キャンバスに描くもの:7-8
盗んだ犯人はグリーンヴェイルの外の海辺に住んでいる。
手がかりをつかんだことをマリーゴールドさんに伝えると、マリーゴールドさんは「やっぱり」と小声でつぶやいた。
「海辺にはね、一軒だけ家が建っているのよ」
「町から離れた場所にですか?」
「そうよ。その家の住人、ちょっと変わり者だから」
手招きするマリーゴールドさん。
彼女に案内され、わたしたちは一枚の絵画の前に連れてこられた。
出展された作品の一つ。
それは絵というにはあまりに奇妙だった。
人物画でも風景でもない。
無秩序かつ乱暴に色を塗りたくった、なにを描いているのか見当もつかない奇妙な絵だった。
一言で表すなら、混沌。
キール王子が眉間にしわを寄せて目を凝らす。
「これは絵なのか?」
「絵よ。少なくとも本人はそう主張してる」
作品の題名は『都市の喧噪』だ。
作者の名前はボードン。
「ボードンさんはもう何年も前に町から出ていってね、海辺の小さな家でこんな感じの絵をずっと描いてるの」
「一人でか」
「『独り』でよ」
ボードンさんは、昔はまっとうな風景画を描いていたらしい。
王都でもそれなりに評価されていて賞をもらったことだって幾度もあったという。
ところがある時期を境に、どんな心境の変化か今の画風になった。
彼の描く抽象的な絵は誰にも理解されず、孤立し、次第にボードンさんは狂気に陥りってグリーンヴェイルを離れていったのだった。
「絵画コンクールで自分の作品が受賞せず、子供の落書きが最優秀賞をもらったのが我慢できなかったのだろうか……」
「そんなところだと思うわ」
ため息をつくマリーゴールドさん。
ボードンさんは、昔は穏やかな性格で絵の生徒や弟子もいた。
けれど、現在の奇妙な作風になってからは怒りっぽくなり、人々は彼に寄りつかなくなったとマリーゴールドさんは言った。
「かわいそうな人なのよ。自分では最高傑作だと思っているものが、誰にもわかってもらえないんだから……」
「なら、町長のお前が賞をくれてやればよかっただろうに」
「同情であげる賞に価値があると思う?」
今の話を聞く限りでは、ボードンさんが子供たちの絵を盗んだ可能性が高い。
「ミーシェちゃん。お願いがあるんだけど」
「わかってます。穏便に済ませればいいんですよね」
「仮に彼が盗んでいたとしたらね」
マリーゴールドさんがわたしにこうお願いする。
「ボードンさんを救ってちょうだい。ミーシェちゃん」
わたしとキール王子、リトリスの三人で海辺にやってきた。
岬に小さな家がある。
あそこにボードンさんが住んでいる。
「ボードンさん、いますか?」
家の前まで来て、玄関のドアをノックする。
しばらく待つも、返事はない。
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