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魔女の国の伝説

作者: 横山 智広
掲載日:2025/12/19

登場人物設定


◆ 剣 つるぎ・ひかる

「それ、オレが持ったせいかもな。不思議な剣と、謎の連中が……全部一緒に来やがった」

神秘的な力を宿す一振りの剣と出会ったことで、光の運命は大きく動き出す。その剣を手にしてからというもの、彼は常に“影の集団”と呼ばれる謎の勢力に追われ続けている。自分に与えられたこの剣と力が何なのか――その答えを求めて、無数の危険を乗り越えながら旅をしている。

実はその剣と、彼の生まれや両親には深い因縁が隠されており、それが“影”との対立の引き金となっている。怒りや感情の揺れによって剣が暴走することもあり、自身の力に対する不安も抱えている。

彼が剣を扱えるのは、“剣”そのものに選ばれた者だけが持つ「不思議な力」によるもの。旅の途中で出会った少女・志乃しのもまた、ある力を持つことが判明し、共に運命を歩んでいく。

________________________________________

◆ 神谷 志乃かみや・しの

「わかるの、たまに。未来が……見える瞬間が、あるのよ」

生まれながらにして「予知能力(未来視)」を持っていたが、本人はそのことに気づかずに過ごしていた。ある日、光と出会ったことで彼女の力が目覚め始め、数々の“偶然”が必然となっていく。

名家・神谷家の娘として育てられたが、幼い頃に命を狙われて家を離れることに。今は“家出少女”のような立場で、謎の組織に追われながらも、光と共に旅をしている。

予知能力は本人の意思とは関係なく、突発的に発動する。その力は強大であるが、制御は不可能に近い。だが、時に彼女の力は二人の運命を変えるカギとなる。

かつて母からこう聞かされた――「この剣を抜けるのは、“お前”以外にはいない。未来を導く鍵、それは……お前の“予知”なんだ」と。

その言葉を信じ、志乃は光のそばで共に進む決意をする。剣を持つ者、未来を視る者――ふたりの運命は、ただの偶然などではない。

プロローグ:走る少女、交差する運命

二人はあいかわらず、目的も分からないまま旅を続けていた。

住宅街の並ぶ道を歩いていると、向こうから自分たちと同じくらいの年の女の子が走ってくるのが見えた。

「ねえ、あの子……誰かに追われてるんじゃない?」

「かもな」と光が答える。

その会話が聞こえたのかどうかは分からない。

走ってきた女の子は二人の前で立ち止まると、「はぁ、はぁ……追われてるんです。これ、あずかってください!」と、ポンと何かを押しつけるように手渡し、再び走り去っていった。

