魚を育てる方法:2-1
田舎町グリーンヴェールにひっそりとある古びた家。
王城を去ったわたしとキール王子はこの小さな町で暮らしている。
錬金術を役立てながら。
ある日の夕食。
わたしはいつもどおり二人分の食事を用意した。
キール王子はもくもくと食事に手をつける。
口に合ったかな。
どきどきしながら感想を待つ。
「おいしいな。ミーシェの料理は」
フッと笑みを浮かべてそう言った。
ほっと一安心。
もっとも、キール王子はいつもそう言ってくれるんだけど。
「前々から思っていたんだが、毎日三食作るのは大変じゃないか?」
「いえ。そんなことありません。むしろやりがいを感じるくらいです。わたしの料理を楽しみにしてくれる人がいるんで」
「ああ。ミーシェの料理はいつも楽しみにしている」
それからキール王子は首を横に振る。
「いや、そうではなかった。大変かと尋ねたのは、料理も錬金術で錬成すればよいのではないかと思ったんだ」
「あ、そういうことですか」
錬金術で料理の錬成はできる。
実際に作ったことはないけど理論上は可能だ。
ただ、錬金術には対価が必要。
その対価を支払うくらいなら、自分で作るほうが安上がりなのである。手間はともかく。
それに、大切な人に手作り料理を食べてもらいたいし。
最後の部分は伏せて、そう説明した。
「だが、『錬金術師のレストラン』というのは新たな商売になるのでは……」
「キール王子……?」
キール王子はなにやらぶつぶつとつぶやいていた。
窓に目をやる。
夜の闇の中に満天の星。
そして満月。
「見てください、キール王子。満月ですよ」
「な、なんだと……」
なぜか動揺するキール王子。
わたし、変なこと言ったつもりはないんだけど。
「ミーシェとの暮らしが充実していて忘れていた」
キール王子は席を立つ。
「出掛けてくる」
「もう夜ですよ?」
「『夜だから』だ。手遅れになる前に」
焦ったようすで玄関に行く。
「ミーシェは留守番を頼む」
「あの、どこへ行かれるのですか」
「……」
わたしの質問に沈黙で答える。
しばらくの沈黙のあとにこう言った。
「今はまだ言えない。だが、いつか必ず明かす。信じてくれ」
彼に『信じてくれ』と言われれば、わたしは信じる。
「わかりました。お気をつけて」
「ありがとう」
キール王子の笑みからは罪悪感が読み取れた。
キール王子が出掛けてから、わたしは王子が帰ってくるのを家で待った。
じれったい。
こっそり後をつけたい気持ちはどうにか抑えられたけど……。
ただ待つだけがこんなにつらいなんて……。
危ないことをしていないといいんだけど……。
二度と帰ってこなかったらどうしよう。
せっかく手に入れた本当のしあわせを失いたくない。
二人でずっとここで暮らしていたい。
そんなささやかな願いさえ叶えば、あとはなにもいらないのに。
不安に押しつぶされそうになる。
それでもわたしは信じて待った。
……。
……。
……。
「……はっ」
小鳥のさえずりが聞こえてわたしは目を覚ました。
いつの間にか寝てしまったらしい。
しかもベッドで眠っている。
寝かせてくれたのはキール王子だろうか。
「おはよう、ミーシェ」
リビングに行くとキール王子が本を読んでいた。
よかった。ちゃんと帰ってきてくれた。
「すまない。昨夜は心配かけたな」
「これっきりですよね……?」




