町と村の交易:4-2
岩が動く。
バランスを崩した岩はよろめき、崖の下に落下した。
時間差でがけ下からドーンッという音がした。
「すげえ。ホントに三人だけの力で大岩を動かせた……。動かせた理屈はわかんねえけど」
「さすがはミーシェだ」
これがてこの原理。
勉強しておいてよかった。
立ちはだかるものを退けたわたしたちは先へ進み、夕暮れの時刻にはキッコロ村に到着した。
キッコロ村は驚くほど小規模な集落だった。
村長の話によると、人口は100人にも満たないとのこと。
こうなるともう、全員が身内みたいなものだね。
わたしとキール王子、そしてガジさんは村人たち総出でもてなされた。
その日は村長邸でごちそうがふるまわれたのだった。
その宴会の席でわたしたとキール王子は自己紹介した。
わたしが聖女でキール王子が王子だと知ると、村人たちはみんな驚いた。
「この国の王子さまがはるばるこんな田舎まで来てくださって。ありがたいことですな」
「王子といっても第二王子だ。ここに来たのも国を代表しているわけではなく、一個人の興味本位でだ。気安く話しかけてくれ」
「そっちの聖女さまもすごいねえ。グリーンヴェイルの町の問題をいくつも解決したなんて」
村人たちはいったん先から離れ、村長となにやらこそこそ話しだす。
どうしたのだろう。
わたしたちのことをちらちら見ている。
しばらくすると、村長が村人たちを代表してこうお願いしてきた。
「王子さまに聖女さま。どうかこのキッコロ村の問題も解決してください」
翌日、わたしたちは村長に連れられて村の畑を訪れた。
一件、なんの変哲もない畑だ。
「いくら種を植えても作物が実らないのです。芽が出ても大して育たず、枯れたりもして」
「食料になる作物がぜんぜん収穫できず、このままでは冬が越せません」
「なんとかならないでしょうか」
土を素手で触ってみる。
さらさらした土だ。
たしかに、作物が実らなそうな土をしている。
「他の土地で作物を育ててはどうだ」
キール王子が提案する。
「それも試したのですが、その土地も一度収穫したら、二度目はまた育たなくなるのです」
「ふむ。あっちこっち耕していたら住む土地がなくなるな」
「水はやってるか?」
ガジさんが質問する。
「ええ。幸いにも天候には恵まれてますので、水はじゅうぶんに与えています」
「水不足が原因じゃないってわけだな」
「せめて原因さえわかればいいのですが……」
「一度使えなくなった土地はもうだめなのか?」
「何年も経てばいちおう、また育てられるようになるのです。ただ、最近のその頻度が遅くなってきて……」
土地を代わる代わる耕して育てているけれど、それももう限界に近くなってきているらしい。
キッコロ村はそういうわけで、やがて来る完全な不作におびえているのだった。
キール王子もガジさんもうーんとうなっている。
「ミーシェ。原因はわかるか?」
「えっと、たぶんわかります」
わたしがあっさり答えると、みんな驚いた。
わたしは今でこそ聖女と錬金術師の掛け持ちをしているけど、昔は田舎の村娘だったのだ。
農耕の知識は、実はそれなりにあるのだ。
「土の栄養が足りなくなってきているんです」
「栄養……?」
みんな首をかしげる。
「人間の身体みたいに、土地にも栄養が必要なんです」
「まさか、腹が減ったから食事を食わせろって言うんじゃないだろうな、聖女さま」
ガジさんが冗談っぽく言う。
「はい。ごはんが必要なんです」
わたしがにこりと答えると、またみんなは驚いたのだった。
そもそも、どうして畑に種や苗を植えると作物が実るのか考える必要がある。
種や苗育つのは、それらが土地の養分を吸収しているからだ。
だから必然的に、連続して作物を育てると土地は養分を失って枯れてしまうのだ。
「しばらくするとまた育てられるのはどうしてだ?」
「放置している間に、昆虫の死骸や葉っぱが土に混ざって養分になるんです」
「そうだったんですね! さすがは聖女さま。お詳しい!」
「俺たち、今まで親から教えられたとおり動物の糞を混ぜたりしていたけど」
「動物の排泄物も養分になるんです」
「そういう理屈だったんですね!」
「つまり」
キール王子が続ける。
「土地に養分さえ与えれば作物が育つようになるのだな」
「そのとおりです」
「葉っぱ集めてきます!」
「家畜の糞も集めてきます!」
「あっ、ちょっと待ってください」
村人たちが早まって行動しそうになったのをわたしは止める。
「ただ単に葉っぱや糞を混ぜるだけだと非効率です。すぐに元通りにはなりません」
「では、どうしたら……」
「肥料をつくりましょう」
村長に頼んで、村で一番大きな桶を持ってきたもらった。
そこに植物の茎や枝、葉っぱなどを入れ、それから野菜や果物のくずを投入する。
そして水を入れてしっかりと湿らせる。
それから空気が通る穴をあければ堆肥箱の完成だ。
「聖女さま、こんなこのを入れて本当に肥料がつくられるのですか?」
「ちょっと時間がかかりますけどね」
「明日の朝くらいですか」
「えっと、数か月はかかるかと」
「それだと冬になってしまいます!」
「そうですね。ですから――」
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