そのすぐ後ろを、明らかに追っている風の大人が二、三人、女の子とは別の方向へ通り過ぎていく——すべては一瞬の出来事だった。

第1章 見えざる力と魔女の名

「……なんだったんだ、今の」

二人は途方に暮れ、公園のベンチに腰を下ろした。

「ねえ、さっきの子、大丈夫かな。それにこれ……何なのかしら?」

「どっちにしても、あの子を見つけて返さないと。さっきの物、けっこう大事そうだったし」

「でもさ、そんな大事なものなら、私たちなんかに預けたりしないでしょ? それなのに、なぜ?」

何も分からないまま、物だけが手元に残されている。

そうしているうちに、ふたりの目の前で、さらなる異変が起きた。

ベンチの横に置いていた例の“あずかりもの”の袋が、ふわっと宙に浮き始めたのだ。

「うわっ!」と驚くふたり。

その袋はいつの間にか、後ろに立っていた人物の手に、ズボッと収まっていた。

振り返ると、そこに立っていたのは――さっき、荷物を渡してきたあの女の子だった。

「き、君は……?」

女の子はにこりと笑って言った。

「驚いた?」

「と、当然だよ! 物が浮くなんて、どう考えても普通じゃない!」と光。

「君、手品でも使ったの?」

「ふふっ。ごめんなさい、驚かせちゃって」

彼女は光の問いには答えず、代わりにこう名乗った。

「私、魔子っていうの。……よかったら、あなた、友達になってくれない?」

それを聞いていた志乃が、ややムッとしたように言った。

「ちょっと! 光の質問に答えなさいよ! あんた、いったい何者なの?」

「ごめんなさい、隠すつもりはなかったの。でも、信じてもらえないと思って……」

「ふーん。まあ、私は驚かないわ。あなた、超能力者なんでしょ?」

「ちがうわ。そういうのとは違うの」

少女は静かに微笑んで、こう続けた。

「私は――魔女なの」

「……がーん……」

二人は魔子の言葉に、目を見開いて絶句した。

「昔ね、魔女狩りってあったの。大勢の魔女たちが捕まって、殺された。聞いたことあるでしょ?」

魔子の声は静かで、それでいて何かに怒っているようでもあった。

「信じられないかもしれないけど、全部本当の話よ。でもね……その魔女狩りを生き延びた魔女たちがいるの。山奥にひそんで、こっそり暮らしてる。そこが“魔力の国”。」

「魔力の国……」

「そう、私もその国の住人なの。魔女としてね」

光も志乃も、思わず息を呑んで彼女の話に引き込まれていた。

だがその時――。

志乃がピクリと肩を震わせた。

「追っ手が来たわ! 逃げて!」

瞬間、三人は反射的に駆け出した。

しかし、それを見ていた追っ手のひとりが、最後尾を走っていた志乃に魔術をかけた――。

「きゃああっ!!」

志乃の足が止まり、身体の動きが一瞬で凍りつく。そしてそのまま、姿が淡くなり――。

「志乃!?」と光が振り返ったときには、彼女の姿は完全に消えていた。

追っ手のふたりも、もうその場にはいない。

「ごめんなさい……! 私の魔力がいたらなかったばっかりに……志乃さんが!」

魔子が唇をかみしめながら言う。

「仕方ない……。後ろを振り向いた時には、もう姿がなかった。それにしても……志乃はどこへ行ったんだ?」

「……魔女の国だわ」

魔子の声が震える。

「なんてこと……。見ず知らずの人を巻き添えにしてしまった。魔力では私に敵わないから、あの人たち……魔力を持たない人間をさらったのね……」

「こんなところで話してる場合じゃない! 志乃を助けに行かないと!」

光が拳を握りしめた。

「魔子、頼む! 俺を――魔女の国へ連れてってくれ!」





第2章 志乃、囚われの姫

一方そのころ――

志乃は魔女の国に連れ去られ、暗い牢屋に閉じ込められていた。

(どうやってここを抜け出そう……。この城……日本のどこにあるの? さびしい……光……早く助けに来て……)

――薄暗い牢の中、志乃の前に人影が現れる。

おびえる志乃に、その人影がゆっくりと近づいてくる。

「あ……あなたは誰? どこから……?」

「ふふふ……あなたもバカだね」

声の主は、志乃と同じくらいの歳の少女だった。だが、魔子とは正反対の、どこか冷たい雰囲気をまとう。

志乃が一瞬ほっとしたのもつかの間――。

「魔子なんかと関わって、ろくなことにならないわよ」

「……あなたこそ、何者なの?」

「私は魔利まり。魔子とは腹違いの姉妹よ」

魔利は背を向けながら、平然と言い放つ。

「でもね、育ちのいい子はこの国じゃ“姫”って呼ばれるの。魔法の能力では私の方が上。次の女王の座は――実力で奪い取る!」

そして、ひとつ笑うと、志乃に背を向けて立ち去っていった。


第3章 魔女の国行き最終列車

そのころ、光と魔子はある駅のホームにいた。

「ここから、魔女の国行きの列車が出るのよ」

「ま、まさか……! ここ、どう見たって国鉄の駅だぞ? そんな列車、あるはず――」

光が言い終えるより先に、魔子は駅の階段の壁に向かって立った。

「見てて……」

――空間がゆらりと揺れた。まわりの景色が一瞬にして変わり、まるで“存在しなかったはず”の地下階段が現れた。

「うわっ……! なんだこれ……!」

「魔法よ。階段を降りましょう」

魔子に導かれ、地下階段を降りると、そこには普通の駅とはまったく違う、異世界のようなホームが広がっていた。

列車が一両、静かに止まっていた。その側面には、はっきりとこう書かれている――

『魔女帝国行き』

「さあ、光さん、乗って。今日の最終列車よ!」

光は呆然としながらも、魔子の手に引かれるようにその列車へと足を踏み入れた。

ドンッ――。

二人を乗せた列車は、魔女の国へと向かって発車した。

* * *

「なあ……そろそろ教えてくれないか?」

しばらくして、光が口を開いた。

「君が最初に俺たちに預けてきた、あの荷物。いったい何なんだ? それのせいで俺も志乃も、こんなことに巻き込まれたんじゃないのか?」

魔子は静かに、しかしどこか重い口調で答える。

「ええ……とても重要なものよ。これはね――魔女の力の源となる“水晶玉”よ。それを奪ったことで、私は追われる立場になった……でも、本当はその力を滅ぼしたかったの。魔女の国を、もう一度やり直すために」


第4章 志乃の予知と女王の間

一方そのころ。

志乃は暗い牢屋の中にとじ込められていた。身動きもできず、ひとり、助けを待つしかなかった。

(光……早く助けに来て……)

寂しさと不安に押しつぶされそうになるなか、志乃はふと頭を振った。

(こんなことして待ってるだけなんて……イヤ。超能力を……未来予知を使ってみよう)

志乃は目を閉じて集中した。

頭の中に浮かんだのは、魔子が持っていたあのカバン――。

(このカバン……中には何が入ってるの?)

まぶしい光とともに、水晶玉が映し出される。

(この水晶玉……いったい何? この先が……視える?)

