雪の降る季節に:8-6
ちょうど農家の人が王都に野菜を卸しにいくというので、わたしたちはそれに乗せてもらった。
年老いた馬が引く荷馬車に乗り、のんびりと王都へ。
野菜に背をもたれて座る、わたしとキール王子にリトリス、ソフィー。
車輪が石に乗り上げるたびにがくんっと揺れ、野菜が崩れ落ちる。
乗り心地はあまりよろしくないけれど、文句は言ってはいけない。
……おしりが痛い。
それに寒い……。
今朝から降っていた雪が止んでいるだけマシなんだけど。
「ソフィー。前々から思ってたんだけどさ」
「なんでしょう、聖女さま」
「それ! それだよ!」
鼻を指さされてきょとんとするソフィー。
「わたしとソフィーは友達でしょ。なのに『聖女さま』呼びなのは他人行儀だよ」
「聖女さまには敬意を払わないと」
「敬意はいらないから友情をちょうだい」
わたしとソフィーは友達だ。
聖女とかそういうのは関係ない、対等な立場でいたい。
友達にはやっぱり名前で呼ばれたい。
迷っていたらしいソフィーは、やがておずおずと言った。
「それじゃあ……、ミーシェさん」
「『さん』かあ」
本当は呼び捨てがよかったんだけど、ここらが妥協点か。
「約束だよ。これからはそう呼んでね」
「承知しました、ミーシェさんっ」
びしっと敬礼するソフィーだった。
そのしぐさがわざとらしすぎて、わたしが笑うと、彼女もつられて笑った。
「友情とはよいものだな」
キール王子も目を細めていた。
「ソフィー。ついでだから敬語もやめてほしいな」
「これは単に私の口癖なので。新聞記者に敬語は大事なのです」
となると、ここも妥協せざるをえないな。
「僕のことも呼び捨てでかまわない。適当に呼ぶといい」
「キール王子はみなさん『キール王子』って呼んでるので、私だけ違うと逆に変じゃありません?」
「ふむ、なるほど。まあ、なんでもいい」
そうやって雑談にふけっているうちに荷馬車は王都に到着した。
さすが王都。都会だ。
人々も建物も風景も、みんなあか抜けている。
地面は石畳でしっかり舗装されているし、立ち並ぶ建築物はみんな背が高い。行き交う人々の服もおしゃれだ。
のんびりとした牧歌的な雰囲気のグリーンヴェイルとは対照的に、王都は喧噪に満ちた、現代的な都市。
さっそくミミのパン屋が仕入れているという問屋を訪ねる。
問屋の店主は体格の大きな中年男性だった。
やさしそうな雰囲気だ。
わたしたちはさっそくレーズンのことについて質問した。
「はい。近年、ぶどうの不作によってレーズンの値段が高騰しているのです。心苦しいですが、顧客のみなさまにはご理解をお願いしております」
「そこをなんとかなりませんか。以前の二倍の価格じゃ利益が得られませんよ」
「申し訳ありません」
交渉――というか、単なるお願いなのだが、ひたすらお願いしても店主は応じてくれなかった。
問屋としてもこれがギリギリの卸値とのこと。
「ミーシェ」
キール王子が耳打ちしてくる。
店主から少し離れてないしょ話をはじめる。




