雪の降る季節に:8-3
「こんなパン、とてもじゃないけどお客さんに出せないわ。これじゃ廃業よ」
涙ぐむミミさん。
どうにしかして助けてあげたい。
でも、原因がわからないと解決しようがない。
念のために厨房も見せてもらったけれど、特に変わったところはなかった。
実際にパンを焼いてもらう。
焼きあがったパンはやはり、つぶれた失敗さくだった。
いつもどおりのレシピなのに、どうして失敗してしまうのだろう……。
ソフィーがわたしの手を握ってくる。
「聖女さま、このソフィーからもお願いします。ミミさんのふっくら焼きあがったパンをまた食べたいんですっ」
ふっくら焼きあがった、か……。
レシピどおりに作って失敗しているのなら、どこかに必ず普段と違った部分があるはず。
ひとまずわたしたちは自宅に帰ってきた。
パンがふっくらしない原因……。
見当もつかない。
パンの材料が劣化したのかと思ったけど、それも違った。
調理器具もちゃんとしたものだった。
うーん……。
「ミーシェ、これを見てくれ」
悩んでいるとき、キール王子が植木鉢を持ってきた。
「植えた種が芽を出した」
鉢植えに盛られた土から、小さな新芽が頭を出していた。
キール王子はうれしが笑みを浮かべている。
「こんな寒い冬でも芽を出すのだな」
「驚きですね。てっきり冬を越して暖かくなってから芽を出すと思ってました」
「暖炉のある部屋に置いておいたからかもしれない。どんな色の花を咲かせるのか、今から楽しみだ」
キール王子は萌芽を心からよろこんでいる。
王子、こんな笑いかたもできるんだな。
普段のクールな笑みとは違う、子供っぽいむじゃきな笑いかたにわたしはときめいた。
……暖かい部屋だから芽を出した……。
気になって外に出る、
庭に置いておいた鉢植えの雪を払う。
外に置いてあった鉢植えからは芽は出ていない。
やはりあの鉢植えに植えた種は暖かい場所だったから芽を出したのだ。
「キール王子。ミミさんのパン屋に行きましょう」
それからわたしたちはソフィーを連れて、再びミミさんのパン屋を訪れた。
「ふっくらしたパンが焼けるって、本当ですか?」
「たぶん、今度こそ焼けると思います」
「じゃあ、さっそく作ってみますね」
「あ、待ってください」
パンをこねようとするミミさんをいったん止める。
「その前に、厨房を暖めてください」
「あ、寒かったですか?」
「わたしは平気ですけど、パンは平気じゃなかったんです?」
「……?」
ミミさんもソフィーも首をかしげている。
ひとまず暖炉に火を入れ、厨房が暖まるのを待った。
そしてちょうどよい室温になってからミミさんにパンを作るのをお願いした。




