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~sideジェラルド②~


「将軍から『急ぎ兵を率いて帰還します』との返信が届いた」


「将軍にご理解いただけましたのですね。良かったです」


「ああ、それは良い。それは良いんだ。でもね、その文の後に『ですのでシルヴィアだけは!シルヴィアだけはどうかご容赦を!』って文章が続いていたんだけど。シルヴィアって将軍の娘さんの名前だよね?君将軍への手紙になんて書いたの?」


 少なくとも僕は将軍にこんな嘆願をされるような手紙を送っていない。


「なんてと仰られましても。本文を要約しますと『遠征は我々が守るべき国を疲弊させ民に苦痛を与えるばかりです。陛下は将軍に国元でそのお力を発揮することをご所望です。早急なご帰還を私からもお願いします』と」


「ああ、そうなんだね……ん?本文?」


「あと追伸で『将軍の領では底深い沼地が数多(あまた)ございますね。元気な盛りのシルヴィア様が間違えて踏み込んでしまわれたりしないかさぞ心配でございましょう。将軍が領を空けている今、お嬢様が不幸な事故に遭われることを私も望んではおりません。急ぎ帰還しお嬢様の安全を図るのが最善かと』と記したくらいですが」


「それだよ!」


「どれです?」


「追伸の脅迫文だよ!『帰還しなかったら沼地の事故に見せかけて娘を消すけどいいのか』って!」


 こないだ言ってた『その方面からの説得』ってそういうこと!?


「私はそのようなことは書いておりませんが?」


「直接には書いてなくてもそうとしか読み取れないよ!」


「まあ、何てこと。王宮内で権謀術数に明け暮れるうちに在りもしない言葉の裏を疑われるようになってしまわれたのですね。お可哀想なジェラルド様……しくしく……」


 と、ビアンカが露骨にウソ泣きと分かる小芝居を始める。

 自分の強弁を撤回するつもりがないのは明白だ。


 一応言っておくが、僕は王宮内で権謀術数に明け暮れてなどいない。

 ウチの王宮でそんな駆け引きができる奴は数えるほどしかいないし、数少ないその手の人材もほとんどビアンカのコントロール下にある。


「まあ、勘違いとはいえ結果良し、ということですわね。将軍が帰還されました際に誤解を解けば済むことです」


 ケロリとウソ泣きを止めたビアンカがそんなことを言う。実際望んでいた結果なので文句も言えない。釈然としないものが残るとはいえ。


「将軍の説得に助力してくれたことは感謝するよ、ビアンカ」


「畏れ入ります……あら、陛下?お顔の色が(すぐ)れないようですが?」


 今回の件が解決したことで、また一つ発生するであろう問題について懸念してしまったことを気取られたようだ。

 まったく、ビアンカに隠し事はできないな。


「いや、今回の件で拡大派の反発もまた強くなるかと思うとね。彼らにしてみれば僕は正しく『失地の無能王』なんだろうさ」


「……私は『傾いた国家を立て直した賢妃』として名を残す予定です」


「うん?それはさっき聞いたけど?」


「なので、その夫であるジェラルド様も『無能王』などと呼ばれるようなことにはさせません」


 自信に満ちた彼女の台詞と笑顔にしばし呆けてしまったあと言葉を返す。


「……あ、えーと、ま、まあ、僕もそう呼ばれないよう努力するよ。じゃあ、僕は戻って政務に続きに取り掛かるよ。ある程度整理が付いたらまた相談に来るから」


「整理がつかなくてもいつでもいらしてくださいな」


 ビアンカのその言葉に「考えとくよ」とおざなりな返事をしかけたがふと気が変わった


「……そうだね、日に1度くらいは顔を出すよ。君を放っておくと何やらかすか分からなくて不安だし」


 こちらに毎日顔を出すことにした理由が本当に彼女の言動への不安からなのか、彼女が浮かべた満面の笑みに心が動かされたからなのかは僕本人にも分からなかった。


 ◇◆◇


~sideビアンカ②~


 ジェラルドの退出後、ふたたびビアンカは机に向かった。


「ジェラルド様に不安を抱かせるようではいけないわね。もっと頑張って仕事をこなさないと」


「ビアンカ様、恐らくそういうことではございません。陛下が不安と仰ったのはビアンカ様の『仕事の進捗』ではなく『手段の選択』かと」


「その都度結果を出して『その手段を選択するしかなかった』と納得いただければいいのよ」


 こうしてその後も『ジェラルド』と『国民』を愛し過ぎるビアンカの暴走は続いていくのだった……


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