吉田道場の師範代
江戸八王子の試衛館の面々と比すれば、この道場のレベルなどたかがしれていた。だからすぐに道場の師範代になれた。とは言えこの吉田道場には助けてもらった恩が有る。自分に出来る事ならばどんな事でもやる覚悟は出来ていた。どうせ江戸に戻ればお尋ね人だ。吉田道場にいれば少なくとも身の安全は確保されている。
「山口さん?吉田師範が呼んでいますよ?」「え?あ、はい。」
「師範代の風格が出てきたようじゃな?」
「はぁ…。で?用とは何ですか?」
「実はな、江戸八王子の試衛館の面々と他流試合を行う事になった。」
(マジかよ。)
「山口君は試衛館の面々と面識があると言うではないか?」
「えー。まぁほんの少し手合わせをしたくらいですが…。」
その情報をどこから手に入れて来たのかは分からないが、また試衛館の面々と剣を交える事を一はとても喜んでいた。でも何故近藤や土方らがわざわざ吉田道場に遠征に来るのか理由までは分からなかった。
それから1週間後…。江戸八王子の試衛館の精鋭5人が上洛して来た。近藤、土方、沖田、山南、永倉の5人であった。吉田道場側からは門下生4人に大将として師範代の一が就くことになった。
「あれれ?山口さん!?山口一さんですよね?」
「総司!子供みたいに騒ぐな。」
「でも何で江戸にいるはずの山口さんが京都の道場の師範代なんかを?」
「まぁ、色々と訳ありみたいだが、全員ブッ倒す。その為に上洛したんだ。」
「旅費は吉田道場がもってくれたしな。断わる理由はない。」
「長旅のところお疲れでしょうし、他流試合は明朝9時より開始する事にしましょう。」
「かたじけない。」
「山口君、宿まで案内してさしあげて。」
「は、はい。」
「ついこの間まで道場破りしてた輩とは思えぬな。」
「まぁ、色々と訳ありでして。あ、ここです。女将さん!試衛館の方々をお連れしました。」
「はぁーい。おいでやす。ゆっくりしていってください。」
「山口?どういう経緯でこんな事になったんだ?お前の魂胆は何だ?」
「それは聞いてみたいですね。今夜はじっくり付き合ってもらいますよ?」
「皆様、お風呂の支度ができております。お話はその後に。」
「ふー。びっくりしましたよ。何で山口さんがこの道場で師範代なんかをやっているんですか?」
「江戸小石川関口で旗本を斬りつけた。だよな?」
「それが本当なら、山口さんがこの道場にいる理由も合点がいきますね。」
「つーか土方さんそれ知っているなら、もっと早く教えて下さいよ!」
「いや、トシの判断は正しい。皆が見ている前でその様な話をするのは適切ではないからな。」
「山口さん最近来ないなと思ってたら京都にいたとは、驚きです。」
「明日の他流試合の大将は総司に任せる。」
「え?近藤さんは?」
「私の出番は多分来ない。山口君とはやりたくない。」




