硬派なオタクの日常(友人帰還編)
席に戻ると、友人であり同志の水道橋今日也と鷹村力が先に昼食を済ませて、俺の机の周りでたむろしていた。
先時ほどギャル沢達をさんざん非難しておきながら、結局のところ俺達もギャル沢達のように通路をふさぐ形でダベっていた。
只、邪魔となれば場所はすぐに開ける、そこの違いだ。我々は紳士なのだ。
それにこんな教室の隅に用がある奴なんてほとんどいない。
「タツミぃ、災難だったなぁ」
先程の惨状を見ていた弓道部の水道橋は早速、読書を一旦止め、眼鏡をくいっとしてニヤ付きながらいじってくる。
「あれは流石に分が悪かったな。健闘した方だ」
スマホでゲームをしていた薙刀部の鷹村もそれに追撃を加えてくる。
「うっせぇ。お前らは俺が敗走してきたかのように言うが実は負けてなどいない」
俺は、腕組をして先程の醜態を挽回するように堂々と席に着く。
「ほう」
「その心は?」
二人は、ロクな回答が得られないことを分かり切ったという表情で、俺の顔を覗き込んだ。
俺は、サムズアップしながら決め顔で、勝ち誇る。
「去り際に心の中で呪詛を唱えてやった」
「ぶはっ!何それちっちゃwしょうもなwww」
「辰海って本当に、ネガティブ方面に前向きだよなぁ」
二人は、やはりと呆れながら各々がやっていた事に戻っていく。
「む?なんだそれは、褒めているのか?それとも貶しているのか?」
「「いやいや、貶しているだろ」」
そして、綺麗なツッコミが決まる。
「――そんで、イマイチん所にはまた進路のことでか?」
話が一段落すると、水道橋が新しい話題を投下して来る。
「まぁな、Ⅾライバー王に俺はなる!と宣言してやった」
「お前も懲りないやつだな。今市は頑固だぞー、何かこちらにも武器が無いと」
「それについては、既に策を練ってある」
「ほんとかよwww」
先程のギャル沢達との件もあり俺の信用はストップ安だ。
「Ⅾライバーと言えば、昨日の“Ki☆dd”の配信は見たか?渋谷のダンジョン攻略動画、あれ面白かったよなぁ」
「お見た見た、妹と一緒に笑った笑った。拓海はどうよ?」
「ふん、俺はそんなチャラついた奴の配信は見ない!」
嘘だ。
一配信二度は見返す。
チャンネル登録までしている。只、ファンとしてではない越えるべき敵としてだ。
Ki☆ddはⅮライバー黎明期を支えて、今やⅮライバー界の王となった業界のトップランナーだ。
始めこそ純粋なファンとして応援していたが、段々と視聴者獲得のために配信内容は過激になっていき、最近では、迷惑配信者まがいな事ややらせ企画も増えて正直いけ好かない。
最初は地味で陰キャ仲間だと思っていたのに、年々オラついてきて裏切られた気分だ。
ただまぁ、流石Ⅾライバーブームの火付け役ということもあり、配信の仕方や企画進行には、一日の長、学べることが多々ある為、俺はKi☆ddの配信を欠かさずチェックしていた。
なんならファンよりも詳しい自信すらある。
別に掲示板で叩くといった、恥ずべき行為はしないが、ファンよりも詳しいアンチとはこうして生まれていくのだろう。まさに、敵を知り己を知れば百戦危うからずなのだ。
「お!出ましたタクミさんの硬派キャラwww」
「キャラではない、生き様だ」
昔、妹に「おにちゃんって“ぶってる”よね」と、言われたことがある。ぶってるも何も、生まれてこの方この性格なのだから仕方がない。
「――でもまぁ、羨ましいよ拓海は、“魔導紋”を持ってるからなぁ」
魔導紋。
ダンジョン内限定にはなるが、魔術を扱うことができるようになる痣の様なものである。現代のこの世にダンジョンが現れると同時期に、この魔導紋を発現する者が出てきたのだ。
それは、身体のどこかしらに現れ、普段は目立たないが、魔術を使用する時などに光る。
このクラスでは、俺と――、確か豊徳院の野郎が持っている。
以前、クラスの女子にチヤホヤされているのを横目で目撃した。――う、羨ましなんて(以下略
「そうそう、探索者ライセンスを取れば、もういつでも配信者になれるんだろ?――もしかしたら、Ki☆dd越えも狙えるんじゃね?」
「おいおい、そうゆう無責任な事はだな――」
「案外分からんもんだぞ。拓海はたまに謎のミラクルを起こすからな」
「謎って――」
正直、こうゆうのは嘘でも嬉しかった。たまに辛い時などに救われて、感謝する。
こういった仲間がいるのだ。陰キャも中々捨てたものじゃない。
しかし、実はこの二人にも、俺が配信活動をしていることは言っていない。そもそも、ダンジョン配信活動に必要な探索者ライセンスの認証試験が受けられる16歳から、もう一年活動しているが家族にすら知られていない(家族――、もとい、母親にバレると非常にまずい)。
そう、一年続けてチャンネルの登録者が一桁なのだ!……、こほん。登録者が10万人を達成出来たらこいつらにも教えてやろう。はじめから、有名になりかけてから教えて驚かそうと思っていたのだ。