聖女の契約:5-1
「なに、どさくさにまぎれてイチャイチャしてるのよ」
マリーゴールドさんも無事のようだ。
イチャイチャはしていないんだけどなぁ。
さて、封印は解けたけれど、中に入っていたのは本当に悪魔だったのだろうか。
視線を壺のほうに戻す。
ところが、そこにはふたの開けられた壺以外、なにもなかった。
「悪魔がいない……」
「壺のなかにはなにもいなかったのか」
「ふーむ、あの派手な演出でハズレとは考えられないわね」
マリーゴールドさんの言うとおりだ。
間違いなく、わたしはなんらかの封印を解いた。
「ボクをさがしているのかい?」
声が聞こえた。
少年の声だ。
声は頭上からした。
「あっ」
壺の真上に一匹の小さな生物が浮遊していた。
太いしっぽが特徴的な、リスに似た生き物。
身体はエメラルドのような緑色。
ぬいぐるみのような愛くるしい顔をしている。
そんな小動物的な生き物が、翼もないのに宙に浮いていた。
この子が、壺に封印されていた悪魔……?
疑問形なのは、どう見えてもこの子が悪魔には見えなかったからだ。
「お前が壺に封印されていた悪魔か」
「悪魔とはひどいなぁ。ボクは悪魔じゃなくて精霊だよ」
精霊……。
この世界の自然のあらゆるものに宿るという存在。
「ボクの名前はリトリス。封印を解いてくれてありがとう、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん……」
なんだかむずかゆい。
自分のことを『お姉ちゃん』って呼ばれたことなんてなかったから。
「リトリス。あなたが悪魔じゃないのなら、どうして封印されていたの?」
「そ、それは……」
うろたえるリトリス。
口ごもってわたしから視線をそらしている。
どうやら言いづらい事情があるようだ。
そこにキール王子が追撃を加える。
「白状しろ。さもなくば再び壺に封じる」
「わーっ、それはやだやだ! 壺の中は退屈なんだもん」
リトリスは壺に封じられた経緯を話してくれた。
はるかむかし、キッコロ村に果物のなる木がたくさんあったという。
ある日、リトリスはそれを一人で全部平らげてしまったのだ。
果物は村の大切な食糧。
怒った村人たちは魔法使いに頼み、リトリスを壺に封じ込めたのだった。
「……そういうわけなんだ」
「自業自得ではないか」
「反省してるよ……。だから壺には封じ込めないで」
「わかっ――」
「まて」
わたしが「わかったよ。許してあげる」と言おうとしたのをキール王子が制した。
「リトリス。お前の罪は免じよう。ただし、条件がある」
「なんでも言うこと聞くよ」
「彼女の召使いとして働くことだ」
「その女の子に力を貸せばいいってこと? お安い御用だよ」
リトリスはほっと安堵の息をついた。
「いいの? リトリス」
「うんっ。お姉ちゃん、きれいでかわいいから。命じられなくてもいっしょにいたいくらいだよ」
「か、かわいい……」
わたしは自分を指さす。
「そうだ。ミーシェは美しい女性だ。そして神に選ばれた聖女でもある」
「聖女さま? それはすごいね!」




