明なことを言うと、『バーバリさん』は何かを悟ったような顔になる。


「そうか……どうすればルシエル様のように洗練された動作を身につけられるんだ……?」


 うーん、『バーバリさん』と話している方が疲れそうだ。


 これ以上、妙なことに巻き込まれる前にここを離れよう。


 私は腰をかがめ、ケルビーに向かって恭しく手を差し出す。


「踊っていただけますか、ケルビーさん」

「は、はい……!」


「おおおぉお」

「なんというエレガントさ……」



 歓声を上げる『バーバリさん』達を後にして、私とケルビーは広場の中央に行って社交ダンスを踊る。


「すみません、踊り方知らないのに……」

「いえいえ、逆に助かりました」


 言いながら、私はケルビーの右手を左手で取り、右手を背中に添える。


「私の肩に左手を置いてください。あとは何も考えなくて大丈夫です」

「はい……!」


 音楽に合わせてゆっくりと一歩踏み出す。軽く押すだけで、ケルビーが自然と後ろに下がる。


「あ……動けます」

「信頼して身を預けてください」


 時々、ケルビーの足が私の靴を踏む。だが構わない。大事なのはステップの正確さではなく、二人の間に流れる呼吸だ。


 手にほんの少し力を込めてターンを促すと、ケルビーがくるりと回る。翼の羽根がふわりと舞い上がった。


「わ……! 今、回れました……!」

「お上手ですよ」


 和服で社交ダンスを踊るのは少しシュールだが、この混沌とした世界ではむしろお似合いかもしれない。


 周りの人々も音楽に合わせて――あるいは合わせないで、適当に踊っている。


「ふふ、楽しくなってきました」

「それは何よりです」



 しばらくの間、ゆっくり揺れるだけにしていると、ケルビーが言った。


「エアロポニック栽培についてですが……」

「ええ」

「他の国には教えなくていいのかなって。今も飢えている人がいると思うと……」

「私も同じ気持ちですよ。でも、幽鬼(ゆうき)先生は技術を盗まれることを恐れるでしょう」

「では……見捨てるしかないのでしょうか?」

「いいえ。ケルビーさん、私はエアロポニックを広めるつもりです」


 なにしろ世界中の人々がお腹いっぱいにならないと、猫が食料になってしまう。


 まったく、許されざることだ。


「もちろん、幽鬼(ゆうき)先生の許可を得てね」

「ど、どうやってですか?」


 私は答えずに、いたずらっぽく微笑むだけにする。


「詳細は明日話します。ところで――」




「紅茶、飲みたくありません?」







【完】

数ある作品の中で、ここまで読んでいただきありがとうございます!!

もともと10万文字レベルで大幅リメイクしたものになりますが、楽しんでいただければ何よりです。


ただ、裏でフィードバックいただいたところ、書籍化目指すなら課題が山ほどありましたため、いったんここで完結といたします。


光魔法のアイデアは良かったと思うので、世界観をもっとしっかり練り込んで、一部設定やキャラを引き継いだ新作にする方向で考えています。と言いつつ、全く異なる完全新作になる可能性もありますが。


実は10年以上も書籍化目指して頑張っており、まだまだ挑戦したいなと思ってます。もしよければ引き続き見守ってくださると大変励みになります!


最後になりますが、こちらの作品を読んでいただき、本当に本当にありがとうございました。

(すでに評価やブクマ入れてくださった方へ。涙が出るほど嬉しいです。ありがとうございます……!)


また別作品でお会いできれば嬉しいです!


あと、せっかく作ったのでおまけ画像も置いときます。(HTMLコードで作成した図です)


▼スペクトル図(第一部完結版)

もっとよく見たい方は下記にアクセスしてね!

https://spectrum-part1-complete.netlify.app/


挿絵(By みてみん)


▼ 幻想鉱石図鑑(第一部完結版)

もっとよく見たい方は下記にアクセスしてね!

https://elegant-gentleman-minerals.netlify.app/


挿絵(By みてみん)

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