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11「『完全再現』と書いて『オリジナル』と読む」

 

「それでは次の方――」と口を開いた教師が誰かを指名するよりも先に、


「はい」


 クラウディウスは楚々と小さく手を挙げた。


 それは普段の、元気な所がまた可愛らしいクラウディウスらしくはない仕草だったかもしれないが、養子ながらも自分はアムレート公爵家の人間であるという事を強く意識した手の挙げ方であった。……お姉さまに恥をかかせるような事はしないようにしないと。


「ん?」「誰だ?」「手を挙げた?」と向けられた皆からの視線を全身で感じながらクラウディウスは半歩、前に出る。


 実技のクラス分け試験もそろそろ終了に近付いていた。この試験に対してや何事に対してでも積極的な方々は前半の内にさっさと自分の番を終えていたし、今も残っている方々は教師の方からの指名を大人しく待っているような生徒達ばかりだった。


 そんな中で急に立候補をしたクラウディウスは、


「はい。では。そちらの女生徒の方。どうぞ」


 誰に邪魔される事も無く望んだ通り試験に挑む事を許された。


 むしろ「さっきの後にやるのはちょっと」「自分が魔力を操れない事は分かってるけれど。それでも『中の上』の後で『ランク外』を言い渡されるのは……」と試験をまだ受けていなかった方々は皆、腰が引けてしまっていた為、「はい」と不意に挙げられたクラウディウスの華奢で可憐なその手には助けられたような思いであった。


 が当然そんな思いになどクラウディウスは気付いていなかった。気にしていない。気にしてなんかいられなかった。


「さっき」の記憶が鮮明に残っている内にクラウディウスは試験に挑みたかった。


 すぐに。さっさと。今すぐ。試験に取り掛かりたい。でも。貴族らしい優雅な振る舞いを忘れてもいけない。


「クラウディウス・アムレートです」


 スカートの裾を軽くつまみ上げてふわりとお辞儀する。


「素敵……なんて可愛らしい」「アムレート? 公爵家の?」「アムレート公爵家の一人娘は俺よりも年上だった覚えが」「養子ですわね」「……うつくしいな」などと軽くざわめかれはしたがそれらの中に「聖女」や「聖女候補」の単語は無かった。


 テルマが以前に考えていた通り「養子だから聖女候補」とは至らないらしい。


 ただクラウディウスがアムレート公爵家の人間だという事は理解されている。


 クラウディウスもアムレートを名乗ったからには背筋がより伸びる。


「では。失礼いたします」


 優雅を心掛けながらクラウディウスは硝子球に左手を置いた。利き腕ではない方の手を使う事で生まれる適度な無作為さが見る者に神秘的な印象を与えるのだとクラウディウスは専属メイドのキルテンから教わっていた。


 ――硝子球は思っていた以上に冷たかった。


「おおおおおッ!?」と皆が声を上げる。


 硝子球は白く輝いていた――が、またもや弱々しい光だった。


 クラウディウスは幼子を癒やしたときのようにやさしくやさしく魔力を流し込む。……さっきの赤い光もこれくらいの強さだったはず。大丈夫。ここまでは同じように出来てる。


「真っ白な……聖属性ですね。これはまた素晴らしい。あなたも『中の――』」


 判定係の教師に「――中」と言われてしまう前にクラウディウスはその硝子球から溢れる白い光を動かした。先程に見た赤い光の揺らめきを真似して、ゆらゆらと揺り動かす。……うん。我ながら上手に真似できた。完全再現だ。


「おおーッ!」とまた周囲の生徒達から歓声が上がる。


 これで大丈夫だ。わたしも「中の上」だとクラウディウスは公爵令嬢然とした顔のまま、心の中では得意満面な笑みを浮かべていた。浮かれていた。浮ついていた。


 だから、


「…………」


 と判定係の教師が黙りこくってしまっていた事に気が付いていなかった。


 数秒後。教師はブツブツと呟き始める。


「……これは一体……。聖属性の光で火属性の揺らめきを……? しかも片手で」


 教師の異状に気が付いたクラウディウスは耳を澄ました。……え? 「片手」? それが何か問題なの? 両手でやらないとダメだったのかな。貴族としてのマナーに反しちゃった……?


 クラウディウスは今更ながらきょろきょろと周囲に居た他の生徒達の顔を見る。


 もしかして皆、両手でやってたの? 片手はわたしだけ? どうしよう。わたしはクラウディウス・アムレートなのに。失敗しちゃった……?


 他の生徒達の試験中、ずっと硝子球には注目していたクラウディウスだったが逆に言えばそれしか見ていなかった。さっきの少年が試験の結果に異議を唱えて、追試のようなものに挑戦していた場面は勿論、見ていたのにも関わらず、そこで彼が両手を使っていた事は気に留めていなかった。


「これは『上の中』……いや。一度『上の上』で見てもらった方が良いのでは」


 イヤな単語が聞こえてしまった。……どうしてだろうか。前のヒトと同じ事をしたつもりだったのに……失敗してしまったっぽい……と思ったら今度は「上」だとか。めまぐるしくて、わからなくなる……。……頭がぐるぐるしてきた。


 やだ。やだ。いやだ。「上の中」はいやだ。「上の上」はもっといやだ。わたしはお姉さまと同じ「中の上」がいい。


 お姉さまと一緒に実技の授業を受けたい。お姉さまもそう言ってくれていたのに。




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