シルヴァリオン:6-3
動物ではない。
魔物だ。
魔物は明確に人間に害をなす存在。
「ミーシェ、リトリス、下がって入ろ」
キール王子が剣を抜く。
抜き身の美しい刀身が鞘から現れる。
魔物が頭を下げ、ツノを水平にして鋭い先端をこちらに向けてくる。
そして勢いよく突進してきた。
キール王子が危ない!
わたしはとっさに叫んだ。
「キール王子を守って!」
その瞬間、わたしの中にあった魔力が魔法となって発現し、光の壁となってキール王子の目の前にせり出した。
光の壁に激突する魔物。
光の壁が砕け散ると同時に魔物がひるむ。
その隙にキール王子が剣で斬りかかった。
剣の刃が喉を裂く。
急所を斬られた魔物は血を出しながら地面に倒れた。
横出しになってしばらくもがいてたけれど、やがて動かなくなった。
絶命した。
しばらくすると魔物は粒子になって大気に霧散し、跡形もなく消滅した。
「助かった、ミーシェ」
「すごいやミーシェ。魔法が使えたんだね」
「錬金術の応用……、だと思う。光の壁を錬成したんじゃないかな」
とっさの出来事だったので自分でもよくわからない。
とにかく、脅威は退けられた。
「ミーシェが魔法を使えるのなら、ボクはいらない……、なんてないよね?」
不安げなリトリス。
わたしは「そんなことないよ」と首を横に振った。
「わたしは魔法の専門家じゃないもの。やっぱりリトリスの力を借りたいよ」
「よ、よかったー」
ほっと安堵するリトリス。
だいじょうぶだよ。わたしは見捨てたりしないから。
そのとき、森のおぞましい叫び声が響いた。
雷雲のような獣の咆哮が空気を震わせる。
木々の枝で羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び立つ。
「シルヴァリオンの咆哮だよ!」
リトリスが言う。
「シルヴァリオン、ずっと頭痛に悩まされてて、痛みに耐えられないときに叫び声を上げるみたいなんだ」
「おぞましい咆哮だ……」
「早く治してあげないと」
わたしがそう言うと、キール王子がわたしの顔を覗き込んできた。
「まさか、シルヴァリオンを心配しているのか?」
「だって、かわいそうじゃないですか。痛みがずっと続いてるなんて」
「……」
黙り込むキール王子。
それからいつものクールな笑みを見せてくれた。
「ミーシェらしいな」
それってほめてるのかな……?
「ミーシェはやさしいね」
「そうだ。彼女はこの世界の誰よりもやさしい」
い、言いすぎだよ王子!
「そんな彼女と出会えて僕は幸運だった。この運命がどれほど喜ばしいか」
わたしは恥ずかしくなって「あはは……」と笑ってごまかすしかなかった。