志乃の意識はさらに深く潜っていく。

(分かった……この水晶玉こそ、魔法の源……。これを失えば魔女の力は崩壊する……。じゃあ、魔子さんは魔女の力を滅ぼそうとしてるってこと? なぜ――)

ハッ、と視界が戻った瞬間、志乃のまわりに二人の魔女が立っていた。

「ふふっ。あんた、女王さまのお呼びだよ」

魔女のひとりが志乃の腕をガッとつかみ、彼女を連れて歩き出す。

* * *

荘厳な玉座の間――。

数十人の魔女たちに囲まれ、ただの人間である志乃は、まるでさらし者のように放り出されていた。

その中心に座る“女王”が、冷たいまなざしで志乃を見下ろす。

「……おまえが人間の娘か。魔子と組んで、我が帝国を滅ぼそうなんて、あまいんだよ!」

バシュッ!

志乃の体が突然宙に浮いた。

「キャーッ!」

空中でひねりが加わり、そのまま地面に叩きつけられる。

強く打ちつけた体は動かず、息も絶え絶え。

(たすけて……殺される……)

そのまま、志乃ははりつけにされた。

「魔法の力を……思い知ったかい?」

女王の声が遠く響いたときには、志乃の意識はすでに途切れ、気絶していた――。

「こうしてこの娘を囮にすれば……魔子は必ず戻ってくるわ」

女王は冷たい笑みを浮かべながら、志乃のハリツケの姿を見下ろしていた。


第5章 連行と宴

一方そのころ――

魔子と光を乗せた列車が、ついに魔女の国の駅に到着した。

その瞬間、魔子の持っていたカバンが光り出す。

「……っ、光ってる!」

中に入っていた水晶玉が眩しく輝き、光の目に映し出されたのは――

志乃。ハリツケにされたまま、気を失っている姿だった。

「志乃……!」

その刹那、まるで二人の到着を待ち構えていたかのように、5、6人の魔女たちが現れ、列車の出口を取り囲む。

「来たわね、魔子……水晶玉を返してもらうわ」

「邪魔しないで!」

魔子が一歩前に出ると、風のように魔力が放たれ、魔女たちが吹き飛ばされる。

――だが。

「待ってもらおうかしら」

背後から冷たい声。

振り返ると、そこには魔利が立っていた。

「魔利……!」

「あなたの未熟な魔力じゃ、私に勝てない。姫の座は、この私がもらうわ」

「姫なんて、あげるわよ! でも、志乃を助けるのが先!」

魔子が通ろうとすると――

「いいの? その人間の男がどうなっても」

魔利の視線が、光に向けられる。

「女王さまは言ってるわ。“魔子が戻ってきてくれれば、何もしない”って。どうする?」

魔子がわずかに表情を曇らせる。

(……ここで争えば、光さんまで危険に……)

「……わかったわ。言うとおりにする」

その言葉とともに、魔子と光は拘束され、魔法城へと連れていかれた。

道中、光は魔子に尋ねた。

「君……魔法の国の姫なのか?」

「……いずれ、話すわ」

魔法城の大広間。女王が座す。

「女王さま。姫君をお連れしました」

「ご苦労。魔子と、その男。まあ、座りなさい」

食卓が並ぶ。

「お母さま、志乃さんはどこに?」

「まあ、心配するでない。それより魔子。今回のような軽率な行動、感心できませんね。さあ、早く――水晶玉を出しなさい」

「待って! 志乃さんを……志乃さんを先に!」

扉が開き、志乃が連れてこられる。

「志乃……!」

志乃は目を閉じたまま。

「志乃! 目を開けてくれ! どうしたんだ……!」

光は怒り、剣を抜こうとするが、剣が舞い上がり、女王の前に落ちる。

光は拘束される。

「このっ……!」

魔子が反撃の構えを見せた。だが、女王の手がわずかに動く。そこから、電光のような魔力の閃光が魔子を襲い、魔子は絶叫とともに崩れ落ちる。

光も、志乃も、為す術なく――

光の剣と水晶玉は、女王の手に渡ってしまった。

すべてが終わったかに見えたその瞬間だった。

女王がゆっくりと立ち上がり、志乃を見下ろす。

「志乃、おまえは“予知能力”しかないはずじゃ……だが、この剣と予知の力が合わさると、こんなにも厄介なものになるとはな」

志乃は目を閉じたまま、震える声で応じる。

「私の力……知ってるの?」

「ふふ……もちろんよ。おまえの母から聞いたさ。おまえの予知が、この剣を導く鍵になると。」

女王の笑みが冷たく歪む。

次の瞬間、魔子の身体が淡く光り始め、巨大な氷柱の中に閉じ込められていく。

「魔子さん……!」

光が叫ぶが、動けない。

女王はさらに魔力を放ち、志乃の目に封印をかける。

「これで、おまえの目は二度と開かない。予知だけじゃなく、視力も奪ってやるよ。」

志乃の体が震え、暗闇に包まれる。

志乃の視界は完全に失われ、代わりに「気配」や「場所」がぼんやりと“見える”ようになった。

第6章 奪われた剣、沈む希望

志乃の耳に、その心の声がふと響いた。

(魔子さん……?)

