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16「落ちるに抗う術は無し」

 

 学園における魔力の授業は全てその場で行う実技形式であった。


 理論や知識を学ぶ講義を事前にしない理由は、されたところで意味を為さないからだと言われていた。


「意味をなさない……んですか?」


 クラウディウスが身長差のあるテルマの事を軽く見上げてくる。可愛い。


「そもそもが魔力の操作は非常に感覚的で他人には説明をしづらい上に、個人個人でその感覚にも種類があるというのか、大きな違いがあると言われているわ」


「そう言われると。魔力のあれこれって言葉で説明するのはムズカシイですね」


 クラウディウスが「…………」と少しだけ黙った後に「ふふふ」と小さく笑った。


「……どうかしたのかしら?」


「あ、いえ。あの……昔よく『魔力の使い方を教えてほしい』て言われて。教えようとはしたんですけど。自分の事なのにわたしよく分からなくて。他のヒトにちゃんと教えられなくて。皆には『イジワル』だとか『頭が悪いから自分の事も分からない』とか言われてたんですけど。学院の先生でもそうなんだなあって思ったら。わたしにできるはずなかったなあって。ちょっとおかしくなっちゃいました」


「クラウディウスは『イジワル』でも『頭が悪く』もないわよ」


 テルマは可愛い「妹」の頭を撫でてやる。今の発言の中にあった「皆」が具体的に誰と誰と誰なのか知りたい気持ちにもなったが、それをクラウディウスに尋ねる事で嫌な記憶を思い起こさせる事も避けたかったし、それが誰なのかを知ってしまったらテルマの方こそ「イジワル」になってしまいそうで――止めておいた。自制した。


 テルマに頭を撫でられたクラウディウスは、


「えへへ」


 と天使もかすむであろう笑顔を見せた。……この子のどこを見れば「イジワル」だなんて言えるのか。腐ったお目々は取り替えた方が良いと思う。そのお手伝いをしてあげたい……――危ない危ない。ちょっとだけ思考が「イジワル」に寄ってしまっていた。話を戻そう。


「だから魔力の授業は実技――というか『ぶっつけ本番』なのよ。先生が『見守っている』というよりは暴走が無いように『監視』してくださっている中で、自分なりに色々と試して魔力の操作を感覚で覚えるのよ。勿論、アドバイスはくださるけれど」


 先生からのアドバイスがそのまま役に立つという事はまず無かった。


「鳥が空の飛び方を泳ぎたがっている魚に教えようとするようなもの」とは昔の学院教師が日誌に書き残していたとされる言葉だ。


 何かのヒントにはなるだろうが、耳を傾け過ぎれば邪魔にさえなってしまう。


「勉強になるのは先生のアドバイスよりも同ランクの他の方達の魔力操作かしらね。自分と近しいレベルの人間が魔力を扱う姿を見て、感覚的に覚えるしかないのよね。自分の目で見て何かを感じて。捉えて。それを自分なりに実践する――とは言ってもあなたは本来もっと上のレベルだもの。わたくし達の魔力操作を見ても勉強にはならないでしょうし、勉強の必要自体も無いのかもしれないわね」


「えっと。でも。魔力の授業は受けたいです」


「ふふ。それはそうよ。一緒に受けて頂戴。一緒に授業を受けながら、やり過ぎず、やらな過ぎず、監視の先生にも本当の実力を隠し通すのは大変よ? 頑張って頂戴」


「はいっ。頑張りますっ」とクラウディウスの笑顔が弾ける。


 無垢な子供を真っ黒な「悪」の道に引きずり込んでしまっている――そんな自覚がテルマにはあった。非常に気が引けると同時に、二人だけの秘密を共有している事によるものだろう高揚感や連帯感のようなものが湧き上がる。


 ああ。やはり。自分には「悪」の素質があるのだと再確認する。このような状況でわくわくなのかどきどきなのかテルマの心は弾んでしまっていた。


「ああ。だから属性が違くても同じ授業を一緒に受けられるんですね。良かった」


「そうね。よく分かってるじゃない。ほら。あなたは頭も悪くないのよ」


「えへ。えへへへ」


 ……二人きりだ。ロウセンかせめてキルテンでも居れば、もう少しくらいは外面も固められただろうが。テルマの頬は緩みっ放しだった。これでも「姉」然とした顔を保とうとはしているのだが。クラウディウスの「攻撃力」はテルマ単体の「防御力」を優に上回っていた。


 テルマだけではとてもじゃないが防ぎきれない。これもある意味、クラウディウスの「魔力」か。強大だ。「中の上」どころか「上の上」のそのまた「上」ランクだ。


「……お姉さま?」


「大丈夫よ。何でもないわ」


 いま、この場に限ってはロウセンもキルテンも居ない。二人は遅い昼食中だった。


 実技服に着替えたテルマとクラウディウスに付き従って屋外演習場にまで来た後でまた二人は食堂へと戻っていっていた。今は実技の授業が始まる直前の準備時間だ。


「……久しぶりの実技でちょっと緊張してしまっているのかしらね」


 首や肩を軽く回しながらテルマは誤魔化す。本当はクラウディウスの可愛らしさに当てられてしまっていただけだった。ついでに言えば「……お姉さま?」と心配がるクラウディウスもまた可愛らしかった。


 仮にテルマが「緊張」をしているとしたらその理由はクラウディウスと二人きりだというこの状況のせいだろう。……いつの間にか。どんどんと深みにハマっていってしまっている気がする。


 ――助けて、ロウセン。


 堕ちていくテルマの中にまだ少しだけ残っていた「良心」的な何かが叫んだ。




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