盗まれた杯:3-3
箱の中の空気を魔力が運んで熱だけを外に吐き出し、冷たくなった空気を箱の中に戻す仕組みなのだ。
「店員さんの足元からあったかい空気が出ていますよね。それが吐き出された熱です」
「へー、そうだったんですか」
「ミーシェは本当にかしこいな」
店員さんもキール王子も感心していた。
魔法や錬金術、科学を学ぶきっかけはちょっと思い出したくないけど、それが巡り巡って生活の役に立っている。
世の中なにがどうなるかわからない。
「おもしろい話を聞かせてくれたお礼に、聖女さまにもう一段アイスをあげますっ」
「わー、ありがとうございます!」
今食べているアイスの上にもう一個、アイスを乗せてもらった。
「それにしても、黄金の杯はどこにいったのだろうか」
キール王子があごに手を添えて考える。
「もしかして、まだ売ってないのかもしれません」
「どこかに隠しているということか?」
「盗品は正規の古物商には売れないでしょうし」
裏社会の一端であるブラックマーケットも、ただの田舎町の青年が利用できるとは思えない。
仲介者に頼むとしても足元を見られるに決まっている。
だから売る方法がわからなかった、あるいは思っていたような値段にはならなかったから、いったん隠したのでは。
「となると、どこに隠したか、だな」
「思いもよらない場所でしょうね」
「つまり、ミーシェにも心当たりがないと?」
「……いえ」
もし、この町のどこかに隠すとすれば、あの場所だ。
「ようこそいらっしゃいました、聖女さまに王子さま」
シスターがわたしたちを笑顔で迎えてくれた。
「わーっ、聖女さまだーっ」
「王子さまもいるーっ」
子供たちがわたしとキール王子に群がってくる。
ここは教会。
そしてこの子たちは教会で預かっている孤児だ。
教会に足を運んだのは久しぶりだ。
聖女でありながら神への祈りはサボりがちなのである。
「聖女さま、いっしょに遊ぼー」
「王子さまもー」
「いや、僕たちは今日は――」
「いいよ。遊ぼっ」
わたしがそう言うと子供たちは大よろこびした。
そうしてわたしたちはボール遊びをはじめたのである。
シスターが耳打ちしてくる。
「よいのですか、聖女さま。今日は用事があって来られたのでは」
「いえいえ、いいんです。子供たちと遊ぶの、わたしも好きなんで」
ここに来た目的はいったん置いといて、子供たちと遊ぶことにした。
これも聖女の務めだから。
わたしたち女の子組はボール遊びとなわとび。
キール王子の男の子組は勇者ごっこ。
ちなみにキール王子は魔王役。
「ふははは。世界をほろぼすぞー」
棒読みだった。
陽が暮れて子供たちとの遊びは終わった。
くたくただ。
子供って本当に元気。
「ミーシェ、そろそろ」
「はい。そうですね」
子供たちから解放されたわたしたちは教会の中に入る。
厳かで神聖な雰囲気。
ステンドグラスが美しい。
女神像の下にはさまざまな捧げ物があった。
香炉や燭台、銀の食器。
その中の一つに目的の物はあった。
「まさか、これが……」
「そのまさかです」
無造作に置かれている捧げ物の一つ、銀色の杯。
ポケットから銅貨を出す。
それで銀色の杯を引っかいた。
銀のメッキが剥げ、金色の表面が露出した。
「銀色の塗装をして教会に隠していたとは……」
「あ、ちょっと待ってください」
キール王子が杯に触れようとするのを止める。
「直接手で触れず、ハンカチか手袋を使って持ってください」
「……? わかった」
こうして黄金の杯は見つかったのだった。
「聖女さまステキ!」
感激のあまりマリーゴールドさんが抱きしめてきた。
熱い抱擁。
く、苦しい……。
「まさか本当に黄金の杯を見つけちゃうなんて!」
「泣くな」
「だってこれ、町の人たちの税金で買ったのよ。見つからなかったら私、責任を取って町長を辞する覚悟だったんだから」
「よかったじゃねえか」
不機嫌そうにそう言ったのはガジさん。
「いやいや、よくないわよ。いい加減自白しなさい」
「俺が盗んだ犯人だって証拠はあるのかよ」
「えっと、あるんです」
わたしが即答するとガジさんは目を見開いた。
テーブルの中央には黄金の杯。
メッキが塗られて今は銀色だけど。
「杯の表面を見てください。ここに汚れがありますよね」
杯の表面には指の跡がついていた。
「次に自分の指を見てください」
全員、いっせいに自分の指を見る。
「指に模様がありますよね。渦巻き状の。実はこれ、一人一人、模様が違うんです」
それでガジさんは察したらしい。
「メッキを塗った後に触れて指の跡をつけた人物。それが犯人です」
「ガジ。あなたの指の模様を取らせてもらうわよ」
「……その必要はねえよ」
ガジさんはその場に座り込んだ。
「煮るなり焼くなり好きにしろ」
「大げさね」
マリーゴールドさんがため息をつく。
「あなたは気性は荒いけど、悪人じゃないのは知っているわ。なのにどうして」
「……」
「教会の、孤児たちのためです」
沈黙する彼の代わりにわたしが答えた。
「教会で暮らす子供たちの生活の足しにするために、黄金の杯をお金に変えようとしたんです。ですよね?」
「……あいつらいつも腹すかせてるからな」