(そうか……それで、魔子さんは人間になりたかったんだ……あの水晶玉を使って……)

志乃は、今また暗い牢屋に閉じ込められていた。

目も見えない。暗闇の中、ただ気配だけが感じられる。

志乃にとって、目が見えないことは地獄に等しかった。

一方、光もまた別の牢屋に投獄されていた。

(志乃……! 志乃の目まで奪われて……俺の剣も、魔女に奪われた……。こんな状況でどうやって脱出すればいいんだよ……!)

――

「光……あきらめちゃダメ! まだ、方法があるのよ!」

志乃の声が、はっきりと光の耳に響いた。

「……志乃!?」

光はあわてて周囲を見回す。

「志乃! どこだ! 近くにいるのか!?」

「光……私はあなたの近くにはいないわ。テレパシーを使ってるのよ」

志乃の声が、光の脳に直接響く。

「テレパシー……? でも、志乃、おまえは“予知能力”しかないはずじゃ……」

「それがね……目が見えなくなってから、逆に周りの様子がはっきり見えるようになったの。これって“透視能力”っていうのかしら。もしかしたら、テレパシーも使えるんじゃないかって、試してみたの。そしたら……つながった!」

「……目と引き換えに、新しい超能力を手に入れたってことか」

「うん。でも、失ったものは大きすぎたわね……」

そう言う志乃の声は、どこか寂しげだった。

「光、気にしないで。目のことなら大丈夫。前よりも、むしろ周りがいっそうよく見えるの。不思議だけど……そんなことより、ここを抜け出さなくちゃ。そして、魔子さんを助けないと!」

志乃の声に、光はハッとする。

「魔子を……?」

「そう。魔子さんの目的や、魔女たちの企み……全部わかったの。魔女たちは魔力を使って、日本を征服しようとしてるの。でも魔子さんは、それを止めようとしてるのよ」

「……なるほどな。でも、どうやって抜け出すんだ?」

「ひとつだけ方法があると思うの」

志乃の声に、光は耳を傾ける。

「光の剣は、私と光……二人にしか触れられない。だけど、女王は剣を宙に浮かせて運んだ。でも、直接“手で”触ったわけじゃないの」

「……ってことは?」

「もし女王が素手で剣に触れたら――きっと、痺れて驚くはずよ。そうなれば、あなたを呼ぶわ。そのときがチャンス。剣を奪い返して!」

「……なるほどな」

「でも……テレパシーってけっこう疲れるのよ。そろそろ限界……」

志乃の声が少しずつ弱くなっていく。

「じゃあね、光……お願い……魔子さんを、みんなを……助けて……!」

通信が途絶える。

光は重い沈黙の中、深く息を吸った。

(……しかし、光の剣を奪い返したところで、女王に勝てるとは思えない……。でも……)

光はゆっくりと目を閉じる。

(まあいい。もともと俺は、影の勢力に狙われてた身だ。いつ死んだっておかしくない。だったら——やるしかないだろ)

* * *

それからしばらくして。

牢の扉が開き、魔女の使いが現れた。

「おい、人間! 女王さまのお呼びだ!」

(ちくしょう……こいつぶっ飛ばして、志乃を助けに行くか……?)

そう思った瞬間、またしても志乃のテレパシーが光の脳に飛び込んできた。

「光、今はまだ……! 行動を起こすには早すぎるわ! チャンスを待って!」

「……志乃か? わかった!」

「誰かいるのか?」と魔女が睨む。

「い、いえ! ただの……独り言です!」

* * *

大広間に連れてこられた光の目に、見覚えのある剣が映る。

(あれは……! 光の剣! でも、あんなところに……どうして女王のテーブルの上に……?)

取り返したい気持ちを抑えていると、また志乃の声が響く。

「待って、光。私の言った通りにして!」

「……よし、わかったよ。どうせ、死ぬ覚悟はできてる……」

「何をブツブツ言っている」

「い、いや、別に……ひとりごとです」

女王がゆったりと光を見つめる。

「それより――お前が持っていたこの剣……私が触ったとき、すさまじい痺れを感じた。一体、何なのだ? この剣は」

「へえ? 触ったら痺れたんですか? それはおかしいですねぇ……」

光は、とぼけながらも、心の中でその瞬間を待っていた。

「ちょっと……貸してくれませんか?」

光は、女王の前に置かれた剣に静かに手を伸ばした。

――手応えがある。

(今だ……!)

「輝け……光の剣!」

パアァァァァァッ!!!

次の瞬間、剣から眩い光があふれ出す。太陽のように強烈で、広間にいた魔女たちは目を覆う。

「そうよ、光! その光で女王は何もできない! 今のうちに逃げて!」

志乃のテレパシーが飛んできた。

「10歩下がった右に1歩の場所に、扉があるの。そこから抜けて!」

言われた通りに動いた光は、まぶしさの隙をついて広間を飛び出した。

「ええい、逃げたな! くっ……何も見えない!」

光の輝きが収まると、光の目の前に広がったのは、どこまでも続く――砂漠だった。

「なんだここは……!? こんなとこに出ちまったのか……」

「それは幻影よ、光! 気にせず、私の言う通りに進んで。まずは魔子さんを助けて!」

「魔子が……氷づけで動けないってのか? ったく……女王のヤツ、よくも……。それにしても、あの剣に触れて平気だったとは……さすが魔女か」

光は砂漠を進みながら、志乃の導きに従った。

「チクショウ……行けども行けども、砂漠じゃねぇか!」

「光の剣を使ってみて!」

言われるがままに、光は剣を輝かせた。

ザアッ……と幻影が音を立てて崩れ落ち、砂漠が消える。

「よし、進みやすくなった!」

階段を降りた先に、荘厳な大聖堂のような空間が広がっていた。

その中心には、まるで聖母マリアのように眠る――氷づけの魔子がいた。

「よし……光の剣、燃えろ!」

剣の刃が紅く染まり、炎をまといはじめる。

ゴォォッ……!

