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24「やられたらやり返せッ!?」

 

「生徒は五人。二人一組で課題を進めるのなら一人余ってしまうのでは?」


 テルマの疑問にテイン先生はさらりと答えてくれた。


「クランツ君とスターン君は同じ土属性です。魔力の習熟度もちょうど同程度ですし二人を一セットとしてそこにクラウディウス様を加えた三人一組で課題に取り組んで頂きたいと思っています」


「土属性……」とテルマは呟いた。


 耳ざとい兄弟が「ひッ」と息を呑む。


「土属性がどうかしましたか?」


 先生に問われたテルマが「いえ。何でもありません」と首を横に振る。


 つい先日、テルマは「聖属性の魔力は女性にしか宿らない」という間違った俗説を専属メイドのロウセンに正された。その際にテルマは「火属性の女性」や「土属性の男性」も見た事が無かったと回顧していたが――。


 ……真実は意外と近くに潜んでいるという事かしら。きっと違うわね。わたくしが何も見ようとしていなかったというだけの話ね。


 恥じ入る気持ちをテルマは真摯に受け止める。


 そんな謙虚さが胸にあったせいか、テルマはこの日――グループ授業の初日は特に何の問題も騒動も起こさずに過ごす事が出来た。不本意ながらペアを組まされているホラティオ・レイショホーに苛立ちを覚え過ぎたりもせず不快感や嫌悪感から過度に攻撃的な振る舞いをしてしまったりもしなかった。


