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キャンバスに描くもの:7-5

 うつむいて、股のあたりで手をモジモジしはじめるソフィー。


「私のは拙いなんてものじゃないんで、見るだけ損かと」

「そんなわけないよっ。ソフィーがいっしょうけんめい描いた絵、見てみたいな」

「そ、そうですか!」


 ぱあっと顔を明るくさせる。


「ではではでは、ご案内しますね」


 会場の奥に進み、ソフィーの作品の前まで案内される。

 ついたてに飾られた一枚の絵画。

 男性と女性が並んで笑みを浮かべている絵だ。


「ご両親?」

「そうです。父と母が私にとってカメラより大切なものなので」


 照れ笑いを浮かべているソフィー。

 ……両親か。

 わたしは自分の両親のことを思い出して涙ぐんでしまった。


「聖女さま!?」


 わたしがいきなり泣きだしたせいでソフィーが動揺する。


「あわわわ……。駄作だと思ってましたが、聖女さまを泣かせるほど悲惨だとは……」

「逆だよ。感動したんだよ」

「でも、賞もなにももらっていないんですよ」

「そんなの関係ないよ。わたしはすごく感動した。ステキな絵を見せてくれてありがとう」


 わたしが笑みを見せると、ソフィーもはにかみ笑顔を返してくれた。


「ところで聖女さま。あっちのほうに人だかりができてませんか?」

「……あれかー」


 ある一作品の絵に大勢の人が群がっている。

 みんな、驚いた面持ちをしている。


「あれもわたしが描いた絵なんだ」


 実はわたし、こっそりもう一作品絵を描いたのだ。

 ちょっと実験的というか邪道というか、そういう変わった絵だったのでキール王子やソフィーには秘密にしていた。


「そうだったんですねっ。さっそく取材ですっ」


 ソフィーは人だかりの中に果敢に飛び込んでいった。

 わたしも後ろのほうから眺める。


 水路を流れる水の絵。

 水路は途中で途切れ、一段下の水路に落ちる。

 それから水路はまた途切れ、もう一段下に落ちる。


 一見、なんの変哲もない、殺風景なこの絵、実は――。


「あれ? この水路……」


 まじまじと眺めている間にソフィーも気付いたらしい。


「循環してます!」


 その水路は四角形を描いて循環しているのだ。


「水は下の段に落ちていってるのに、気がついたら一番上の段に戻ってきてます!」


 そしてこの水路の循環は矛盾している。

 下へ下へ落ちていっているのに、循環するころにはその水は一番上の段に戻ってきている。


「どどどどーいうことなんですか!?」

「ちょっと思いついたのを描いてみたんだ。面白いでしょ?」


 ソフィーはじっと目を凝らしてその矛盾した絵をにらみつけ、矛盾の原因をさぐっている。


「頭がこんがらがっちゃいました……」


 その絵は『ふしぎで賞』という賞をもらっていた。


「教えてください聖女さま。どうして下に向かって流れていった水が上に戻ってきてるんですか?」

「そういう絵なの。よく見ればわかると思うけど、現実では起こりえないつながりかたをしているんだよ」

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