第16話 神の声?
やれやれ、天界でDXを推進しようとしただけなのに、「神を冒涜した」と言われて追放されてしまった。
今は地球行きのエレベーターに乗っている。じきに日本の東京のどこかに降り立つはずだ。
100年ぶりの故郷は今、どうなっているのだろう?
地獄の悪魔たちがなだれ込んだというから、あんまり期待できないが……
いや、そんなことより楽しい計画を練ろう。
なにはともあれ、白パンジャム漬け生活とはおさらばだ! いったい、あれより酷いことが他にあるだろうか?
もっとも書類漬けの方はちっとも苦ではなかったけれど。たとえ新人類を生み出せなくても、旧人類のデータを分析すること自体には価値を見出していた。
ああ、忠誠を捧げるに値する対象があれば、いくらでも働けるのに……
まあいいさ。それが見つかるまでは、存分に羽根を伸ばすとしよう。
まずはどこか落ち着ける場所を見つける。光魔法を応用すれば、狩猟も農耕も、安定してできる見込みがある。
あとは生活を快適にするものがあればいい。高反発ベッドは必須だ。寝具にはこだわりたい。甘い物も欲しい。
それと猫を見つける。地球を希望した理由の9割は、猫を撫でたいからだ。
自分だけの拠点づくり。なんとも甘美な響きではないか。次に情熱を傾ける対象としては申し分ない。
天界で抑圧されてきた反動か、欲望がとめどなく溢れ出てくる。
そんな私に冷水を浴びせるように――突然、女性の声が頭の中に響いた。
【――告ぐ、汝は『指導者』に選ばれたり】
まるで聖書に出てくる神のような格調高い喋り方だ。
「……はい?」
「どうかしましたか、ルシエルさん?」
「今の声、聞こえませんでした?」
「声?」
てっきりエレベーターのアナウンスかと思ったが、2人には聞こえていないのだろうか。
そう思っていると、謎の声がさらに言葉を紡ぐ。
【祭壇を立て、信者を集めよ。1000の魂を集めし時、余が『小さな報酬』を与えん】
小さな報酬か……いったい何だろう?
「『指導者』とは何ですか? 祭壇はどうやって立てれば?」
しばらく待ってみたが、返事はない。
聖書の神だって、もう少しまともに質疑応答してくれるぞ、まったく。
「なぜ1人で喋っているんだ、ルシエル?」
このままでは狂人だと思われてしまうので、私は今聞こえた声について話した。
「そ、それってもしかして……神様の声では?」
「うーん、もしくは悪魔の囁きか。女性の声でしたけど、神様って女神様なんですかね?」
「神様に性別はないですよ。でもきっと、お美しい姿をしているに違いありません」
どうりでルシファーやメタトロンが執着するわけだ。あの美声を聞いたら、また聞きたくなるのもわかる気がする。
するとサリーが口を開く。
「『小さな報酬』か。何をくれるんだろうな」
「ふふ、なんだかジャム改革みたいですね。神様がルシエルさんに、やる気を出させようとしているんでしょうか」
「もう少し具体的にやり方を教えてほしかったですけどねえ」
でも確かに『小さな報酬』という言葉は、まるでジャム改革の様子を見ていたかのようだ。
ひょっとすると、神は存在するのだろうか?
それならどうしてメタトロンには声をかけてあげないのだ?
「何してるんですか、ルシエルさん?」
エレベーターのやたら多いボタンを片っ端から押しまくってる。
「天界に戻りたいんですよ。メタトロンさんに『神の声、聞こえました』って伝えてあげたいんです」
「んー……どうしてルシエルさんにだけ聞こえるんだって、暴れ出しそうです」
でも、悲しきかな。ボタンを連打しているのにまるで反応がない。
そうこうしているうちに――――チン。
エレベーターが地球に到達したようだ。
手動式なので自分で格子扉を開けるしかない。
思ったよりも重くて、ギィィと音を立てながらゆっくりと開いていく。
「なんだあ~~てめえら?」




