斎藤一の愛刀
鬼神丸国重
「一、これは元服の祝だ。大切に使いなさい。」
元服の祝にと、父右助が一に与えたのは鬼神丸国重と言う名刀であった。後の新選組3番隊組長として、多くの人を斬る事になる一の愛刀であった。
「父上よろしいのですか?」
「一ももう立派な山口一刀流の道場主だ。一振りくらい名の通った刀を帯刀してもおかしくはあるまい。」
鬼神丸国重はとにかく切れ味の鋭い刀で、この当時の一は刀の手入れ以外で国重を抜く事は無かった。
「兄さんの心配には及ばないよ。俺の腕なら竹刀でも人をやっつけられる。」
「これは恐ろしい弟を持ったもんだな。」
と、兄ヒロアキは弟の実力に舌を巻いていた。
「一?刀の手入れは怠るなよ?」
「刀の手入れですか?」
「ああそうだ。あとでワシが刀の手入れの方法を教えてやる。一回しか教えないから一回で覚えろ。」
父右助に何かを教えて貰ったのはこの時が最初で最後であった。
「手入れが不充分だと肝心な時に切れ味が鈍ってしまう。だから何かを斬ったら都度手入れをしてやるんだ。そうだ。やさしく刃紋を撫でるように。」
少年時代ははっきり言って刺激が足りなかった。それでも家族に恵まれて一は幸せな時を過ごせた。
「一?国重を使わなければねぇヤバい時は全力で振れ。山口一刀流の正眼の構えからの高速突き。それでピンチを脱しろ。」
「はい。ですが父上?何故兄さんではなく自分に?」
「ヒロアキは剣に頼らずとも生きていく術を持っている。しかし一お前は違う。山口一刀流を仕込み塾頭にしたのはお前に剣で生きていける力を授ける為に行った事だ。お前には天賦の才がある。然るべき時に然るべき形でお前を立派な武士として送り出す。」
「ですが父上?武士の真似事をしても明石浪人の次男って事には変わりはないじゃないですか?」
「一?お前に鬼神丸国重を授けたのはこの時代の変わり目に武勲を挙げてほしいからだ。実際、国重は山口家の家宝。それをまた刀として使える様にしたのは、然るべき時に備える為だったんだ。」
「然るべき時然るべき時って言うけど、山口一刀流の道場主の俺が道場を出たら誰が道場を見るんだよ?」
「どうせ吹いたら消える炎の様な道場だ。潰しても構わない。」
と、山口一刀流の未来などまるでどうでも良いかの如く一を自立させる為なら然るべき時に家から送り出そうと考えている右右であった。




