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キャンバスに描くもの:7-10

 後日、キール王子のはからいでボードンさんの個展が王都で開かれた。

 個展は大成功を収めた。


 特に成功したのは、彼の万人向けの昔の絵だけでなく、現在の混沌とした絵も人気を博したこと。

 彼の現在の絵は、いずれも驚くべき高値で売れたのだ。

 しかも、貴族のパトロンまで得ることができた。


「ありがとう、聖女さまに王子さま。キミたちに出会わなければ、私はあの小さな家で狂ってしまっていただろう」


 ボードンさんは涙ながらにわたしの手を握ってくれた。


「しかし、どうして昔の絵といっしょに展示しただけで今の絵も評価されたのだろう」

「えっと、素人の考えで恐縮ですが、芸術っていうのは付加価値も大事なんだと思います」


 もちろん、絵はそれ自体の技巧によって価値が決まる。

 けれど、それ以外の情報――たとえば、町の子供たちが描いたのだとか、王家の人間が描いたのだとか、写実的な芸術家の新たな画風だとか……。

 そういう絵の本質から外れた他の要素も価値に結び付くのだとわたしは思う。


 極論、絵の良さだけで価値が決まるのなら、写真が最も優れた絵になるからね。

 そうならないのは、作品にまつわる物語が大事だから。


 ボードンさんの過去や境遇がそろってはじめてあの混沌とした絵は完成するのだ。

 キール王子が感心したふうにうなずく。


「付加価値か。なるほど。ただ絵をポンと出せばいいわけではないのだな」


 子供たちの絵も無事に帰ってきた。

 ボードンさんも画家として再起したし、万事解決だ。



 そして……。


「聖女さまがまた一つ、奇跡を起こしましたね!」


 この件はさっそくソフィーによって新聞記事になった。

 狂気に陥ったボードンさんが立ち直った話は新聞が発行されたその日のうちに広まったのだった。


「でも、ちょっとズルい気がします」


 ソフィーがくちびるを尖らせて文句を言う。


「私が魂を込めて撮った写真より、キール王子が戯れで撮った写真のほうが付加価値がつくわけですよね。不公平ですよー」


 一国の王子が撮った写真。

 それは結構な値段がつくのは間違いない。

 絵画コンクールで展示した絵だって、しかるべき場所で公表したらとんでもない値段になるは確か。


「ソフィーが立派な新聞記者になれば写真も価値がつくよ」

「わかりましたっ。世界一のジャーナリストになるためにがんばりますっ」


 闘志を燃やすソフィーだった。


「手始めに聖女さまと王子さまの熱愛を記事にしたいのですが!」

「それは遠慮してもらいたいかな……。あはは」

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