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10「魔力習熟度ランク『中の上』」

 

 学院の入学式に参加していた生徒は新入生だけだった。お姉さまのテルマェイチやオフィールといった在校生達の姿は無かった。


 教会の礼拝堂よりも広い場所に沢山の数の新入生達とそれよりは少ない数の大人のヒト達が居た。


 正面の高い壇上に立った偉い大人のヒトから学院の崇高な理念を聞かされて、また別の偉い大人のヒトから祝辞を賜った――がその言葉の意味が「おめでとう」なのか「よかったね」なのか「えらいね」なのかは良く分からなかった。


 とりあえず、胸を張れば良いらしいけれど……クラウディウスにはまだおっぱいが無かった。胸を張れば張っただけ、逆に貧相が際立ってしまうんじゃないだろうか。どうしよう。貴族らしくと言われた矢先に貧相な所を見せ付けてしまったら怒られてしまうかもしれない。自分だけが怒られるならまだ良いけれど。お世話になっている公爵家やお姉さまには迷惑をかけたくなかった。どうしようかな。


 クラウディウスがそんな事を考えている間に入学式は無事、終わってしまった。


 式の後、彼らもまた貴族である教師達の指示に従って新入生達は講堂から中庭へと移動した。


「事前に聞いている方も多いでしょうが。これから実技の授業を行う際のクラス分け試験を受けて頂きます。試験というよりは検査のようなものですので。気負わずに」


 その内容は赤ん坊の頭くらいの大きさの透明な硝子球に手を置くだけという単純で簡単なものだった。


「あれ……?」


「……何も起きないな」


「まあ……そうだよな。知ってた」


 大概の生徒は無反応でまたそれが普通でもあった。


「きゃッ!?」


「ひか……ったか? いや。光ってないか? どっちだった?」


「ほら。ほら。ほら。光ってるだろ? 光ってるよな? はっはっは」


 硝子球が少しでも光れば大したもので、光った生徒達はその光量や光り方を参考に細かく分けられる。元から少ない合格者を更に振り分けるのだ。実技の授業は習熟度別の少人数制であった。


 それだけ重要で且つ難しい授業だという事でもあった。それは教わる方にとっても教える方にとってもだ。


「……ちッ」


「自己管理が完璧ならば魔力は決して漏れ出ないという説もある」


「わたくしは大器晩成型だと父からも母からも言われておりますので。今はまだ」


 すでに半数以上の新入生が試験を終えていたが設置された硝子球はまだ十回も光っていなかった。例年通りか不作か豊作か。今のところ合格率は一割未満だった。


 そんな中、


「おーッ!?」


 一人の試験結果に一際大きな歓声が上がる。


「すげえ光ってるな!」


「これは……認めざるを得ない」


 その手が置かれた硝子球は明らかに輝きを放っていた。とは言っても直視できないほどの強い光ではなかった。


「赤い光だ。てことは火属性か。いいな。カッコ良い」


 周囲に褒めれたその男子生徒は、


「へへッ」


 と得意気に微笑んだ。マッドな赤髪に赤目で素朴な印象の少年だった。


「大変良く出来ました。ランクは『中の中』ですね」


 判定係の教師が言った。


「おーッ。すげえ。いままでで最高ランクだ!」と見ていた生徒達は称賛したが、


「ちょちょちょちょっと待ってくれ――ください」


 当の少年は慌てた様子で教師の方を向く。


 ……その言葉遣いは貴族歴まだ半年のクラウディウスと比べてもなお未熟だった。もしかしたらこの少年も養子で、しかもほんの二~三日前に「貴族にしてもらった」ばかりなのかもしれない。素直なクラウディウスには他家ではアムレート公爵家ほど貴族教育を徹底していないのかもしれないとの発想は無かった。


「どうかしましたか?」


 対照的に教師の口調や態度は穏やかだった。穏やかなままだった。


 まだ学院の初日だという事もあったりして少年の貴族らしからぬ口調は大目に見られたのだろうか。完全に受け流されていた。


「師匠には『中の上』だろうって言われてるんだ、です。『中の中』にされたら俺がサボったみたいに思われる。困る。ぐうたら師匠に同類扱いされたくない」


「そう言われましても。こちらの結果ですと……――ん? 『師匠』とおっしゃいましたか。成る程。『師匠付き』でしたら。もしかして魔力を動かせたりしますか?」


 教師に問われた少年は、


「あーッ!」


 と大きな声を上げた。


「そうだ。そうだ。そうだった。やるの忘れてた。ちょっと待ってくれださい」


 言いながら少年は右手を置きっ放しにしていた硝子球に急いで左手も乗せた。


 ――……それからたっぷり数秒後。


「ほお」と教師が感嘆の声を漏らした。


 さっきまではただ放たれていただけだった硝子球の赤い輝きが今はゆらゆら……とかすかに揺れている――ようにも見える。もしかしたら気の所為かもしれない。


「ど、どうだすか?」


 額に汗を浮かばせた少年が教師の顔を見る。――少年が硝子球から目を離した次の瞬間にはもうその揺らめきは完全に停止していた。


「素晴らしいですね」


 教師は笑顔で称えた。


「じゃあ……」


「これならば確かに『中の上』ランクですね」


「――おしッ」


 と少年は硝子球から離した手を強く握った。赤い光は少年が硝子球から手を離した瞬間に消えていた。少年は肩で息をする。


「…………」


 クラウディウスはずっと見ていた。じっと見ていた。


 全部を見ていた。見るだけ見ていた。「おー」とも「あー」とも言わなかった。


 ……今のが「中の上」。お姉さまと同じランク。


 わたしも今のと同じ事をすればお姉さまと同じ授業を受けられる。


 クラウディウスは真剣が過ぎる面持ちで硝子球を見据えていた。




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