 ホラティオが地面に置いた「火」にテルマが「水」を当てて打ち消す。


 テルマが宙に浮かせた「水」にホラティオが「火」を当てて打ち消す。


 二人は無言でそれらを繰り返した。延々と。何度でも。


「……地味過ぎるッ!」


 ホラティオがその赤い髪を苛立たしげに掻きむしったのは二日目の授業中だった。


「わたくしの番ですわよ。早く『火』を出しなさいな」


 初日に引き続いて心穏やかにテルマは課題に取り組んでいた。


「なあ。これって本当に効果あんのかな?」


「あなたの番ですわよ。早く『水』を消しなさいな」


「消すけどよお……。何か実感とかあるか? 魔力の扱い方がちょっと分かってきたとか。そろそろ魔法が使えそうだなあとか」


「堪え性の無い男ですわね。一日や二日で成果が出るなら誰も苦労はしませんわよ。そんなに簡単なら皆が魔法を使えるようになっていますわ」


「そうかもしれねえけどさあ……こんなのハイリスクでもハイリターンでもねえじゃねえかよ。はぁ~……。……単純作業は苦手なんだよ」


 ホラティオは「……なあ」とまるで面白いイタズラでも思い付いてしまったというような顔をしてテルマに囁いてきた。


「効率を上げてみようぜ。もっと大きな『火』と『水』でさ。――どかーん! と」


 テルマは「はあ……」と分かり易い溜め息を吐いてやった。


「そんなにリスクを高めたいなら――」


 次の瞬間、ホラティオを取り囲むように無数の水柱が立ち上がる。高さはちょうどホラティオの肩程度だった。


「――お一人でどうぞ」


 ほぼ全ての水柱がホラティオに触れるか触れないかの距離に立っていた。


 魔法未満の魔力は物理的影響力こそ無いものの人体で触れれば精神的なダメージを負ってしまう。


 ギリギリの距離だ。ホラティオは身動きが出来ない状態にあった。下げている腕をただ持ち上げる為の隙間すらも無かった。


「……やってくれたな」


 ホラティオの額に冷たい汗が浮かぶ。


「イメージを固める練習だってのに水柱なんか立たせやがってよ。どんなイメージをしたら『火』で水柱を蒸発させられんだ」


「マグマでも出せってか。おい」とホラティオは笑っていた。


 諦めや呆れや自棄の笑いではなかった。ホラティオ・レイショホーは冷や汗をかきながら嬉しそうに楽しそうに笑っていた。まるで「わくわく」しているようだった。


「――おらぁッ!」


 気合い一発。ホラティオは体のあちこちから「火」を噴き出させると見事、水柱の多くを打ち消してみせた。全てとはいかないところが御愛嬌だった。


 しかし。ただ「打ち消した」だけ。テルマの魔力とホラティオの魔力がぶつかって相殺された、もしくは片一方が打ち勝っただけの事だった。


 これでは、先にホラティオ自身も言っていたように「イメージを固める練習」にはなっていないように思われた。


「お返しだ」


 ホラティオがテルマに向けて、拳大の「火の玉」を投げて寄越す――とは言っても剛速球が投げ込まれたわけではなくて、あたかも水面に浮かんだ落ち葉が波紋に押し流される程度の緩い勢いでふわふわと宙を漂ってくるだけだった。


「ちょっと――」


 テルマは自分の前方に「水」のカーテンを引いた。


 イメージは「滝」だ。


 漂ってきた「火の玉」が「滝」に飲まれる。


「滝」に触れたその瞬間――「火の玉」はその場で綺麗に打ち消されたが、テルマの思い描いた光景は「舞い込んできた異物が滝壺に落ちて藻屑と消える」といったものだった。


「――危ないわね」


 テルマの抗議はしかしホラティオに「はははッ」と軽く笑い飛ばされてしまった。


「ちゃんと手加減してやったじゃねえか。さっきのお前の方が危ねえわ」


「手加減……?」とテルマは眉を歪めた。


 ……わたくしの「水柱」を「危ない」と言っておいて、自分が出した「火の玉」は「手加減」……? ……普通「お返し」は同等のモノを差し出すのではなくて?


 別にテルマは「本気」で「水柱」を立てたわけではなかったがそれでもそれなりの魔力を注いだつもりではいた。


 その「お返し」が「手加減」された「火の玉」となると……――テルマェイチは、ホラティオ・レイショホーに酷く見くびられているような気持ちになってしまった。


 率直に言って非常に不愉快だった。


「……わたくしの『危ない』は、あなたの『手加減』で相殺される程度だと……?」


「あ……? ……何言ってんだ、お前……?」


 ホラティオは首を傾げた。


 テルマの目にはとぼけているようにしか映っていなかった。


「…………」


 テルマの「心穏やか」はそろそろ限界を迎えようとしていた。……早いと見るか、それともよくもった方だと見るべきか……。


「……先程のわたくしは少し『手加減』が過ぎていたわね」


 言いながらテルマはホラティオの顔を指差した。


「ん? 後ろがどうした?」――と振り返っている最中のホラティオのすぐ目の前を一条の「水のライン」が通り過ぎていった。……振り返っていなければホラティオの眉間を貫いていただろうコースだった。


「な……ッ!?」とホラティオは目を見張る。


「あら。『水鉄砲』も御存知で無いの?」とテルマは目を細めた。


「……てめえ」


 奥歯を噛み締めながらもホラティオの頬辺りは喜んでしまっているように見えた。


「言い度胸だ……――ぶっ殺すッ!」


「怖い怖い。そのような危険は排除しておかないと。夜も眠れませんわ」


 傍目にも「強め」だと思われる魔力の撃ち合い――及び打ち消し合いが始まった。


 その光景を眺めながらフォーブラス・テイン先生は、二人の暴走行為を止めに入るどころか容認――いや、まるで推奨でもするかのように「ほっほっ」と笑っていた。




「……すごい。きれい。さすがはお姉さま」


 クラウディウスが呟いた。その目は姉テルマェイチの華麗な魔力さばきに奪われていた。


「わたしも――」


「――ぼ、僕達は言われた通りに頑張りましょう」


 意気込もうとしたクラウディウスの出鼻が見事に挫かれた。振り向くとクランツとスターンの二人共が首を横に振っていた。ぶるぶると物凄い勢いだ。


「あの……首が取れてしまいませんか? そんなに強く振っていたら」


 クラウディウスが心配をすると、


「きょ、恐縮です」


 二人は振っていた首を今度はぎゅっと深く縮める。


 クラウディウスは、


「……そうですね。はい。言われた通りに頑張ります」


 少しだけ考えた後、二人の言葉に頷いた。




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