脱出ゲーム 一話
皆様、初めまして。セキマリです。
今回、初めて投稿させてもらいます。
まず始めに、この作品には性的表現が含まれるので苦手な方はお控え下さい。
ちなみにこの作品は番外編でif編でございます。本編は別で制作中ですが、本編を読んでいなくても全く問題ありません。
趣味で書き始めたものなので、全く完璧な文章ではないですが、なんとなく楽しんでくれたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
目を開けると、白い天井が見えた。
りんは目を擦りながら、体を起こす。体が痛かった。
まだ、ぼやける頭と視界の中であたりを見つめる。そして、はっ、と目を見開いた。
りんは知らない場所にいた。
***
少しずつ頭が冴えてくる。
あたりを見ると、部屋は狭くも広くもなく、真っ白な壁と床にりんは囲まれていた。それ以外はこれといって特徴的なものは見当たらない。家具一つ置いていないし、殺風景とはまさにこの部屋のことを指すのだろうとりんは頭の片隅で思った。
「いたた…」
りんは立ち上がろうとしたが、うまく立てなかった。そういえばさっきから体が痛かったと気づく。当たり前だ、この部屋には布団一つ敷かれていなくてりんはここで寝ていたのだから。
(何時間寝たのかな……)
りんはふと気になった。
頭は不思議と眠くない。それに体が痛いということは痛くなるほどここで寝ていたからかもしれないと考える。三十分や一時間くらいの昼寝をした後の感覚とは違うように思えた。長く寝てたような気がしたが、結局はりんの推理でしかない。
ここはどこで、何のためにここにいるのか。今のりんには知ることが出来なかった。
りんは思わず肩を抱く。自分を抱きしめるようにしてりんは肩を抱いた。肩からは微かに震えが手に伝わって来た。そして、手もだんだんと芯から冷たくなっていくような感覚に襲われる。
(怖い)
明らかにこの空間はおかしいと自覚した途端、りんは急に恐怖を感じ始めた。怖くて怖くてたまらない。
誰か、と助けを求めるように手を伸ばした瞬間、りんは目の前の視界にさっきと違和感を覚える。
ゆっくりと立ち上がり、前に進む。
すると、さっきは視界がぼやけててか見えなかったが金色の丸いものが壁についているのが見えた。それはドアノブだった。ドアは壁の色と全く同じだが、ドアノブだけはこの白い部屋で違う光を放っていた。
りんは嬉しくなって、無意識にドアノブを回した。
ドアがゆっくりと開いた。
***
「え…」
りんがそう声を漏らしたと同時に、ドアが閉まる音と重なる。
りんは思わず振り返り、ドアノブをもう一度回してみる。
「……」
りんは手を離した。ドアはもう開かなかった。
りんは仕方がないので、前を見る。怖いから、下から上へとゆっくりと顔を上げて見ていった。
「廊下……」
廊下だった。しかし、りんが通ってギリギリくらいの狭い廊下だった。さっきと同様、壁も床も真っ白な廊下だった。
りんは少しずつ歩いていく。
さっきのように何か見つけるかもしれないと、よく目を凝らしながら見ていくが何もなかった。白い壁が永遠に続いていく。
どこまで続くのだろう、と思い始めた時。
「いたあっ」
ごん、と音が廊下中に響いた。
りんは頭を抑える。頭を思いっきりぶつけたらしい。どうやら行き止まりだった。
りんは、あ、と声に出す。
またもや金色に光るドアノブを見つけた。目の前にはドアがあった。
りんはまだ痛む頭から手を離し、ドアノブを回す。
ドアが空いた隙間から、声が聞こえた。
***
えっ、と掠れた声が、りんの耳に聞こえた。
中には人がいた。そして、その人と目が合う。
「り、ん……」
目の前の人物が目を見開いて、そう言った。
「え」
りんも驚いて、目を見開いく。
そして、驚いたと同時に思わずドアノブを握っていた手を離してしまう。音もなくドアは閉まっていった。
でも、そんなことよりりんは目の前の人物が言ったことに関心を注がれていた。
「りん、だよな?何でここに……」
「どうして…」
りんは震える喉を振り絞って、思い切って質問した。
「どうして私の名前を知ってるんですか……?」
りんがそう言った瞬間、一瞬沈黙が落ちる。目の前の人物が、ゆっくりと息を呑むのが分かった。
「誰って……何言ってるんだ。俺のこと覚えてないのか」
困惑しているのがりんにも伝わって来た。しかし、どう頭を振り絞っても目の前にいるのは知らない人だった。りんの人間関係の狭さから考えても、人の顔と名前を忘れることはまずない。
りんが何も答えないでいると、目の前の人物はいきなり立ち上がった。
「え、え…」
そして、みるみる近づいてくる。
りんの肩を思いっきり掴まれて、息が止まった。
「俺だよ‼︎哲也だ、桜田哲也‼︎」
***
桜田哲也。
名前まで聞いてもまだりんには思い出せなかった。
ぱっと見三十代後半の男性がりんの細い肩を強い力で掴んでいる。
りんは至近距離でその顔を見つめるが、全く誰か見当もつかなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……分からないですっ」
りんが泣きそうになりながらそう言うと哲也は、はっ、とした顔ですぐに手を離した。一歩後退ってから小さな声で言った。
「…俺こそ、いきなりごめん」
哲也は背中を向け、さっきまで座っていたであろう場所に戻っていった。
りんはゆっくりとそちらに顔を向ける。
十数秒沈黙が落ちてから、りんがゆっくりと言った。
「…すみません。お知り合いだったかもしれないんですけど、どうしても思い出せなくて。どこかでお会いしましたか」
その言葉に哲也は一瞬だけ沈黙を落としてから、目を逸らしながら言った。
「ああ、会ったよ。君は、桜原りんで間違いなんだよね?」
「はい」
りんは頷いて答えると、哲也は続けた。
「俺も目が覚めたらいきなりこんなところにいたからまだ何もわかってないけど。でも、俺の記憶では俺とりんは一緒に住んでた」
「え…住んでた?」
りんが驚いておうむ返しに言うと、哲也は頷いた。
「ああ。君が家出をしてたところを、俺が拾った。もう半年くらいいるかな。一緒によく出かけたりもしてた」
「そんな……でも、私」
「分かってる。さっきの反応を見たところ、俺のことわかんないんだよね?分からないけど、記憶喪失みたいなものかな。もっとも俺の記憶も正しいとは限らないけどな。…いや、でも確かに俺はりんと暮らしてた記憶がある。俺はずっと独身で一人だったが、いきなりりんが来て生活がガラリと変わったんだ」
哲也はどこか遠くを見て、何かを思い出しているな顔をする。
りんにはとてもそれが演技とは思えなかった。
りんと哲也。どちらの記憶が正しいか分からないが、りんは自分が忘れているような気がした。
そこで、あれ、と思う。
そういえば、自分に関する記憶が一切ない。
りんは自分以外の存在を思い出せなかった。自分の家族が誰なのか、学校の先生も、クラスメイトも、何も思い出せないことに気がつく。
りんが黙っていると、哲也がこちらを見た。
りんは今、自分でも分かるほど体が震えている。さっきとは比べ物にならないくらいにブルブルと震えていた。
「…大丈夫か?」
哲也が駆け寄って来る。
しかし、りんのところに来る前にりんは気を失った。
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