雪の降る季節に:8-5
ソフィーの慌てぶりに肩をすくめるキール王子。
「どうした、ひよっこ新聞記者。またパンが焼けなくなったのか。それとも財布でも失くしたか」
「あ、いえ、パンはちゃんと焼けてます。ミミさんのパン屋は繁盛してますよ。お財布もちゃんと持ってます。中身はスカスカですが」
「ならば問題あるまい」
「あるんですっ」
ずいっと前のめりになるソフィー。
その分だけキール王子がのけぞる。
「ミミさんのお店では! レーズンパンが! 人気なのですが!」
そこでいったん息継ぎしてから続ける。
「人気過ぎてレーズンが不足しているんですっ」
なにが飛び出てくるかと思いきや、どちらかというとよろこばしい問題だった。
「売り切れということにしておけ」
「そういうわけにはいかないんです。私の取材によりますと、レーズンパンはお店の売り上げの三割を担っているみたいです」
すごく大ざっぱな計算をすると、売り切れだと売り上げの三割の損失になる。
ソフィーの調査によると、レーズンパンは常連客に人気の商品で、多くの家庭の朝食に並ぶ。
そんな人気のパンの売り切れは、お客さんの日常にも支障をきたしてしまうのだ。
「ソフィー。レーズンはどこから仕入れてるの?」
「王都にある卸売りのお店から仕入れていたらしいです」
「そこで追加で注文すればいいんじゃ?」
「それが、最近ぶどうの不作でレーズンが高騰しちゃってて」
この小さな町の小さな店では手が出せない値段になっていたのだった。
卸売りの店の言い値で買ってしまったら、レーズンパンを売っても売るだけ赤字になるという。
グリーンヴェイルにもレーズンは売っているものの、それは一般の家庭向けで、お店で使うような大量の注文には対応していない。
パンがふくらまない問題の次はレーズン不足だなんて。
ソフィーが腕組みして「むむむ……」と難しそうな表情をする。
「どうにかしてレーズンを仕入れる方法はないでしょうか」
「原材料が高騰しているのならどうしようもないかも……」
いくら聖女といえど、ぶどうの不作までは解決できない。
かといって、グリーンヴェイルの食卓にレーズンパンが並ばなくなるのも見過ごせない。
「今ここじゃ解決方法は思いつかないから、調査しよう」
「調査ですか!」
その単語を聞いた瞬間、ソフィーの目が輝く。
「調査ならこの未来のジャーナリストのソフィーにおまかせあれ!」
「王都に行くなら僕も同行しよう。王子という肩書が役立つかもしれん」
「ボクも行くよ」




