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~sideジェラルド①~
僕の名はジェラルド。つい3ヶ月前に21歳で、父である前国王の急逝によりクラバル王国の王位を継いだばかりの国王だ。
で、現在そのクラバル王国の状況は、ここを乗り切れるかどうかで国の存続が決まる瀬戸際にあると言っていい。
原因は前国王にある。
僕の母である王妃が亡くなった2年前から、前国王は領土拡大の野心へのブレーキが利かなくなってしまったらしい。
東の隣国であるカントネア公国を大公が亡くなった機会に乗じて支配下に置いたかと思うと、自らは西のバルド国に出兵してその一部を占領する一方で、北のミトーリア国に向けてガンビーノ将軍を派兵した。
そんな前国王にひとこと言いたい。
「お前はアホか!?」
ウチは元々人口50万くらいしかない小国なんだよ!併合した元公国領も安定してないのに二正面で戦争吹っ掛けるって何考えてんだ!
伸びすぎた補給線は遊撃部隊や野盗に襲われ、食料や兵器は焼かれ盗られまくる。
バルド国を挟んで西に位置する大国ギルモア王国からも睨まれる。
とにかく一気に治める領土が広がり過ぎて持ち込まれる諸々の内政問題も処理しきれない。
元の自領を管理するので手一杯なんだよ!
……といった問題が表面化する前に前国王はポックリ逝ったわけだ。逃げ切りやがったあの前国王……
幸いだったのは前国王が内政を放り出し、王太子の僕にも従軍や遠征をさせたため(僕が死んでも弟2人がいるので後継者はどうにかなる)、僕の婚約者であるビアンカが思う存分手腕を振い、国内を掌握してしまっていたこと。
また、カントネア公国は大公急死のどさくさに支配下に置き、北の遠征は国境の砦でにらみ合い、西のバルド国はこちらに近い集落をあっさり捨てて首都に立てこもり、ということでどこも戦闘がなく、我が国は勿論、他の関係国も人的被害がほとんど出てなかったこと。
そして貴族たちも「領土拡大してもむしろマイナス面の方が大きい」ことに気付いて「これ元の小国に戻った方が良くね?止めるなら本格的な被害が出る前の今じゃね?」という雰囲気が蔓延したこと。
それらの理由から前国王が亡くなった後、一気に方針転換して周辺国との和平へと舵を切った僕にビアンカをはじめ、弟たちも家臣も貴族も協力してくれた。
ただ全員が僕の方針に賛成してくれたわけではない。その筆頭が北に派兵されたガンビーノ将軍だ。
ちょうど前国王の死亡直後にガンビーノ将軍から兵糧補給を依頼する手紙が来たので、前国王の訃報と併せて『兵糧は送れない。急ぎ帰国するように』との返信を出した。
そう、“送らない”のではない。“送れない”のだ。
我国とミトーリア国との間には山脈とまでは言わないものの結構広い山岳地帯が広がっている。
ガンビーノ将軍が攻撃している砦はその山岳地帯を超えた向こう側。
そんな所に辿り着く前に補給部隊自体が運んでいる兵糧を消費しきってしまうのだ。
じゃあより戦場に近い所から補給しようにも、そんな場所はガンビーノ将軍率いる戦隊が進軍する際に接収できるものは接収し尽くしてしまっている。
と、いったことを計算式などを交えて詳細に説明した手紙を送った。
そしてガンビーノ将軍から帰ってきた返事は
『今こそ悲願達成への踏ん張り時!砦は間違いなく落とせます!なにとぞご英断を!』
といったものであった。
……いやお前最初の『兵糧は送れない』しか読んでないだろ!10歳児にも分かるようにと懇切丁寧に説明書いた僕の苦労を何だと思ってるんだ!
そんなわけで理詰めの説得は諦め、『兵糧は送らん!さっさと帰ってこい!』とだけ書いた手紙を送ることにした。
さすがに本格的に飢える前には帰ってくると思ったが、確信は持てなかったのでビアンカに相談した。
「でしたら伝令には私からの手紙も持たせます。将軍は私も面識のあります一人娘のシルヴィア様を溺愛されておりますので、その方面からの説得も試みましょう」
とのことだったのでビアンカにも一筆お願いすることにしたのだけれども……