その炎が氷を包み、みるみるうちに魔子の体を覆っていた氷を溶かしていく――。

「危ない、後ろ!」

志乃の警告と同時に、光は背後を振り向く。

そこには、女王の使いの魔女が立っていた。

「チッ……!」

光はとっさに剣を投げる。炎をまとった剣が魔女に向かって一直線に飛ぶ!

だが――

「ふふ、甘いわね!」

魔女が手をかざすと、剣の軌道が反転し、今度は光へと向かって飛んでくる!

「なっ……!?」

光は身を翻して避ける。だが、炎を纏った剣はなおも執拗に彼を追う!

(くそっ……よけてもよけても……体力が……!)

「ふふふ……どうやら、もう動けないようね? 次で終わりよ!」

魔女が嗤い、剣が一直線に光の胸元を狙う。

(もう……ダメか……!?)

その瞬間――

剣が突如、空中で軌道を変えた!

「う、うわあああっ!!」

驚く魔女の胸に――炎の剣が突き刺さる!

次の瞬間、魔女の全身が燃え上がり、絶叫と共に消えていった。

「な……何が起きたんだ……?」

呆然とする光の背後から、聞き覚えのある声がした。

「ごめんなさい……危ない目にあわせて」

振り返ると、そこには――魔子が立っていた。

「ま、魔子さん……! そうか、俺が剣を投げて時間を稼いでる間に、氷が溶けて……!」

「でも、まだ安心できません。まず、この城を抜け出さなきゃ。それから、志乃さんを助け出しましょう!」

* * *

2人は魔法城を抜け、近くの森へと身を隠した。

木陰に潜みながら、光は遠くにそびえる魔法城を見つめる。

(あれが……魔女たちの城……あんなに巨大な建物が、全部魔法でできてるなんて……)

「光さん? 何を考えてるの?」

「いや、別に……あんな大きな城のお姫様って、ちょっとうらやましいなって」

光の言葉に、魔子は目を伏せて笑った。

「うらやましいもんですか。毎日、毎日……魔法に頼って生きるだけ。魔法がなかったら、私……何もできないんです」

「人間って……うらやましいわ」

魔子が木陰に腰を下ろし、ぽつりとこぼした。

「魔法がないのに、自分の力で、ちゃんと生きていける。……いえ、一人じゃない。あなたと志乃さんから、魔女にはないものを教わった気がするの」

「へえ、それは何?」

光が顔を向けると、魔子は小さく首を振った。

「ううん、なんでもないの。私には……無理なことだから。それより、志乃さんを助けに行かなきゃ」

* * *

一方そのころ、暗い牢獄。

「う〜ん……やっぱりテレポートなんて無理だよね……」

志乃は手探りで柵を押しながら、試みていた。

「鉄格子を壊すなんてもっと無理。……私って“超能力者”のくせに、ホント何もできないじゃない」

ため息をついた志乃の脳裏に、ある考えがよぎる。

(……待てよ。テレパシーなら……)

「光! 魔子さん! 聞こえる……?」

志乃のテレパシーが、森の中の光と魔子に届いた。

「志乃の声だ! 魔子、聞こえたか?」

「ええ。牢に剣を届けてって……了解、任せて!」

魔子が魔法の呪文を唱えると、光の剣が一瞬にして消え、次の瞬間――志乃の前に、剣がテレポートして現れた。

「やった! いざ、脱走よ!」

志乃は手探りで剣を掴み、鉄柵へと向ける。

ギギギギ……バシン!

「切れたっ!」

勢いあまって転倒。

「うわっ……ズデーン……もう……目が見えないと、やっぱ歩きづらい……透視で見えるけど、リアル視界とズレてるのよね」

* * *

一方そのころ、王宮。

「魔子のヤツ、よりにもよって人間どもと手を組むとはね……。もう姫の資格などないわ!」

女王の目が鋭く光る。

「魔利!」

「ハイ!」

「前から“実力で魔子を倒す”って言ってたわね? 好きにしなさい。見事、力を証明したら……姫の座はあなたのものよ」

「ハイ、かしこまりました!」

 魔利は満面の笑みを浮かべ、スッと女王の前から姿を消す。

「ふふ……楽しみね、魔子。人間に憧れるなんてバカなことを……!」



第7章 脱出と救出

そのころ、志乃は壁を手で伝いながら、階段を慎重に降りていた。

(この出口の先に……光の剣はいたはず……)

すると――

(ハッ……この広い場所は……体育館? 大広間?)

