シルヴァリオン:6-2
「なんにせよ、竜のエサにならなくてよかった」
「リトリス、精霊の泉には入らせてもらえた?」
「それなんだけど……」
リトリスが真剣な面持ちになる。
といっても、ぬいぐるみみたいなかわいい顔なんだけど。
「結論から言うとね、精霊の泉には入らせてもらえなかったんだ」
「どうして?」
「いばりんぼの竜が無償でなにかを許してくれることなんてないよ」
そうなんだ……。
「つまり、なにかを差し出せと要求してきたのか?」
いけにえ……。
そんな言葉が思い浮かぶ。
竜といえば人の供物だ。
どうしよう。いけにえを要求されたとしたら……。
「えっとね、お医者さんを呼んでほしいみたい」
「……へ?」
わたしとキール王子はぽかんとした。
医者?
シルヴァリオンは病気なのだろうか。
「シルヴァリオン、もうずっと昔から身体の具合がよくないんだって」
「だから医者に診てもらおうというのか」
医者ならグリーンヴェイルの町にもいる。
しかも、当のわたしが医者のまねごとをしている立場だ。
とはいっても、竜の診察なんてできっこない。
竜の医者。
獣医ならぬ竜医が必要になってしまった。
「症状は?」
「頭が痛いんだって」
頭痛か。
頭痛薬を山ほど持っていけばいいのかなぁ。
そういうわけでわたしとキール王子、それとリトリスの三人で『竜の森』へと向かった。
町中の頭痛薬をかき集めて。
もちろんマリーゴールドさんにも森へ立ち入る許可をもらっている。
わたしたちは森の中に踏み入る。
太陽の光を少しでも多く浴びようと、競い合うように背を伸ばして枝葉を広げる木々。
そのせいで空にはフタがされて、森の中は昼間だというのに薄暗い。
わずかな木漏れ日の頼りない光が、唯一の光源。
リトリスに案内され、わたしたちは慎重な足取りで森を歩く。
湿った落ち葉と土を踏みしめる感触が靴底から伝わる。
風に木々がの葉が揺れ、ざわざわと不気味な音を立てている。
草むらがときおり揺れているのはきっと、動物がいるからだ。
「シルヴァリオンはずっと森の奥にいるよ」
「だから帰ってくるのが遅れたんだね」
「シルヴァリオンをさがすのに手間取ったからね」
「まっすぐシルヴァリオンに会いにいけば近いのか?」
「うーん、帰るころには日が暮れるかも」
一応、一日分の食料と寝袋を持ってきて正解だった。
今夜はきっと森で野営だね。
「まて、ミーシェ!」
突然、キール王子が前に出てわたしをかばうように立った。
目の前の草むらから大きな影が飛び出てくる。
その影の正体はシカだった。
……ただのシカではない。
普通のシカは茶色い体毛のはずだけれど、目の前にいるそれは灰色の体毛をしている。
そしてツノは金属のような銀色で光沢があった。




