雪の降る季節に:8-2
わたしも背後から虫眼鏡を覗き込む。
虫眼鏡には美しい結晶が映っていた。
左右対称の、芸術的な多角形。
差し込む太陽の光できらきらと輝いている。
「これが雪なの? ミーシェ」
「雪はこの小さな結晶の集まりなんだよ」
キール王子とリトリスが驚くのも無理はない。
人間の目では、雪は白いふわふわしたものにしか見えないのだから。
実は雪というのは、芸術作品のような結晶なのだ。
「これは本当に自然が生み出したものなのか……」
「人間が芸術作品として作ったようにしか見えませんよね」
「外に積もっている雪、すべてがこの結晶の集まりなのか?」
「そうですよ」
キール王子もリトリスも、まるでこの芸術に魅せられたかのように見入っていた。
「もしかすると、神がこのように彫刻したのかもしれないな」
「かもしれませんね」
トントン、と玄関のドアがノックされる。
「こんにちは、聖女さまっ」
来客は新聞記者見習いの少女、ソフィーだった。
「今朝から寒いですねー」
「そうだね。暖炉の前から離れられないよ」
「外に雪だるまがありましたね。さっそく楽しんでますねー、みなさん」
そんなふうに軽く雑談する。
それからソフィーは本題を切り出した。
「実は、困っている人がいるんです」
そう言われて、わたしとキール王子、リトリスはソフィーにある場所まで連れてこられた。
町のパン屋だ。
わたしは普段、別のパン屋でパンを買っているでここに来るのは初めてだ。
「ミミさん、聖女さまを連れてきましたよ」
中に入ると、ミミさんと呼ばれた店主らしき女性が出迎えてくれた。
「ありがとう、ソフィー!」
「聖女さまならどんな困りごとでも解決してくれますよっ。ですよね?」
「ぜ、善処はするかな……」
ものすごく期待されている……。
でも、さっきソフィーから聞いた話だと、わたしが力になれるかどうか不安だ。
「えっと、ミミさん。困りごとっていうのは、パンが上手に出来上がらないことですか?」
ミミさんのパン屋はグリーンヴェイルでも人気のお店で、常連客が大勢いるという。
彼女の焼くパンはとてもおいしいとのこと。
そんな彼女だったが、ある日からおいしいパンを焼けなくなった。
「お店はもう一週間もお休みしているの。満足のいくパンが焼けなくて」
材料や作り方を変えたりはしていないらしい。
いつものようにいつものレシピでパンを焼いたはずが、出来上がるのはどれも失敗作になってしまうのだ。
パンを一つ持ってきてもらう。
ミミさんの言うとおり、そのパンはしなしなにつぶれていて、見るからにまずそうだった。
口にしてみると、確かにこれでは商品としては出せない味だった。




