表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/63

ギルド『亡霊旅団』

 放課後。


 帰宅部の俺は、爆速でチャリを漕いで八王子駅から電車に乗って立川で降りると、駅から徒歩十分の所にある()()()先に向かっていた。


 そのバイト先は、俺の親戚一家が経営している会社で、俺はそこで()()()は、事務や力仕事要員として働いている事になっている。


 行きかう人々に紛れて、その喧噪けんそうに揺られながら進んでゆくと、元々はコンビニであった建物を買い取って、回収したのがまる解りな仕事先に着いた。


 配信事務所ギルド亡霊旅団レヴナント・ブリゲイド』(元・立川フィルム)である。


 レヴナント・ブリゲイドは、以前動画制作会社を経営していた叔父さんが、ダンジョン配信需要の爆発的増加に感化されて、六年前に新たに立ち上げた何気に古参の部類に入る配信事務所ギルドだ。


 因みに当時家族は大反対で、ひと悶着あった。


 内装は、叔父さんがファミコン世代な事もあってか、所謂いわゆるそういったゲームに出てくる酒場みたいな感じにDIYされている。


 ここでは、配信の企画・運営のサポート、カメラ等の機材の貸し出しは当たり前。


 ダンジョン探索用の防護服スーツの保管や貸し出し、ゲートまでの送迎、その他諸々を手伝ってくれるのだ。


 勿論、無料と言うわけにはいかない。所属する配信者の広告収益、ダンジョン内で獲得した戦利品を分配して、経営していくからだ。


「よう!若者、暇だからおねーさんと恋バナでもしよーぜ」


 しねーよ――。


 俺が事務所に入ると、このギルドの看板娘で従姉妹の山城千空やましろちあき21歳が、かつてはレジや肉まんとか入ってる四角いアレが乗っかてたであろうカウンターから身を乗り出して、開口一番そう言った。


「――恋バナはしません。と、いうかアンタも十分若者だろうが。俺はこれから配信に行くの。千空さんだってやることあるんじゃないの?」

「おーおーなんだ、なんだツンツンしちゃてぇ。可愛くないぞぉ」


 千空さんは良くこういうことを言う。ダル絡みが好きなのだ。


「――それにさ、ほら見てたっくん。他にはだーれもいない。……今日も一人辞めていきましたぁ」


 ぱちぱちぱち……、と乾いた拍手が事務所内に響く。


「おおう……」


 閑古鳥が鳴くというやつだ。


 とうとうこのギルドは、俺を含め所属配信者が3人になってしまったようだ。


 今やギルドも飽和状態で、配信者の確保も大変なのだ。他にも理由があるのだが、兎に角出入りは激しいのである。


 するとパラララララーラ♪と良く聞き慣れた自動ドアのインターホンが鳴り一人の少女が入ってくる。

 

「あー、登録者数ザコザコお兄さん、来てたんだぁ☆」


 あ”ぁ”ん”――!?


 この事務所の所属配信者三英傑が一人。事務所一の稼ぎ頭、山城姫苗やましろひめな11歳。メスガキである。


「ん、コホン。――いいかい姫苗ちゃん、例え事実だとしても、難しいかもだけど大人の世界では、言いて良いことと、悪いことてのがあってね、姫苗ちゃんも配信者なんだからもっとそういう所をだね――」

「ぷぷー。おにーさんって“りくつ”っぽーい」


 俺がさとすようにしゃがんで言うと、姫苗ちゃんはニヤニヤしながら近づいて来る。


 そして、耳元で


「――でも、いつもお兄さんが頑張ってるの姫苗知ってるよ。かっこいいゾ♡」


 そうささやいた。


 うおおおおおお、姫苗ちゃんマジ天使――!!!


「うっわーwおにーさんマジ泣きしてるぅ。きっもぉ☆」


 そう。そうなのだ――。


 このフリーフォール並みの落差が、我らがレヴナント・ブリゲイドのエース。チャンネル登録者30万人を誇る“姫星ひめな”の持ち味。


 動画配信にストイックな姫苗ちゃんが自然と身に着けた、自分に求められている需要を理解して最大限に生かしつつ、更にそこに付加価値を加えることで生まれた、決して他者の追随を許さない、唯一無二の武器なのだ。まさかアフターケアまでばっちりとは感服の極みだ。


 今までこれ程に、“一粒で二度おいしい”を体現できた人間が居るだろうか、いや居ない――!俺は猛烈に感動していた。


「――ふぅ」

「あ、戻った」


 いかん、いかん――。本来の目的を忘れるところだった。俺は一頻ひとしきり感動して我に返る。


「――千空さん、これから配信しにダンジョン潜るから、カメラと防具借りたいんだけど」

「あいよー。今日はどこ行くのぉ?」

「立川第二ダンジョン」

「せっかくだし私が送ってこっか?」

「あー、それ凄く助かる」

「じゃぁ、道中沢山恋バナしようなっ!」

「姫奈もするー!」

「いや、だから恋バナはしねぇって」


 千空さんは、相当恋バナに飢えているようだった。今度優しくしてあげよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