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町と村の交易:4-1

 ある日のこと。

 わたしとキール王子は荷馬車で隣村のキッコロ村まで行くことになった。


 御者はガジさん。

 わたしとキール王子は山積みにされた野菜に背中を預けて荷台に乗っている。

 わたしたちは売り物じゃないけれど。


 乗り心地はあまりよくない。

 車輪が石ころに乗り上げるたび、結構揺れるからだ。


 年老いた馬だからその歩みは緩やか。

 のんびりと荷馬車は道を進んでいく。

 おだやかな時間だ。


 でも、青空に浮かぶ雲を眺めているのもそろそろ飽きてきた。

 キール王子は目を閉じている。

 寝ているらしい。


 ガジさんもしきりにあくびをしている。


「ガジさん。この野菜って売れるんですか?」

「ああ。基本的にあっちのキッコロ村で全部買ってくれる。まあ、売るっていうか交換だな」

「あまり作物が育たない土地なんですか?」

「いや、そういうわけじゃない。あくまでグリーンヴェイルの町とキッコロ村の交流の一環だな」


 野菜をあげる代わりに、グリーンヴィエルの町はキッコロ村で織った織物をもらうのだという。

 マリーゴールドさんの町長邸に飾ってある織物もキッコロ村から買ったものだとガジさんは言った。


 きれいな柄の織物だったから記憶に残っている。

 てっきり王都で買った高級品かと思った。


「王都で売れば、貴族が高値で買ってくれるんじゃないかな」

「かもしれないが、ここから王都まで行くのは一苦労だからな。それに、あっちのキッコロ村はまだ物々交換が根強いから、それほど金は必要とされてないんだ」


 物々交換が主流とは、かなり田舎なんだね。


 馬車は崖道を歩きだす。

 崖際の狭い道。

 右手は岩肌。左手は崖。


 せ、狭い……。

 車輪が崖際ぎりぎりを通っている。

 少しでも間違ったら崖の下にまっさかさまだ。


 がけっぷちの山道。

 震えるわたしをよそにガジさんは平然とたづなを握っている。

 目を覚ましたキール王子もさすがに驚いていた。


「ガジ。この道で本当に合っているのか」

「ん? どういう意味だ?」

「危ない道じゃないか?」

「安心しろ。落ちたことは一度もない」


 と言った瞬間、突然視界が斜めに傾く。

 同時にガクンッと衝撃。

 野菜の山積みが崩壊する。


「ミーシェ!」


 キール王子がわたしを抱きかかえて馬車から飛び降りた。

 降りてみると、荷馬車の後輪の片方が道を外れて崖に落ちていた。


「悪い悪い。手元が狂った」


 まったく悪びれていない口調だった。


「もー、ガジさん」

「王子さまならともかく、聖女さまなら飛べるだろ」

「飛べないよ!」

「そうなのか? 町の人たち見たって言ってたぞ。聖女さまが空を飛んでるって」


 なにを見間違えたのだろう……。

 危うく命を落としかけたものの、それからしばらくは無事な旅が続いた。


 山道の途中で馬車が急に止まる。

 キッコロ村に着いたのだろうか。まだ山道の途中に見えるけど。

 山積みの野菜の隙間から前を見てみると、そこにはとんでもないものがあった。


「まいったな。これじゃ先に進めないぞ……」


 行く手を遮るように、狭い山道を大岩がふさいでいた。

 落石だ。

 人間なら隙間から無理をして通れそうだけど、馬車はそうはいかない。


「ガジ。回り道は」

「ない。この道だけだ」


 ためしに三人で大岩を押してみるけどびくともしない。

 困ったな……。

 わたしたちは立往生するはめになった。


「聖女さまの錬金術でどうにかできないのか?」

「うーん」


 考える。

 大岩をどかす方法……。

 火薬で爆破――はダメだ。このがけっぷちの道ごと崩れかねない。


「残念だが、引き返すしかなさそうだな」

「そうだな」

「はい……」


 もと来た道を引き返そうとした――そのとき、ひらめいた。


「ひとつ、試してみてもいいですか?」


 地面に魔法円を描く。

 その中心に供物として銀貨をささげる。

 そして魔力を集中させて解き放った。


 蒼い閃光。

 それが収まると、銀貨を犠牲に『それ』は錬成された。


「剣……」

「でかいな……」


 錬金術で錬成したのは剣だった。

 しかも、ただの剣ではない。

 巨人が振るうような、身の丈の倍はある超大剣である。


 一見すると実用性は皆無であるこの剣。

 これが役に立つのだ。


「この剣で大岩を叩き切ると?」

「違います。押すんです」


 三人がかりで剣を持ち上げる。

 そして剣を水平にし、切っ先を大岩の足元に滑り込ませた。

 さらに、剣の下に手ごろな大きさの石を添える。


「シーソーでもする気か?」


 ガジさんが皮肉を言う。


「はい。大正解です」


 わたしは大まじめに答えた。

 思惑どおり、二人ともびっくりしていた。


「剣のもう片方を三人の力で押して、シーソーみたいに岩を持ち上げるんです」

「で、できるのか……?」

「できると思いますよ」


 この仕掛けは遊具のシーソーと違う点がある。

 それは両端の長さ。

 普通のシーソーは両側の長さが均等だけど、これは支点にした石が岩側に寄っていて、わたしたち側のシーソーが極端に長いのだ。


 この不均等が岩を持ち上げる力になる。


「『せーの』で押しますよ」


 三人で剣の柄付近に手を添える。


「せーのっ」


 そして一気に剣に下方向の力を加えた。

 片方が下がれば片方が上がる。

 それがシーソー。


 理論的には正しいはずだけど、やはり相応の力は必要で、わたしたちは全力でシーソーを押した。

 ぐぐぐ、と少しずつシーソーが下がっていく。

 わたしたちの側が押されて下がるのと同時に、岩の側が持ち上がる。


 ぐらり。

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