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脱出ゲーム 二話

目が覚めると、白い天井が見えた。

りんが体を起こすと、体は痛くなかった。

りんは自分が寝ていたところを見ると、ベッドがあった。

なるほど。だから、体が痛くないのか……と思った時。

「大丈夫か。いきなり倒れたからびっくりしたぞ」

声が聞こえた方を見ると、哲也が心底安堵した表情でこちらを見ていた。

「え、…ああ。ごめんなさい」

「いいんだ。まだそこで寝てろ」

哲也が優しい声でそう言う。しかし、りんは首を振った。

「もう大丈夫です。それより、私どれくらい倒れてましたか」

「さあ……この部屋には時計がないからな。でも、はやかったよ。多分十分くらい」

「十分……」

通りで意識がはっきりしてると思った。さっきのように頭も視界もぼやけていない。本当にすぐ起きたらしい。

りんが一瞬哲也を見ると、哲也はベッドの前の白い椅子に座っていた。こうして見ると病室みたいな構造だなと思う。

それにしてもなぜここにはベッドで椅子があるのだろうと不思議に思う。あたりを見渡すと、それ以外の家具などはなかったがそれでもりんのさっきの部屋にはどれもなかったものだ。

りんが立ち上がろうとすると、哲也がすぐにそれを制した。

「いいんだ。また倒れるかもしれないから、そこにいていい」

「…ありがとうございます」

りんは軽くお礼を言うと、反対方向を向いて寝転がった。

顔が向き合っているのは少しだけ気まづかったからだ。

「…なあ」

時計がないので分からないが、五分くらい目を瞑っていた気がする。突然、声をかけられ、りんは振り返る。

寝てたままでいい、と起きあがろうとするりんに哲也は言う。しかし、りんはやっぱり起き上がりたくてベッドに座った。

「ごめんなさい。でも、私もう大丈夫です」

「…分かった。座ってた方がいいなら、それでもいい」

そして、続けて哲也は言った。

「君はどうやってこの部屋を入って来れた?」

りんは、さっきあったことをそのまま哲也に伝えた。一つだけ追加で、先ほどりんが気になっていたことも伝えることにする。

「細かいことかもしれないんですけど。私が目覚めた部屋にはこの部屋にあるようなベッドと椅子とかは何もなかったです。それが何か関係のあることなのかは分からないんですけど…」

「そうなんだ。いや、ありがとう。何かここを出るためのヒントになるかもしれないし、細かいことでも言ってくれると助かる。他にはそういった気づきはなかったか?」

「はい。多分ないと思います」

りんは少しだけ自信なく答える。

他に気づいたことなどないと思うけれど、そう聞かれると何か逃しているような気がしてくる。

「そうか。分かった。…金のドアノブ、か」

哲也はそう言いながら、立ち上がり部屋を歩き出す。

何かを探しているように視線をキョロキョロと動かしていた。りんはその様子を何となく目で追ってしまう。やることがないからかもしれない。

「うーん、パッと見たところ俺の部屋にはそんなものはないな。いや、実はこの部屋を調べるのはもう何回もしてるけど、それでも今見たところではやっぱりそんなものはない気がする」

「そうですか…」

りんも部屋を見回す。

白い部屋なのでそれ以外の色があれば、目立つはずだがやはりそんな色は見つからない。ぱっと見ただけでは分からないかもしれないが、哲也が言うように何回も調べたならやはり何もないのだろう。

りんは諦めて下を向いた。しかし、哲也の声がして顔を上げる。

「どうしようかな…」

それは独り言のような呟きだった。

りんはもう一度俯く。

…私はここから出たいのだろうか。

ふと、そんな疑問が頭に浮かび上がった。しかし、すぐに否定する。

いや、出たいに決まってる。こんなところに閉じ込められて、やることもない。やはり元の場所に帰りたいに決まっている。

しかし、何か違和感を感じた。それらの考えはりんの意思ではないような気がしたのだ。そう思わないといけない、というりん以外の声のように感じた。

考えて見ると、帰って何をしたいとかりんは何も思わなかった。記憶がないから、考えようがないと言えばそれまでかもしれない。いや、実際そうだ。しかし、りんはここに来てから一度でもここを出たいとか、家に帰りたいとかを思っただろうか。考えただろうか。

りんは顔を上げた。

それ以上は何となく考えたくなくて、自分から違う話題を振る。

「そういえば」

「ん?」

立ちながらまだ考えていた哲也がこちらを見た。

りんは言った。

「ここに来てから一度ももお手洗いに行っていないのに、私全然そういった気分とか感じないです。どうしてなんでしょうね」

「あ、確かに言われて見れば俺もそうだ。そもそもここにトイレないしな。…なんか怖いな。俺達の体、なんかされてんのかな」

「…分からない、です」

りんが申し訳なさそうに言うと、哲也は慌てて言った。

「ごめん、りん…じゃなくて、君を怖がらせるつもりじゃなかったんだ。ほんと、ごめん」

「いえ…」

りんはほぼほぼ聞こえないような小さな声でそう言った。

沈黙が落ちる。

お互いそれ以上話すことがなくなり、二人とも黙りこくってしまう。いや、本当は話すことは山ほどあるのかもしれない。りんの記憶がないから、哲也に聞かなければいけないことだってあったはずだ。それでも、りんはそれをすることを自ら拒んだ。知るのが怖かった。何も知らない方が幸せなのではと思ってしまう。何も知らない今が一番楽な気がした。

長い長い沈黙だった。

お互い黙っている限り、この部屋に音を生み出すものは何一つない。静寂が続いたからこそ、次の瞬間聞こえた声に二人とも心底驚いた。

『ここから出るためのルールを今から説明します』

機械のような声だった。その声は二人の沈黙を呆気なく破って降ってきた。どこからその声が聞こえるのか、見当もつかない。ただこの部屋全体から聞こえてくるような気がした。それでも、りんと哲也は無意識に上を向いてその声を聞こうとする。

ルール、それは一体何なのか。考える間もなく、声は話し続けた。

『条件は一つ。桜原りんが、今までの全ての記憶を取り戻すこと。そして、そのためには』

りんは次の瞬間、自分の耳を疑った。

『桜原りんはここの住人全員とセックスをすること。以上、健闘を祈る』

放送はそこで終わった。

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