志乃はかすかに空間の広がりを感じた。だが――

(後ろに、誰かいる!?)

直感に突き動かされるように、剣を反転させて斬りつける!

ガッ……!

背後にいたのは魔女だった。志乃の斬撃を受け、魔女は驚きながらバタリと倒れた。

「な……なぜ私の存在が……わかった……の……?」

そのまま動かなくなる魔女。

(……見えないけど、確かに“見えてる”。私の力、やっぱり……)

と、またしても殺気!

(今度は……誰!?)

背後からの気配に気づいた志乃が振り返ろうとしたその瞬間――

手から滑り落ちた光の剣が、コトリと誰かの足元に転がった。

「ふふふ……ここまで逃げてきたのは大したものね。でも、もう終わりよ」

剣の先に立っていたのは、魔利だった。

「……目が見えないあなたに、私を倒せると思って?」

(ああ、もうダメ……でも、そうだ!)

志乃は思い切って剣へ飛びついた!

――パッ。

その瞬間、剣がスッと位置を変える。それでも志乃は諦めずに何度も飛びつく。剣は手元をすり抜け、また別の位置へ。

その奇妙なやり取りに、魔利の眉がひそめられる。

「……あなた、目が見えないのに、なぜ剣の位置が分かるの? ますます不思議な剣ね。なおさら、あなたには渡せないわ」

魔利が剣に手を伸ばしかけた、その時――

(しめた! 剣に触れたら、この人も……)

だが、魔利はふっと手を引っ込める。

「――やめた。分かったわよ、あなたの狙いは。そうやって、私に剣を触らせて、しびれさせようって魂胆だったのね? 女王様の時のように」

志乃は剣を拾うこともできず、力なく膝をついた。目を伏せ、肩を震わせて。

そんな彼女に、魔利が冷たく言い放つ。

「ほら、剣を返してあげる。好きにしなさい」

志乃は剣を手に取ったが……違和感が走る。自分の意志と関係なく、剣先が自分の胸元へ向かっていく。

(……まさか、私に魔力を……吸い取ろうと? ……もう、だめかも)

その瞬間、ふと志乃の力が抜けた。

――その場に現れたのは、光と魔子だった。

「志乃ーッ! 無事か!?」

光の声を聞いた志乃は、その場に崩れ落ち、安心したように気を失った。

駆け寄る光は、志乃の傷ついた手を見て顔をしかめた。

「……剣を取り戻すために……こんな傷……!」

すると魔利が鋭く言い放つ。

「やっと来たわね、魔子。今日こそ、姫の座をかけて決着をつけましょう。ここが……あなたの死に場所よ。この格闘技場がね!」

魔子は光を振り返り、強い口調で言った。

「光さん、お願い! 志乃さんを連れて、今すぐこの城を出て! 一時間後、人間界行きの最終列車が出るはず。間に合わせて!」

「でも、君は……!」

「……早く! これは人間の戦いじゃない。私と魔利、魔女同士の決着なの!」

光は志乃を抱きかかえると、格闘技場を飛び出した。

「光さん……生きていて。また人間として……会えたらいいわね」

魔子の囁きは、すでに背を向けた光の耳には届かない。

光は列車のもとへと辿り着き、気絶した志乃を座席に横たえると、再び魔法城へと走り出した。

(志乃……ここで待ってろ。あと50分……どうしても、魔子さんの夢を……叶えてあげたいんだ。絶対、彼女をこの列車に乗せてみせる!)



第8章 魔子 vs 魔利 ―瀕死の魔子―

一方そのころ、魔子と魔利は――

魔法の炎と風がぶつかり合い、格闘技場で凄まじい魔力の激突を繰り広げていた――!

格闘技場では、光と雷鳴が交錯し、まるで花火大会のような騒ぎだった。

魔子と魔利は、鳥のように宙を舞いながら、魔法をぶつけ合う。

「はぁっ!」

再び衝突した魔法のエネルギーが爆発し、魔子は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「やっぱり……魔利のほうが、魔力は上なの……?」

もう一度激突――だが、結果は同じだった。魔子は壁に打ちつけられ、もはや身動きもできない。

「どうやら……私の勝ちね」

魔利がにやりと笑う。

「さて、とどめはどうやって刺してあげようかしら?」

意識を失いかけた魔子の耳に、どこか懐かしい声がかすかに届いた。

『あきらめないで。私と同じ列車で、あなたも人間界へ行くのよ』

「し……志乃さん……なの?」

かすれた声でつぶやく魔子。彼女の目に再び光が灯る。

「そうよ……私は……人間になって、ふたりに会わなきゃ……こんなところで、負けられない!」

その少し前、魔子は魔利の魔法で全身ズタズタで、動くこともできなかった。

「さあ、魔子、覚悟!」


第9章 女王の間にて ―光、反撃の剣―

そのころ、光は魔法城の階段を駆け上がっていた。

(女王はどこだ……どこにいる!?)

