キャンバスに描くもの:7-3
「王国の美青年の王子さまとの甘い生活……。うらやましいです」
うっとりとするソフィー。
「ふだん、王子さまとはどんな生活をしているんですか?」
「どう、って……。ふつうだよ」
「王子さまはどんな方です? やさしいですか」
「不愛想なところもあるけど、本当はやさしい人だよ」
処刑されかけた『偽聖女』のわたしを救ってくれたのは、他でもないキール王子。
そしてグリーンヴェイルの住まわせてくれたのも。
わたしの今の生活があるのは、ぜんぶキール王子のおかげだ。
わたしにとってキール王子はかけがえのない人。
そして、できれば、キール王子にとってのわたしも同じ存在であればうれしい。
「詳しく記事にしたいですっ」
「それは遠慮してもらいたいかな……。あはは」
「王子さまにも取材したいところですね」
たぶん、不愛想な顔であしらわれるだろう。
というか、これまでもそうされてきたのを何度も見ている。
キール王子は容赦しないからね。
「それよりもソフィー。ソフィーも絵を描こうよ。わたしといっしょに」
わたしはソフィーの手をぎゅっと握ってぶんぶん振る。
「うーん」
上を向いて考え込むソフィー。
それから「わかりましたっ」とうなずいた。
「取材には実体験が重要! 私もコンテストに参加します!」
「まずはなにを描くか決めないとね」
「よーし、おもしろそうなものがないか町をさがすぞーっ」
ソフィーはすっかりやる気になっていた。
「それでは聖女さま、私はこれにて失礼しますっ」
そして走り去っていった。
ホントに元気だな、ソフィーは。
午後。
わたしは再びスケッチブックとペンを手に絵を描いていた。
テーブルにはリトリスが頭を出したポット。
「ボクはかわいく描けてるかい?」
「ばっちり! 期待しててね」
我ながらよくできてる、と自画自賛。
でも、優勝はきっと無理だろう。
町には画家も住んでいる。
本職の彼らを出し抜いて勝利するのは不可能。
たとえ聖女であってもだ。
「よく描けている」
「ひゃっ」
背後からキール王子がわたしの手元を覗いてきた。
いきなりだったので驚いた。
キール王子の端正な顔が真横に……。
ドキドキする。
こんなに顔と顔を近づけたのは初めてかも……。
キール王子のほうはといえば、別段恋心を意識するようすもなく、わたしのスケッチブックを覗き込んでいる。
「コンテストが終わったら額縁に入れて飾ろう」
ようやく顔が離れる。
わたしは心臓が飛び出さないよう、胸を押さえた。
「そういえば、ソフィーも絵を描くんですよ。芸術心をくすぐるモデルをさがしに今頃町中を駆け巡ってると思いますよ」
「あの、新聞記者娘か……」
キール王子が珍しく苦笑いを浮かべた。




