キャンバスに描くもの:7-6
一見、ふつうに見えて矛盾している絵。
来場した人々はみんなふしぎそうに首をひねりながら見ていた。
「でも、妙ですね。聖女さまのこの絵が最優秀賞に選ばれなかったのは」
たしかに、人々の注目を集めたのが基準になるのなら、わたしのこの絵が一番だろう。
けれど、ソフィーも納得するはず。
最優秀賞の絵を目にすれば。
最優秀賞の絵は、大きな画用紙に孤児院の子供たちが描いた絵だった。
いろいろな色のクレヨンで描かれた絵は、太陽の下、子供たちがシスターと遊んでいる絵だった。
ほほえましい。
小さな子供たちの描いた絵だから、凝らした技巧や斬新な発想なんて当然ない。
でも、この絵を退けて最優秀賞に選ばれる絵が果たしてあるだろうか。
ソフィーも笑みを浮かべている。
「あー、この絵にはさすがの聖女さまもかないませんね」
「でしょ」
立ち止まる人々はその絵を見て笑顔を見せる。
心をあたたかくする絵。
そういう絵こそ最優秀賞に選ばれるべきなのだ。
展覧会の初日はこうして終わった。
絵の展示は一週間、続けられる。
「すまない、ミーシェ。キミを描いておきながら最優秀賞に選ばれなくて。キミの美しさを周知しようと思ったが、力が及ばなかった」
「あれでじゅうぶんですよ。わたしを描いてくれてありがとうございます」
わたしに魅力があるとすれば、それはキール王子だけが知っていてくれればじゅうぶん。
リトリスがポットから頭を出す。
「ボクを描いてくれた絵、賞をもらってたね」
「リトリスがかわいかったおかげだね」
「てへへー」
会場にはいろんな絵が展示してあった。
子供の描いたほほえましい絵や、画家の描いた本格的な風景画、写真みたいに写実的な絵。いろいろあって、描いている人の個性がどれもあふれていた。
見る側としても楽しめる一日だった。
「僕の絵が選ばれなかったのは残念だったが、最優秀賞の絵を選んだ者はこのコンクールの本質をよく理解していると言わざるを得ない」
「そうですね」
選んだのは町長であるマリーゴールドさんかな。
あの人ならあの絵を選んでもふしぎではない。
事件が起きたのは翌日だった。
わたしとキール王子は朝早くにマリーゴールドさんに叩き起こされて、コンクールの会場に連れてこられた。
そして、最優秀賞の絵が飾られていた『はず』の場所に今はいる。
「……ない」
そこに飾られていた絵がなくなっていたのだ。
「朝、ここに来てみたらなくなってたのよ!」
「誰かが片づけたんじゃ?」
「関係者に聞いて回ったけど、誰も片づけてないのよ」
絵に足が生えていないから、展示される恥ずかしさで失踪するのはありえない。
となると、可能性は……。
「盗まれたのか」
「そうなのよ王子! 盗まれちゃったの!」