すると、志乃の声が彼の耳に響く。

『その階段をあと30メートル上がって、右に曲がって――つきあたりに入口があるわ。女王はそこにいるはず』

「よし、任せろ!」

光は言われた通りに階段を上がり、右に折れた。だが、廊下は真っ暗だった。

(見えない……)

壁づたいに手を伸ばしながら進んでいくと、前方にほのかな光が見えた。

(あそこか!)

光は剣を構え、勢いよく扉を開け放つ。中に広がっていたのは――果てしない宇宙空間!?

「な、なんだこれはっ!?」

『あわてないで、それは幻影よ!』

(なるほど……魔力で作られた幻影か!)

光は剣を掲げ、斬りつける。剣が空を裂いた瞬間、宇宙空間はかき消え、広間へと姿を変えた。

奥の椅子がギィと音を立ててこちらを向く。水晶玉を膝に乗せた女王がそこにいた。

「人間の小僧が……よくたったひとりで、この魔女帝国の女王のもとまで来たものだね」

「でも、ここまで来たってことは――そう簡単にはやられないってことだぜ」

「ふん、残念だけど、ここまでよ」

「そうかな? この剣の前で、あんたの魔力は通用するのか?」

「確かに、おまえがその剣を持っている間は、直接的な魔力は効かない……けれど、私の魔力が消えたわけではない!」

――

『光、上! 上を見て!』

「えっ!?」

巨大な石が天井から落ちてくる!

「くっ!」

光は剣でひとつひとつを切り裂いていく。

『右に跳んで!』

すかさず右へ。直後、ヤリが左から飛来する!

「前に一歩!」

言われるがまま踏み出すと、かすめるように魔法の爆発が背後を通り抜けた。

「ふふふ……なかなか動きはいいじゃないか。けれど、まだまだ“魔法地獄”はこれからよ!」

女王が指を鳴らすと、猛獣が現れ、光に飛びかかってくる。

『次の瞬間、胸を突いて!』

「うおおおっ!」

光は剣を逆手に構え、飛びかかる猛獣の胸を一突きにした。

猛獣は煙のように消えた。

『壁に剣を刺して! 剣につかまって!』

言われた通り、光は剣を壁に突き刺し、しっかりとそれを握る――

砂あらしが光を襲う。吹き飛ばされそうだが、しっかりと剣を握ることで持ちこたえた。

「光の剣を上に放り投げて!」

剣の力も加わり、なんとか助かった。

「助かった……剣を持ったままだと感電するところだった。」

上に放った剣を受け取って構えると、水晶玉に映る志乃の姿が、部屋じゅうに広がった。

列車の中で、志乃が血だるまになって倒れている。

「どうやら、あんた。その不思議な剣の力によって、ことごとく私の魔法を逃れてきた。しかし、今度はどうする? 連れの女が血だるまになって倒れている。これ以上抵抗すれば、この女は殺す。さあ、その剣を捨てなさい!」

光は、剣を捨てそうになった。

「だめ! 捨てては。相手の思うツボよ! そこに映った私はウソ! 私は違うところに隠れてるわ!」

それを聞いた光は、剣を持ち直した。

「貴様、女を殺してもいいのか?」

「志乃がどこにいるのか分かるのならな!」

「なにぃ! 本当に、殺すぞ!」

女王は水晶玉の中を覗いて、志乃を探し始めた。

「いまよ!」

光は剣の光を強くした。

部屋は白くなり、何も見えなくなる。

そして剣を水晶玉に突きつける。剣が水晶玉に刺さる。

「ああっ、私の水晶玉が!」

パリンッ!

水晶玉にヒビが入る。

水晶玉に刺さった剣を、女王は抜こうとする。

「ぎゃあっ!」

バッタリ!

剣に触れると、普通の人間は死んでしまう。

光と志乃以外の者は。

「やった、ついに女王を……そうだ、早く魔子さんを助けなければ!」



第10章 魔子 vs 魔利 ―姉妹、最後の魔法―

――一方、格闘技場では。

魔子は瀕死のまま、魔利のとどめを待っていた。

その時、魔子の脳裏に――

魔子も魔利も、少女時代の頃の思い出がよみがえった。

魔法の国の野原を走るふたり。

大きな木のところへ来て、ふたりは息を切らして座りこむ。

「ねえ、マリ。新しい魔力が使えるようになったってほんと?」

「ええ、ほんとよ。私、早く魔力を身につけて、この国の女王になりたいの。協力してくれる? マコ?」

「ええ、協力するよ。だってマリは魔法学校で一番の実力だもの。できるわよ。そのかわり……見せて! 新しい魔法!」

「それじゃ、マコ! その木から離れて。いくよ!」

魔利の体が光り輝く。

「えいっ!」

魔利の体が急に光ったかと思うと、その光が空まで届き、空から木へ雷が落ちてくる。

木は一瞬で燃えてしまう。

「すご〜い! マリ、そんな魔法、どうやって編み出したの?」

「私は、女王になって、あの魔法城のてっぺんの、絶対に鳴らない鐘を鳴らして、何が起こるか見てみたいのよ。魔子にこの魔法教えちゃったら、横取りされるもんね。」

「しないわよ。私は欲がないから。でも、あの鐘鳴らしてみたい。幸せになれるような気がして。」

(ああ……私が女王の娘だってわかったの、この後だったのに。こんなに仲の良かった二人が、こんな風に争うこともなかったのに……)

魔子は、想い出の世界から現実に引き戻される。

(ああ……今の私のダメージじゃ、もう魔法は一回ぐらいしか使えない。次の魔利の魔法に耐えるだけの力は、もう残っていない……)

意識が朦朧とする中、ふと思い出す。

(次に私にとどめをさそうとする魔法は……子どもの頃、私に見せてくれた、あの魔法じゃないかしら?)

