キャンバスに描くもの:7-1
ある昼下がり。
わたしは今、自宅の居間でソファに腰かけている。
正面の少し離れたにはキャンバスを乗せたイーゼル。
キャンバスに向かってキール王子が座っていて、黒炭のペンを手に熱心に絵を描いていた。
目の前に座っているわたしを描いているのだ。
「あのー、キール王子。やっぱり恥ずかしいんですけど……」
絵のモデルなんて似合わない。
キール王子が「どうしてもキミを描きたい」と言ってくれたから承諾したものの、すでにそれを後悔しつつあった。
現在、グリーンヴェイルの町で絵画コンテストが開催されている。
町の人たちはみんなコンテストの受賞を目指し、こぞって絵を描いている。
キール王子もその一人だった。
「恥じらう必要などない。ミーシェは美しいのだから」
「あはは……」
視線をそらして頬をかく。
照れくさい……。
キール王子の気持ちはうれしんだけど……。
キール王子は真剣な面持ちでデッサンしている。
この小さな町のコンテストで受賞したところで、王都のアトリエから声がかかるわけではない。
それでもみんな、がんばって絵を描いているのは、単純にこの町に娯楽が少ないからだ。
釣りの大会があれば釣りをして、球技の大会があればボールを追う。
町長のマリーゴールドさんはそうやって町の人が楽しめるイベントをときどき催しているのだ。
「ミーシェには感謝しないとな」
「感謝ですか」
「ああ。キミの絵を描けば優勝は間違いなしだ」
「わ、わたしみたいな田舎娘じゃ無理ですよ」
「そうか? キミより美しい女性を僕は知らない」
キール王子はそういうことを平然と言う。
しかも、それはまぎれもない本心らしい。
氷のような端正な容姿のキール王子。
そんな彼に一途に好かれるわたしはきっと、身に余る光栄なのだろう。
テーブルに置いてあったポットのふたが開く。
そこから緑の精霊リトリスが頭を出した。
「ミーシェはボクを描いてよ」
「うん、いいよ」
キール王子のモデルにもなっているけれど、実はわたしも参加者である。
スケッチブックを手に取り、ペンを動かしてリトリスを描いていく。
「リトリスはかわいいから、きっと優秀賞をもらえるよ」
「ありがとう、ミーシェ」
ポットから頭を出す、小動物めいた小さな緑の精霊。
うん、かわいい。
少なくとも、わたしよりかはよっぽど。
お昼が近くなり、昼食の食材を買いに外へ。
小さな田舎町でも、お昼時になればそれなりに賑わいをみせる。
人々が行き交う。
その中に見知った顔もわりとあった。
「ごきげんよう、聖女さま」
「こんにちは、おばあちゃんっ」
腰の曲がったおばあちゃんがすれ違いざまにおじぎしてくる。
わたしもすかさずあいさつを返す。
「あっ、聖女さまだー。遊んでー」
「遊んでよー」
「また今度ね」
子供たちが遊んでくれとせがんでくる。
平和だ。
王城にいたころは、自分の役目をまっとうしようと張りつめていたっけな。
なんとかしてロッド王子の病を治す薬を錬成しようと、必死になっていた。




