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盗まれた杯:3-4

 ぷいと顔をそむけたままガジさんは小声で言った。

 ガジさんが黄金の杯を盗んだ動機。

 それは孤児たちに貧しい思いをさせないためだったのだ。


 マリーゴールドさんはそれを聞いて申し訳なさそうな顔になる。


「それならそうと、ちゃんと言ってくれればよかったのに。私は町長よ。教会が貧しい生活をしているのなら予算だって分けられたのに」


 けど、ガジさんは依然として顔を背けている。


「マリーゴールドさん。それはきっと、あなたが黄金の杯を買ったからじゃないでしょうか」

「ど、どういうこと?」


 わけがわからないようすのマリーゴールドさん。


「町の人の金でわけのわからないものを買うようなヤツなんか信用できるかよ」


 ガジさんの言葉を聞いてマリーゴールドさんはがく然とした。

 それも仕方がない。

 ガジさんの言い分もまた、仕方がない。


 これはほんのささいな行き違いだ。

 マリーゴールドさんは町の人のお金を大事に使うために税金を純金に買えた。

 ガジさんはそれを個人的な浪費だと勘違いしてしまった。


 悲しい勘違いだったのだ。

 キール王子が言う。


「ガジとか言ったか。マリーゴールドは税金を腐らせないために、普遍的な価値のある純金を買ったんだ。決して無駄遣いではない。むしろ町のためを思ってそうしたんだ」

「……」


 ガジさんは黙ってしまう。

 たぶん、自分の過ちには気づいたはず。

 意地になってすなおになれないのだろう。


 正しいと思った行動が間違いだったなんて、誰だってすぐには認められない。


「マリーゴールドさん。ガジさんを許してください」

「もちろん許すわ。逆に私が謝らないと」


 マリーゴールドさん頭を下げる。


「勘違いさせてしまってごめんなさい。私の説明不足であなたに盗みを働かせてしまったのは深く反省するわ。あと、教会がお金に困っているのにも気づかなくてごめんなさい」

「……俺のほうこそすまなかった」


 ちらりと横目でマリーゴールドさんを見るガジさん。

 少し心を開いてくれた。


「理由はどうあれ、悪事を働いたのはいけないことだ。初めから極端なことをしないで話し合うべきだった」

「ガジ……」

「聖女さまや王子さまにも手間をかけさせたな」

「んーん。ぜんぜんいいですよ」

「誤解が解けたのなら、結果としてよい方向に進んだのではないか?」

「前向きな意見ね、キール王子」


 こうして黄金の杯盗難事件はよい結果となって解決したのだった。

 黄金の杯はすぐさま正規の方法でオークションにかけられて、落札された金額は全額教会に寄付したのであった。



 ある日の教会。

 わたしとキール王子が子供たちに会いにくると、ちょうどガジさんが子供たちの遊び相手になっていた。

 笑顔で子供たちと遊んでいる。


 顔は怖いけど、本当はやさしい人なのだ。

 そうでなければ子供たちのために盗みなんか働かない。

 この人なりの覚悟があったのだ。


「聖女さまたちも来たのかー!」


 ガジさんがこちらに手を振る。

 わたしも手を振り返した。

 わたしたちに気付いた子供たちもわらわらと寄ってきた。


「聖女さまって本当にすごかったんだな。困りごとをすぐに解決してくれるなんて」

「ああ。彼女は人々を救う真の聖女だ」

「もう聖女っていうか救世主よね」


 ちょっと恥ずかしいけど、称賛はすなおに受け取らせてもらおう。

 お城にいたころはこんな経験、ぜんぜんなかったもの。

 みじめな生活を送っていたあのころが信じられない。


「聖女さま。俺を助けてくれたこと、感謝してるぜ。聖女さまがこの町にいなかった俺は憲兵に捕まって牢屋行きだっただろうからな」

「そういえば、どうして王都まで行ったのに黄金の杯を売らなかったの? 盗品だってバレて買い取ってもらえなかったから?」

「いや、そもそも俺は王都まで行かなかったんだ」


 苦笑するガジさん。


「王都へ行く途中、我に返って、やっぱり盗みはいけないと思い直したんだ。でも、こいつらが腹を空かせているからなんとかしてやりたい、って気持ちも残ってて」

「とりあえず隠したわけだ」

「ああ」

「聖女さまーっ」


 女の子が背中に抱きついてくる。


「いっしょになわとびしよーよ」

「うんっ。今行くね」


 それからわたしたちはくたくたになるまで子供たちと遊んだのだった。



 夕暮れ。

 わたしとキール王子は家に帰ってきた。


「……ふむ」


 キール王子があごに手を添えてなにやら考え込む。


「さっきまでにぎやかだったから、二人きりになるとなんだか物足りないな」

「ふふっ。そうですね」

「子供か……」


 笑みを浮かべるキール王子。


「僕もいつかは子供を持つ親になるのだな」


 わたしは想像する。

 キール王子と結婚して子供ができて、この家で過ごす平和でしあわせな日々を。


 別に聖女じゃなくたっていい。

 特別扱いされなくたっていい。

 ただわたしは、この人とずっといっしょにたい。


「ミーシェは男の子と女の子、どっちが欲しい?」


 そ、それって遠回しの愛の告白!?

 いや、そもそも前に「好きだ」って言われたんだけど。

 期待してもいいのだろうか。わたしの妄想が実現するの。

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