魔利の身体が、まぶしいほどに光り出す。そこから強烈な閃光が放たれた。

(そう、あのときの――雷の術!ならば……)

魔子は最後の魔法で、全身を鏡のように光らせる。魔利の放った閃光が、その鏡に跳ね返り、魔利のもとへ返る。

「きゃああっ!!」

魔利の身体が、炎に包まれた。

「魔子……あなた、私のとどめの技が雷の術だって……見破っていたのね? 負けよ、私の負け。やっぱり私には女王は無理だった……」

「バカ! 私は最初からあなたに恨みなんてなかった。誤解を解きたかっただけ。私は、女王なんてどうでもよかった。ただ、人間に憧れてたの……でも、あなたの魔力が強くなるたびに、人間への憧れが壊されそうな気がして……」

「ええ……わかってた。がんばって、人間になって……私はもう……だめ。最後に鐘の音が聞きたかった……さようなら……」

「ああ、魔利……」

――ハッ!

「こんなことしてる場合じゃない……光さんと志乃さんのところに、お母さまが黙っているはずがない……!」

魔子は女王の部屋へと急ぐ。ドアを開けて叫ぶ。

「お母さま! あの二人に……」

ドアの向こうには、倒れた女王と、その傍らに立つ光の姿があった。


第11章 魔女の国の終焉 ―そして、新しいはじまり―

「光さん……無事だったのね!」

「ああ……けど、君のお母さんを――殺してしまった……」

「そう……。光さん、こんなことしてる場合じゃない! 最終列車まであと5分。急がないと志乃さんが……私はすぐあとから行きます!」

「すぐ来るんだぞ。――夢は、大切に……!」

光は走り出す。城を抜け、駅へと向かう。その先には、列車の前で手を振る志乃の姿があった。

「光! 早く!」

「志乃ーっ! 目が見えるのか!?」

「ええ……まるで魔法がとけたみたいに!」

「魔子さんは……まだか?」

魔子はこわれた水晶玉をもって、「これで、魔女の時代も終わったのね。でも、私はこの国を新しく生まれ変える宿命があるのよ。魔女は、魔力がなくなっても人間にはなれない。」魔子は城のてっぺんにのぼり、そこから外を見おろす。駅を見て、「光さん、さようなら!」。

するとその時、魔法城のけっして鳴ることのない鐘が大きな音をたてて鳴り出した。水晶玉が新たな輝きを。「魔利、きこえる! 鐘の音が、魔女の国が今、生まれかわろうとしているのよ。そして、新しい魔女の国の女王は、あなたよ。」

光と志乃は、もう発車ギリギリで列車にのった。「魔子さんはこなかった。」「きっと生まれ故郷をはなれたくないのよ。でもきっといつの日か、こんどは人間として、再会できると思うわ。」「予知能力か?」「いいえ、そんな気がするだけ。」列車がいよいよ発車した。「さようなら、魔女の国、さようなら、魔子さん!」その時魔法城から鐘の音がきこえる。

その時魔法城から鐘の音がきこえる。

ゴォォォン……


「ほら、あの鐘が私たちを送ってくれてるよ。さよなら……」

――鐘の音は、優しく、遠く紫の空間を包み込んだ。

新たな始まりを告げるように。


エピローグ:女王の回想

そう、あれは20年位前。この国の女王であった私の母が死んだ。長女である私の姉がそのまま女王の座に就いた。私はとても姉を羨んだ。やがて姉は一人の女の子を産んだ。それがおまえだ。

だがそれからというもの、姉は自分の娘を姫として育てるのを嫌い、田舎のごく普通の家で育てた。もちろん自分が女王であるということを隠して。しかも、姉は娘に魔女としての教育どころか、人間界のことをいろいろと教えこんだのだが、この国の女王としての職務もそっちのけで。

そんな姉に対して、私はいつしか憎しみを抱き始めていた。姉から女王の座を奪ってやると。でも、魔力ではどうしても姉には勝てなかった。だから私は自分の娘マリにその夢を引き継いでもらいたくて、魔利を魔法のエリートにした。

そして姉が病死した。王が死亡した場合、その娘が王位を継ぐしきたりなのだが、その娘が成人していない場合のみ、一時的にその妹が女王となることになっていた。念願の女王の座についた。姉に対する憎しみは、そのまま娘の魔子に対するものに変わった。この王位をとられてたまるかってね。

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