キャンバスに描くもの:7-7
けど、どうしてこの絵が盗まれたのだろう。
孤児院の子供たちがクレヨンで描いた、元気な絵。
グリーンヴェイルの絵画コンクールの最優秀賞をこの作品は受賞した。
でも、それだけだ。
小さな田舎町の身内だけで楽しむコンクールの賞など、外からすればなんの付加価値もない。
これが王国主催の大規模なコンクールなら別の話だけれど。
つまり、この絵は盗んで売ったところで銅貨一枚にもならないのだ。
展示されている作品の中には、国でそこそこ名の売れている画家の絵もある。
売ってお金にするのならそっちを盗むはずだ。
となると、考えられるのは……。
コンクールを台無しにしてやろうという単純な悪意からの行為。
「マリーゴールドさん。絵画コンクールに不満を抱いている人はいませんでしたか?」
「思い当たらないわね……。別に不満が出るようなコンクールじゃないし。みんな楽しく参加してたわよ」
コンクールの開催に不満がなかったのなら……。
「最優秀賞にあの絵が選ばれたことに納得のいかなかった人は?」
「……」
マリーゴールドさんが考え込む。
あの絵が受賞したのは、町の子供たちが元気いっぱいに描いたという理由からだ。
そういった背景を抜きにして部外者が見たら、あの絵は地面に描いた落書きに等しい。
そんな絵が受賞したことに不満を抱く人はいるかもしれない。
金銭目的ではなく、動機は嫉妬。
「あの絵の受賞に抗議した人はいなかったわね」
「直接抗議しなくても、不満をおぼえるような人に心当たりは」
「嫉妬深い画家がいるのではないか? マリーゴールド」
「いない、と町長の私は信じたいわ」
含みにある言いかただ。
きっとマリーゴールドさんは心当たりがあるのだろう。
けれど、それを口にはできない。
証拠もないのに「そういうことをしそうな性格だから」と疑えないのだろう。町長という立場として。
「わかりました。わたしたちが子供たちの絵を取り戻します」
キール王子とリトリスに目をやる。
二人ともうなずいてくれた。
マリーゴールドさんや大人たちには手違いで紛失した可能性がないか、あちこちをさがしてもらうようお願いした。
わたしたちは悪意で盗まれた可能性を前提にさがす。
「……」
「手がかりはつかめたか?」
町の人への聞き込みにいっていたキール王子が戻ってきた。
手がかりはつかめていた。
わたしは手のひらにハンカチを広げてみせる。
ハンカチの上には白くて細かい粉。
その中に小さな破片が混じっている。
これは絵が飾ってあった場所の足元に散らばっていたもの。
「砂浜の砂です」
「小さな破片は……、踏み砕かれた貝殻か」
「持ち去った人物の靴の裏からこぼれたんだと思います」
展示会場は閉館した後に清掃された。
にもかかわらず、この砂が散らばっているということは、閉館後に忍びこんだ者が残したと考えられる。




