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魚を育てる方法:2-2

「……」


 黙りこくるキール王子。

 それが答えだった。


 二人のしあわせなくらしに、小さな不安が住み着いたのだった。

 指先に刺さったトゲのような不安だった。



 そして午後。


「ミーシェちゃんにお願いがあるの」


 町長のマリーゴールドさんが家を訪ねてきた。


「最近ね、町全体の収入を増やして暮らしを豊かにしようといろいろ試行錯誤してるの」

「観光とかですか?」

「王都ならまだしも、こんな田舎じゃ観光になるものはないわね」


 なら、なんだろう。


「魚」

「おさかな?」

「ええ。魚を育てようとしているの」


 魚は季節や天候によって漁獲量が大きく左右される。

 そうなると当然、値段もかなり変動する。

 マリーゴールドさんは、いつでも同じように魚が獲れるように、人の手で魚を育てようとしているらしい。


「それはいいですね」

「ところがね。うまくいかないのよ」


 人の手で魚を育てようとしても、すぐに死んでしまうらしい。

 そういうわけでここ数年、魚を育てるのに失敗し続けているという。


「実際に見てもらったほうがいいわね」


 マリーゴールドさんに町の池に案内された。

 池は町の人が掘ったものらしい。


 付近の湖から引っ張ってきた水で池は満たされている。

 ここで魚を育てているらしいけど、今は魚は泳いでいない。


「もともと魚が住んでいた湖の水を引いてきたのよ。それでも死んじゃうのよ」

「うーん」


 考える。

 池に手を入れてみる。


「どう? 原因はわかった?」

「い、いえ、まったく……」


 薬の調合や錬金術ならまだしも、魚の飼育の知識なんてまったくない。

 いちおう、錬金術で薬を作ってみよう。


 地面に魔法円を描き、中央に供物となる鶏肉を置く。

 そして心の中で『魚の病気を治す薬』を漠然と思い描きながら錬金術を発動させた。


 蒼い閃光。

 できたのは――黒こげの鶏肉だった。

 失敗だ。


 やっぱり欲しいものが漠然としすぎている。

 この前みたいに、病気の原因になるものが最低限わからないと。

 そもそも魚の死因が病死とも限らないし。


「お役に立てずすみません」

「んーん、いいのよ。でも、ふしぎね。池は湖の環境に近いようにしたはずなのに」

「なにか致命的に違う部分があるのではないか?」

「かもしれませんね」


 自然に暮らしているものと違う部分……。

 エサかもしれない。


「魚のエサは魚の骨の粉末よ。魚肉を加工して捨てるはずだった部分を利用しているの」

「なら、エサも違うでしょうね」


 結局、その日は原因がわからなかった。

 錬金術師とはいえ、聖女とはいえ、万能ではないのだ。

 むしろわたし、おっちょこちょいな部類だし。



 その日の夕食は酒場で食べることにした。

 聖女たるもの、町の人々との交流もしっかりしないといけない。

 酒場はそういうのにうってつけの場所なのだ。


「いらっしゃい! 聖女さまに王子さま」


 店主のダリアさんがいつもの愛想のいい笑顔で接客してくれた。

 いつものカウンター席に座り、飲み物と食事を注文する。


 キール王子はぶどう酒に、黒焦げではない鶏肉のソテー。

 わたしはリンゴのジュースに魚の蒸し焼き。


「魚……魚……」


 魚のことを考えながら魚を食べる。


「口に合わなかったかい?」

「へ? いえっ。とってもおいしいですよ」

「ならよかった。なんだかミーシェちゃん、しかめっ面で食べてたから」

「いろいろ難しい問題がありまして……」


 ダリアさんに今日の一件を話す。


「あー、町長ががんばってた魚の繁殖ね。成功すればいいのにね。そうすればあなたたちにももっと新鮮な魚をふるまえるのに」

「ダリア。お前の料理は今でもじゅうぶんおいしい」

「ありがと、王子さま」


 ダリアさんの作る料理はとてもおいしくて、ついつい食べ過ぎちゃう。

 今度、料理を教えてもらおうかな。


「ミーシェ。二人でピザを頼まないか?」

「あ、いいですね。ダリアさん。ピザをください」

「ふふっ。食べ盛りだね」


 しばらくすると大きなピザがわたしたち前に置かれた。

 生地に敷き詰められたチーズが溶岩みたいにぐつぐつ煮えたぎっている。

 一口大にナイフで切って手に取ると、とろりとチーズが伸びた。


 口に入れると、トマトソースとチーズの味わいが広がる。

 ブラックペッパーの粒も辛くておいしい。

 キール王子も黙々と食べている。


「賛辞を述べたい。シェフを呼んでくれ」

「シェフはアタシよ」


 そ、それってキール王子なりの冗談だよね……。

 王子は真顔で冗談を言うからわかりづらい。


「ダリアさん。リンゴジュースおかわりください」

「はーい、どうぞ」


 ジュースが注がれたグラスが置かれる。

 それをぐっと飲み干す。

 その瞬間、頭が急にぐらりときた。


 世界がゆがむ。

 世界がゆれる。

 頭がくらくらする。


 顔がかあっと熱くなるのを感じる。


「ミーシェ、どうした」

「いけない! 間違ってお酒を出しちゃった!」


 あ、そうか。わたし、お酒を飲んだんだ。

 どうりで。


「ごちそうさまでしたー。お金払いますねー」

「ミ、ミーシェちゃん、だいじょうぶ……?」

「へーきですよー」


 頭がくらくらしてまっすぐ歩けない。

 あ、しまった。

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